ぼくのお日さまのレビュー・感想・評価
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羨ましいくらい無垢で綺麗
少し前テアトルで見かけたポスターと、エチケットムービーで三人が演じてたのが楽しそうで何となく観ました。
そしてこれが素晴らしかった。
前情報がまるで無かったので作品に放り込まれたよう。
まず映像が澄み切っていてきれい、素朴なようですごい緻密な絵作りでした。
それと何といっても、光の入れ方が本当に美しいです。
主演の三人。そのうちの少年・少女タクヤとサクラがとても澄み切っていて、この光が一杯の世界にすごい溶け込んでいるんですよ。
二人が一緒にリンクを滑るシーンは、羨ましいくらい無垢で綺麗でした。
そしてそれをもう一人の主演、池松壮亮が二人をしっかりと支えていました。
そして彼を作品の真ん中に置いているのでしっかりしてるんですよ。
また劇中に流れる選曲が素晴らしい。ゾンビーズを始めどれも作品にとてもフィットしてるんですよ。
物語は些細な出会いを経て一つになったような三人の心。それは彼らの成長と共に段々とそれぞれの向きを変えていく。
冒頭から気になっていた車やカーステ・ラジカセにガラケーなどの少し古いアイテムに「男子スケーターなんて少なかったから」など、まだ「理解のない時代」って事なんでしょうね。
ラスト、偶然の再会からの鮮やかな切り方もため息が出ました。見事です。
そしてエンドロールで流れた、ハンバートハンバートの歌。
彼らの楽曲とタイトルが同じだと思ってたら、そのままでしたよ。
そしてここでこんなの流れたら、それはもう涙が止まらないでしょう。
あと静かで隣にいるような音の劇伴、あれもハンバートハンバート(佐藤)だったんですね。驚きました。
ふらりと観に立ち寄ったのですがこれはやられました。
本当、素晴らしかったです。
ポカポカと温かく、ヒリヒリとほろ苦い
最初は、スケートを通じた少年と少女の小さな恋の物語なのかと思ったのだが、男性コーチが少年にフィギュアスケートを教える話になって、少し予想をはぐらかされる。
ここで、コーチを演じる池松壮亮が、本当にスケートの経験があるのではないかと思えるほど的確(少なくとも、そう見える。)に指導を行っていて、思わず引き込まれるし、それに応えるように少年がメキメキと上達していくのも嬉しくなる。
その一方で、男性と同棲しているコーチが、手取り足取り少年を指導する姿に、何やら良からぬことが起きるのではないかと心配にもなってくる。
やがて、少年と、彼が思いを寄せる少女がペアを組んで、アイスダンスのバッジ取得を目指す展開になると、コーチと少年・少女の二人三脚ぶりが更に楽しくなってくるし、ほのかに恋の雰囲気が漂い始めるところも微笑ましい。
中でも、凍結した湖に練習に出かけた3人が、雪上や氷上でふざけ合う姿は、この上もない多幸感に満ちていて、このままハッピーエンドになることを願わずにはいられなくなる。
しかし、この幸せなひと時は、やはり、バッドエンドのフラグになっていて、ずっと感じていた嫌な予感が的中することになる。しかも、その予感も、少年・少女の親が騒ぎ出すのではないかと思っていたのだが、少女自身がコーチに反発する展開になって、何だかやるせない気持ちになってしまった。おそらく、少女は、コーチに好意を寄せていて、裏切られたと感じたのだろうし、多感な年頃なので、「気持ち悪い」と思うのも仕方がないのかもしれない。
それでも、3人でアイスダンスの練習に打ち込むシーンがあまりにも魅力的だったので、最後は、皆に和解してもらいたかったと思わざるを得なかった。
その点、春の日差しの中で、少年とコーチがキャッチボールをしたり、少年と少女が見つめ合うエンディングは、せめてもの救いになったし、それに続くテーマソングも、画面に映し出される歌詞が少年の心情にピタリとハマっていて癒された。
期待度◎鑑賞後の満足度◎ 雪の白さと日の光が目に眩しい。行間を読む淡い詩の様な映画。スケートシーンに比べ極端に少ない台詞ながらも三者三様の気持ちがくっきりとわかる。しみじみと切ない。
①三人が同じ目標を目指して仲良く練習していた中盤から三人の関係が軋み出す後半への流れ。しかし予兆はほぼ冒頭から示されている。光の中で滑り舞うサクラを光の精を見るように憧れの目で見つめるタクヤの姿をふと目に停め、サクラを見たあと再びタクヤに視線を戻してそのまま見つめ続ける荒川。「真っ直ぐな(タクヤのサクラへ)想いが羨ましたった」と後程荒川はくちにするが、本当にそれだけだったのだろうか。タクヤに佇まいに心惹かれた気持ちはなかたったのだろうか(勿論、少年愛とか異常なものではなく)。
