「(原作ファンの意見です)脚本は悪くないと思いますが」赤羽骨子のボディガード 山家さんの映画レビュー(感想・評価)
(原作ファンの意見です)脚本は悪くないと思いますが
実写化決定前から原作を読み続けていた原作ファンです。
まず、演者について。
この映画の中で一番活躍してたのは寧役の髙橋ひかるさんだった気がします。
澄彦はプロモーションではメインでしたが映画では途中の離脱で出番消失しましたし、威吹はボコボコにされるシーンもほどほどにありましたし、正親も良い見せ場を貰っていたとは思いますが出ない時は全く出ません。
寧は最初から最後までキレのある空手を披露してくれて、骨子との心温まる友情シーンがあり大活躍でした。
3年4組で2番目に活躍していたのは大叢井役の木村昴さん。寧と並んで結構出ますね。
3年4組で3番目に活躍していたのは迅来役の戸塚さん。一度は不意討ちで負けた相手に不意討ちでリベンジするという最高の機会を与えられます。
3年4組で4番目に活躍していたのは千坂役の坂口さん。戦闘特化では無い変装家なので出番もそんなに無かろうと思っていましたが、たまにお友達をどついてみたり、クライマックスでは何故か威吹と並んでラスボスと対峙するという大役を任せられます。
この3人はいずれも演者本人が濃いキャラをしていますね。
日暮役の山本さんはさぞかしご活躍のことだろうと思っていましたが意外や意外。確かに活躍はされていますが上記のキャラと比較すると印象が薄いです。苦戦しないから印象に残りづらいのかもしれません。
キャストの中では正親役の土屋さんが群を抜いて有名かと思いますが、思っていたほどメイン感は無くて意外でした。
登場人物の外見について。
原作の外見をそのまま再現しようとしているせいか、寧役や孔蘭役の髪に違和感がありました。いかにもウィッグを被っているような浮き感です。
BGMについて。
歌唱入りの曲が代わる代わる流れていました。
キャスティングについて。
高校生役なのに平均年齢が高いです。最高40歳とは驚きです。
しかし、キャスティングへの不満など些末な問題だったのかもしれないと映画を見た今は思います。
物語について。
良い点から。
3年4組全員の見せ場は原作と比べ物にならないほど丁寧に描かれています。
メンバーそれぞれの個性を活かした戦い方というのが出来ていました。脚本家の方の愛を感じます。
シャッターが上がってから一人ずつ紹介していくところにワクワクしました。
アクションも特に問題もなく見られました。
編集時間が少なかったはずですがちゃんとしていますね。
以下悪い点になります。
物語は原作にあった話でさえ会話も演出もほぼアレンジされてる。その他は大体実写オリジナルです。
原作を忠実に再現してくれている実写映画だったならば細かいところの差異が気になって不満しか残らなかったでしょう。しかし実写版赤羽骨子のボディガードは原作と話が違い過ぎて逆に自分の知らない作品を見ているような気分ですんなり楽しめたといったところでしょう。かといってこれは全くもって褒められたことではありません。
まず、物語の根幹となる設定から原作と異なります。
赤羽骨子は、ヤクザ組織の組長尽宮正人の隠し子でしたがその存在が組織のメンバーに知られたために跡目争いに巻き込まれ命を狙われることになります。
しかし、実写版では赤羽骨子の父親はヤクザ組織の組長ではなく国家安全保障庁長官という、ヤクザとは対極の人間に変更されています。
尽宮正人の子供の尽宮正親は、跡目争いの邪魔だったからという理由で骨子の命を狙います。だからこそ呆気なく手を引きました。骨子を殺そうとしたことが父親にバレたために破門にされ、骨子を殺す意味をなくされたために無害になりました。
しかし、実写版の正親は正人と骨子を恨んでいます。どれだけ努力しても見向きもしない父親に憎悪し、自分とは違い父親からの寵愛を一身に受ける骨子に嫉妬して骨子暗殺に乗り出します。
破門にされたわけでもないのに、告白を断られただけで取り乱します。(父親に)カードも止められるなどと父親との確執を抱えた正親が軽率に言っていい台詞なのか疑問です。正親が取り乱すシーンは原作通りです。そこだけ原作通りなのがかえって不自然なのです。現状ただ威吹にキスされただけで丸くなってしまった人で、それでいいのかと問わずにはいられません。
正親を憎しみに囚われたキャラにしたからには正親と正人の和解イベントはしっかり描かれることだろうと思っていましたが、最後に少し褒めただけで終わってしまいました。そこが大事ではないのでしょうか?あまりにお涙頂戴感を出すとわざとらしくなるからあっさり終わらせたのでしょうか?親子関係へのフォローは物足りなかったです。
威吹の父親が既に亡くなっているそうですが、原作では現在で物語にも度々絡んできます。威吹の母親は亡くなっている設定なので母親にあの台詞を言わせればよかったのでは?
実写版の脚本で一番割を食っていたのは澄彦でした。澄彦の人となりは原作から大きくかけ離れ、人としての器も小さくされ、戦闘能力や司令塔としての能力まで大幅カットされています。スタッフは澄彦が嫌いなのかと疑うほど。
次に、原作以上に真面目な場面で茶化すようなギャグが多かったです。
尽宮正人がにゃんにゃん言っているシーンなど原作にはありません。スタッフは正人をなんだと思っているのでしょうか?原作の正人は隙を見せない男です。あのように抜けてなどいません。
原作のギャグシーンをカットするパターンはよく見かけますが真面目なシーンをギャグにするアニメなど聞いたことがありません。実写映画だとよくある事なのでしょうか?
次に、図書館デートが水族館デートに変わっていました。
原作では勉強会を名目に図書館に行くことになり、「せっかくのデートなのに」という骨子の言葉で威吹は疑問に思うわけです。水族館デートはどう考えてもデートにしかなりません。威吹と骨子は付き合ってもいませんし両片想いですが、なぜデートしているのでしょうか?
水族館デートは原作と会話もなにもかも違いましたが、途中まではそれでも原作の流れを汲んだものでした。しかし途中から、正親が舌に乗せた爆弾を見せた後に原作に無い葛藤が始まります。ここでの威吹と澄彦の選択が今後の物語を大きく変えることになります。
澄彦が好きな方はこの映画を見ないことをおすすめします。
最後まで見てみると、映画後半の内容は原作7話を何倍にも膨らませた話だったと思います。
寧が骨子との関係に悩む話は原作にもありましたが、寧が悩む理由となる物語の導入も、威吹との会話も骨子との会話も原作とは別物でした。
2時間の映画としてまとめる上で、紆余曲折のある物語にしないといけないとの判断だったのでしょう。
原作では1話分で解決した問題を何倍にも膨らませ、そこに原作の別エピソードを混ぜてみたり、骨子にダンス部部長設定を作りダンス大会を舞台に様々な事件を巻き起こすことで盛り上げようとしたのでしょう。
理屈としては大いに理解できます。しかし何故ダンスだったのか。
3年4組全員の見せ場を作ってくれたスタッフ達なら、原作にある設定を活かしてダンス大会とは別の山場を作れた気がしてなりません。
そもそも原作の骨子と寧はダンス部員ではありませんからね。
では何故ダンスなのか。率直に言ってフジテレビの都合としか思えません。そういう局の都合がチラついてしまうのが作品のノイズとなっていると思います。
原作のことを一旦忘れれば、普通に楽しめる作品だと思います。
しかし原作あっての実写化と思うと手放しに絶賛できる作品ではないと思いました。