「己の特性を生かした個人でできる抵抗運動」フィリップ かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
己の特性を生かした個人でできる抵抗運動
些細な諍いからのドイツ人の銃乱射で、妻も家族も友達も失ったユダヤ系ポーランド人フィリップの復讐が、ドイツの出征兵士の妻と寝てめろめろにしたところで捨てること。
チャラいオトコが己の特性を活かした復讐を思いついたもんだとちょっと感心したが、ユダヤ人は割礼するので寝たら一目瞭然。相手の女が密告したらそれまで。大変危ない綱渡りだ。命がけの復讐ではないか。
もっとも、女には外国人と通じたら、刑罰があったかどうかはわからないが、夫に大変な不名誉をもたらす上に自らも少なくとも社会的に死ぬので漏れないように口をつぐむ確信はあって、そこにつけ込み「俺はユダヤ人だがなにか」とS的に開き直ってドイツ女を言葉でいたぶってつれなくする。自分の魅力にも確信があるプロのジゴロみたいで、はあ、確かに復讐っぽい。社会に直接インパクトはもたらさないかもだが、個人でできる抵抗運動を地道に続けているのだ。
女を罵倒しながらフィリップは、自身の脳内の恨みつらみをそこに込めていたように思う。
フィリップは夜中にホテルのボールルームで激しく運動して内面のもやもやを発散していたが、これは肉体を維持するのにも役立っただろう、「レッド・ロケット」の自身の仕事に誇りを持っているAV男優が、魅力的な肉体を維持するのが肝要と言ってエクササイズを怠らなかったのを思い出した。
フィリップを支援していたポーランド人工場主とはどういう関係だったのか
冷たいニンゲンに見えたフィリップが、親友を殺されたことに静かに激昂し、祝宴で大騒ぎするドイツ人を、喧騒に紛れてひとりづつ撃ち殺していくところに、彼の憎しみ恨みが込められているのを感じた。
とりあえずパリ行きの列車に乗れたようで良かった
リザを本気で愛しているほど、一緒に逃げる選択肢はなくなると思う。
何度も逃避行の決行が阻止されたのは、きっと天の思し召しだ。
彼は要領の良い人で生きる能力が高い。度胸があり頭が良いのだと思う、イケメンだし。
その才能があってこそ、最大限活用して戦後発禁本を出版するくらい生き延びたんだと思う。
ホテルというのは人間模様の交差点のようなところで、当時のフランクフルトの社会の縮図が見られたようで面白かった。
外国人従業員の間にも国籍、人種により微妙に差別意識があるよう。
フランクフルトは土地柄中央から離れていて色々緩いのかもしれないが、ナチス高官なら法で禁じられている同性愛もOK、ナチスは軽い気まぐれや思いつきで外国人に発泡、殺人に至るが切り捨て御免、簡単に処刑して理由はこじつけ上等、やりたい放題。そしてドイツ人は当時の特徴的な高慢な選民意識で足の先から頭の天辺まで満たされているようだ。
人が集まれば挨拶は右手を掲げて「ハイル・ヒットラー」
華やかな祝宴の席ともなれば国歌の演奏に合唱し統一感が盛り上がり高揚感が一気に高まる、まるでカルト教団。
下層の外国人従業員の眼の前でこれをすることは、彼らにとってみせつけであり自分たちの特権階級ぶりと優越性を再確認することであるのだろう。
そもそもナチス・ドイツ自体、ヒトラーを教祖と仰ぐカルト教団と言って良いのではと思う。
出版した当時は発禁になるくらいなので相当センセーショナルだったのは分かるが、今の時代に映画化されてもあまり響いてこない気がする
ホテルの内部やフランクフルトの町並み、人間模様などはなかなか楽しめましたが、ステレオタイプのホロコーストものではない、変化球的な興味だけでみるにはちょっと長尺かなと思いました。
駅で、パリに行く人(生きる人)と前線に行く人(死地に行く人)があんたはこっち、あんたはそっち、と事務的に二手に分けられるシーンが延々と続くところ、生死が無造作に分かたれているようで儚さというか切なさというか、やるせないものを感じました。
弱いものいじめする人は、相手に強気で面と向かって反撃されるとまったく対抗できなくなるらしいです。DV気質の人もそうらしい。チャラいけどフィリップには強い芯があって、ナチスの威光の下でしか偉そうにできない人を威圧するものがあったのかもしれませんね。
いづれにせよ、あんな時代を生き延びたポーランド系ユダヤ人なので、普通と違う生き延びるための飛び抜けた資質があったんだと思いました
親友が撃ち殺された後の「俺はポーランドから来た、しかもユダヤ人だ、殺せ!」と迫ったシーンは心に刺さりました。
そんな胆の太さが生き延びる結果につながったのかもしれないですね。
カールⅢ世さん
レッド・ロケットのあのヒトもフィリップも、プロ意識が高いところは尊敬に値します。心中はどうあれナンパの際は緊張などおくびにも出さないのも、プロ意識の一端かもしれません。
ところで割礼でバレない人もいるんですね。
共感ありがとうございます。この映画のレビューで「レッドロケット」のあの人が比較に出てくるとはw レッドロケットのあの人より、はるかにこの時代のフィリップの方が自由で活き活きと楽しんでしていたようにしか見えませんでした。復讐を背負って、緊張しながらナンパしてたようにはとてもおもえませんでしたね。
ユダヤ人=割礼でバレる? それは個人差では。