その辺りを何とも取れるように微妙に目の演技だけで表現する池松壮亮はやはり上手い。
②荒川は元フィギュアスケート選手でスケート雑誌やスケーター達のカレンダーに載るくらいのスケーターだった過去がある。それが何故雪深い北海道の田舎町でスケートのコーチをしているのか。
それが分かるシーン。男と同居しているようだ。そしてパートナーは親のガソリンスタンドを継いだリターン組だと分かるシーンで仲良く枕を二つ並べたベッドが移る。
荒川はゲイだと分かるシーン。最近はLGBTQ という言葉が巷に溢れ多様性がある意味押し付けの様に取り上げられる世の中になっているが、こういうことには揺り戻しは必ずあるし、日本社会にはまだまだ偏見や無理解、誤認識が蔓延っている。都会ならともかく地方都市では尚更だろう。
パートナーが地元民であればおそらく直に噂は広まるに違いない。
荒川の未来が気になるシーンだ。
③面白いことに三人の中で最も素直というか真っ直ぐと言うか屈折していないのはタクヤだ。普通なら吃音であることに悩むようなものだが本人は気にしていないよう。
サクラのことが好きなのはミエミエだし、荒川のことも親切で優しいお兄さん→コーチとしか思っていない。
※因みに荒川が引っ越し荷物の中から自分の使っていたスケート靴を嬉々として探すシーン。深読みかもしれないが無償の贈り物には暗喩がある。
コンテストにサクラが来なかった事も、タクヤは結局サクラは自分の事がキライ、或いはアイスダンスをやっぱりやりたくなかったとしか思わない。
街を離れることにした荒川に「また戻ってくるの?」と屈託無く訊くタクヤ。
まあ、男の子って鈍感なものだから。
最後に二人でキャッチボールをするというところも微妙な塩梅だ。ごく普通に男二人でボールを投げ合い受ける。それだけ。でも、だからこそ色々な意味合いを持たせられるし、ただ微妙な距離感を保てる。(『フィールド・オブ・ドリーム』のラストの若き父親と主人公のキャッチボールみたいに)
荒川が暴投したボールを追って走って行くタクヤの後ろ姿を見つめる荒川の視線に浮かぶ感情…
④タクヤに較べるとサクラは遥かに敏感でそして残酷だ。でもそれも仕方がないのかもしれない。
ハッキリと思った事を口にする同級生と違って気持ちをなかなか言葉にできないサクラ(その代わりスケーティングは饒舌だ)。
密かに荒川に淡い気持ちを抱いている。
街で荒川の車を見かけて思わず走りよろうとするが、
「伝える」ということの美しさを徹底して表現
2024年視聴映画で一番でした
綺麗なものへ惹かれるまっすぐな気持ちは大人もこどもも同じで、生き物であれば光に吸い寄せられるもので。
『原始、女性は実に太陽であった。』と書いた平塚らいてう女史はその後に『今、女性は月である。他に依って生き、他の光によって輝く、病人のような蒼白い顔の月である』と続けて女性の開放に尽力したといいます。本編における元プロフィギュアスケーター・荒川コーチのふとした時に見せる顔は、それこそ病人のような月光の人と感じました。美しく氷上で舞うさくらにも、彼女にまっすぐに惹かれ成長していくタクヤも、荒川にとってはまぶしい太陽そのものであったのでしょう。
本作は車やポスト、携帯電話の形状などから20年以上前の時代として描いていましたが、終盤での荒川への風当たりなどは現代においては描きづらい内容かなと。ただ見えないだけで確かにある『異なるものへの嫌悪』すらもまっすぐに描ける最後の時代でもある、そんな絶妙さがお見事でした。
作中、スケートをする間は2人や3人の世界を明確に表現していましたが、そこから一歩引いた場面場面では『この社会での当たり前』が多数描かれています。
劇場が明るくなったあとに、自分にも当たり前の先にあって、胸の奥にあるような、記憶の中の心を焦がすほどのお日さまのような人を思い出して涙が出てしまいました。伝えたい気持ちが伝わるといいなあ。
少年よ。人生いろいろあるけれど大丈夫。お天道様はついて回るからね。
おそらく小樽がモデルの港町。冬から春まで短い季節を切り取っている。思いつくまま3点ほど。
まず1つ目は登場人物。主要な人物はほぼ3人でフィギュアスケートのコーチの荒川と、彼に教わるさくらとタクヤ。
でもこの物語の主役はやはりタクヤであって、この映画は本質的にはタクヤ少年の一冬の経験を取り上げたものだといえるだろう。荒川とさくらは彼の忘れがたいエピソードを彩る脇役ということになるのだと思う。
