ババンババンバンバンパイア : 映画評論・批評
2025年7月1日更新
2025年7月4日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
素っ裸もいとわぬ吉沢亮の没入演技が「国宝」級
2023年のキネマ旬報ベストテンで読者選出1位に輝いた「Gメン」(2023)をはじめ、「少年チャンピオン」発信のコミック原作映画が快調だ。当誌別冊でマンガが連載中の「ババンババンバンバンパイア」も、原作という素材を活かしながら、映画独自の調理をほどこし、今回の実写化を美味しく遂げている。
本作は老舗の銭湯に勤めるバンパイアを主人公にした、タイトルありきで全てを創造したと思われがちなラブコメだ。450歳のイケメン吸血鬼・森蘭丸(吉沢亮)は、銭湯の一人息子・李仁(板垣李光人)が18歳になるのを待ち、ここで世話になっている。彼に命を救われた恩もあるが、なにより18歳・童貞男子の血は、バンパイアにとって至高の味だからだ。ところがある日、李仁が可愛いクラスメイトの葵(原菜乃華)に一目惚れ。恋の成就=童貞喪失じゃないかと蘭丸は血相を変え、これは絶対に実らせてなるものかと妨害策を講じていく。

(C)2025「ババンババンバンバンパイア」製作委員会 (C)奥嶋ひろまさ(秋田書店)2022
物語はそんな屈折した行動力をフル発揮する蘭丸に、吸血鬼オタク女子だった葵が目をハート型にし、あらぬ方向へと騒乱を極めていく。しかも蘭丸は“闇の長命種族”として、戦国時代にさかのぼる因縁を抱えており、それがいい湯加減の展開にハードな揺さぶりをかけるのだ。
「お風呂屋さんのバンパイア」というミスマッチな設定からして、本作は観客から笑いを奪う気まんまんだが、蘭丸に扮する吉沢亮のパフォーマンスが、けっこうな勢いでそれを強行していく。吸血鬼らしい伯爵チックなダンディズムを装っていても、冷静に見れば変人属性のかたまりだ。加えて、450歳なりに老成しているのか未熟なのか捉えどころのない、そんな麗しの怪キャラクターを吉沢は“我が意を得たり”とばかりに演じている。ギャグをまっとうするためならば素っ裸もいとわない、こうした役に対する実直な姿勢は、ベクトルが異なるだけで前主演作「国宝」(2025)と同じなのではなかろうか。
なにより映画そのものが、ミュージカルありオリジナル展開ありで、コミックともTVアニメ版(2025~)とも異なるルートをたどっており好印象だ。原作に従属的なアダプトを正義とするような現況で、マンガの実写化はもう少し自由でいいのでは? と感じる自分にとって、これぞ最適解ともいえる快編だった。原作との違いをあげつらって、やれリスペクトが足りないなどと批判するならば、原作だけ読んでいれば済むことだ。コミック映画にアートフィルムでも観るような構えも必要ない。片方200キロはあろうかという巨大なダンベルをポッキーみたいに持ち歩き、「李仁もやれ、筋トレは裏切らないからな」と何食わぬ顔でつぶやく関口メンディー(断っておくが、高校生の役だ)を見ているだけで、理屈を超えた多幸感で心が満たされる。
(尾﨑一男)