2つ目は映像上の光の処理。常に太陽の光が満ちている。全編のうちかなりの尺を占めるスケートリンクは、常に、窓から入ってくる淡く、でも輝かしく、どこか懐かしい太陽光で満たされている。さくらのプログラム用の曲である「月の光」と連動もしているのだろう、でもこれはあくまで昼の光である。そして3人が、凍った湖で練習し、そのあと戯れるシーン。北海道の冬の太陽なのでそんなに強くはない。でも空は晴れて3人の姿を順光で、逆光で、明るく照らし出す。バック曲はTHE ZOMBIESの「Going out my head」。幸福感に満ちたシーンである。
3つ目は、全編で徹底される言葉の少なさ、静謐さ。荒川にとっては(彼を慕うタクヤにとっても)厳しい状況となってしまうのだが誰も声を荒だてず、静かに運命は進んでいく。
つまり、この映画は、タクヤが人生の早い段階で経験した成し遂げたこと、うまくいかなかったこと、受け入れなくてはならないこと、を優しい陽の光のもとで静かに静かに描いたものだと言えるだろう。
タクヤくん、最後になってもやっぱり言葉はうまくでてこなかったね。でもさくらにはもう一度会うことができたじゃないか。大丈夫。おひさまは常について回るんだから。
いろんな感情がこみ上げてくる!!暖かくて、切なくて、温かい
「悪は存在しない」に匹敵する最高傑作だと感じました。
景色も音楽も心が洗われる程素晴らしいです。木漏れ日が優しく、主演2人もこれ以上ない程自然体で、びったりはまっていました。吃音症を感じるタクヤ(越山敬達)が、スケートの上手いさくら(中西希亜良)に憧れて、という初恋のような展開に胸がおどります。
しかし、あることがきっかけで、せつない物語に急変します。
いろんな感情がこみ上げ、涙目になりながらも登場人物たちに共感していました。
ラストの終わり方が素晴らしく、想像力を生み出し心が豊かになります。
本当は
「ベイビーわるきゅーれ」と連チャンで観たかったんですが。池松くんって声がイイよね、ちょっと竹野内豊化が進んでるような気がしますけど。
同じ位の年でも女の子の方が大人びてるよね、フィギュアだとスタイルも良いしね。
カメラの距離感はお日さま目線って事なんでしょうね、三人それぞれにお日さまが有った。
またGネタか・・最後の言葉は? とちょっとイラっとしましたが、ハンバートハンバートのエンディング曲で吹っ飛んだ! これってフーの“マイジェネレーション”だよね? そうでしょ?!
「杞憂」とはこのこと
奥山大史監督、聞き覚えがあるような?ないような??調べてみると、あ、『僕はイエス様が嫌い』の監督か。。U-NEXTで配信されていたのを気づいていながら、宗教物かな?と思って敬遠していたのですが、本作を観る前に鑑賞してみましたところ個人的には好みではなく。。と言うことで、本作次第では私にとって「微妙な立場」に立つ(「ナニサマ発言」ですが、個人の指標のため悪しからず)可能性を踏まえつつ劇場へ。TOHOシネマズシャンテの初日は思いのほか客入りまばら。私はポイントを使って鑑賞です。
まず始まってすぐ気が付くのが、『僕はイエス様が嫌い』同様にアスペクト比がいわゆるスタンダードサイズと言われる「1.33:1」。こだわりなのでしょうね。取り敢えず、シャンテは幕で調整したりはしないので左右は黒枠です。そして始まって間もなく、劇中の空に白くヒラヒラと何かが舞い、少年タクヤ(越山敬達)が一言「初雪だ」。ま、CGですよね。と言うことで、観ている私としては、この調子でまた「小さい神様」とかみたいのはやめてねと祈るばかりですが、、、先に言っておきます。大丈夫です。ちゃんと気温や体温が伝わってくるような作品に仕上がっています。
そして、観終われば第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出された意味も理解できる脚本です。なお、特にその点では“学生”であるタクヤとさくら(中西希亜良)の目線と時間軸で考え、90分という短めの尺が物語り全体の印象にもいい影響となっている気がします。そして、この二人が兎に角キラキラしてるんですわ。素敵すぎる。中西希亜良さんは英語、フランス語も出来るとのことなので今後の活躍の幅が無限大。迷わずチェックイン必須ですね。
一方、池松壮亮さん、若葉竜也さん、お二人して相変わらず良すぎます。まぁ、自然。二人の掛け合いはもはや役でやっているようには見えません。他にも山田真歩さんや、いつも遠目ではありますが流石の存在感の篠原篤さんなど粒ぞろいなキャスティングは、やはり商業映画としての力が入っていて見応えがあります。何なら、次回は是非、大人の映画をじっくりの内容、それなりの尺で観てみたい奥山監督。勿論、こちらもチェックイン済みです。
と言うことで、「杞憂」とはこのこと。しっかり堪能できました。光の演出がされた美しいスケートシーンを味わいたければ、是非、劇場での鑑賞をお勧めします。
雪解けのように誤解も解ける?
曲に合わせフィギュアスケートを練習する中学生サクラと、そのサクラに見惚れフィギュアに心奪われた吃音でホッケーをやってる小学生タクヤと、サクラのフィギュアスケートの先生荒川の話。
フィギュアスケートを見様見真似でホッケーシューズで練習するタクヤにフィギュアシューズを貸す荒川、…後にサクラとタクヤをペアにしアイスダンスをやろうかと言い出した荒川だったが…。
最近使われてる昭和感のある色合いのフィルムと、そのなかで楽しむフィギュア練習の時間が雰囲気良く、優しい時間って感じで観てて心地いいし温かい、観てるこっちもいつの間にか微笑んでる。
荒川の穏やかさと優しさの雰囲気のなか練習を楽しんでるタクヤとサクラには何故か涙で。…荒川が同性愛者と知ってしまったサクラだったけれど中学生という年齢で処理出来なかったんでしょうね…。
個人的にはアイスダンスの方でちょっと感動的に終わるのかな?何て思ってたんだけど違った展開になってしまって。作品的には雰囲気良く観てて幸せな時間、幸せな気持ちなれるって感じで良かったね。
思春期も美しい
エンドロールの途中から泣けてきた。
思春期の淡い想いや照れ、吃音のこと。男性同士の愛情への理解。今もあるのかなぁ、あるんだろうなぁと思った思春期女子の潔癖感。
雪の白さや、柔らかなお日さまの光が素晴らしい。暖かなお日さまが全て溶かして春が来る。繰り返し繰り返し。
この作品の池松壮亮さんは、とても姿勢が良く美しい。そして若葉竜也さんは相変わらず優しく強い。
普段は少年少女が主役級の作品をチョイスすることは無いのだが、今回は池松、若葉の両俳優が観たかった。
でもタクヤ役の越山敬達さんは可愛いかったな~。素敵な俳優さんだし、とても気持ちの良い余韻を残す俳優さんだ。
そして、とにかく私が好きだったのは、タクヤくんの友達。あの強く優しい友達。ずっとずっと、あのまま大人になって欲しい友達。
もう少し、続きを観たかった作品。素晴らしい!
素晴らしかった。
昨年観た怪物もそうだったが、荒川の視点、タクヤの視点、さくらの視点が分かりやすかった。
ちょっと痛みもあるけれど、荒川、タクヤ、さくらがフィギュアスケートを通じてタクヤのさくらの恋の応援も兼ねてスケートの指導をし、まさかさくらとアイスダンスをするとは思わなかった。タクヤとさくらもアイスダンスをするたびに呼吸がぴったり合ってさあ、これからと言うときにまさか荒川が?
さくらもタクヤも思春期特有の心情がスクリーンから伝わった。
作品全体を観ているとよくあるストーリーだなと思いがっかりしかけた矢先に、エンデイングのまさかのタクヤとさくらの再会は次どうなるだろうとワクワクさせてくれた内容だった。もう少し、この三人を観ていたかった。荒川役の池松壮亮よりもタクヤ、さくらを演じた子役の二人の演技が素晴らしかった。
考察しがいがある作品であるのは間違いない。
2024年年間ベスト邦画候補でもあり間違いなく5位まで入る。
ナミビアの砂漠と同点の評価をしたい。
せつないけれど貴く美しいひと冬の物語
彼にとってのお日さまは、知らないところで泣いていた
2024.9.13 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本映画(90分、G)
小学6年生のひと冬の初恋を描いた青春映画
監督&脚本は奥山大史
物語の舞台は、北海道にある村
小学6年生の多田拓也(越山敬達)は吃音が原因でクラスに馴染めず、運動神経もさほど良くないことから、野球でもアイスホッケーでもまったく活躍できずにいた
彼には理解者である唯一の親友・コウセイ(潤浩)がいて、相応の学校生活を送っていた
ある日、アイスリンクにてフィギュアの練習をしている三上さくら(中西希亜良)を見かけた拓也は、彼女の演技に魅了されてしまう
それから、放課後に独学でフィギュアの真似事を始め、そんな様子をさくらのコーチである荒川永士(池松壮亮)が見ていた
荒川は少年時代に使っていたフィギュア用のスケート靴を拓也に貸し、基礎的なことを教え始める
そんな様子を見ていたさくらは苛立ちを隠せなかったが、荒川は彼女の気持ちに気づくこともなく、拓也とペアを組ませてアイスダンスの練習をさせてしまう
レベル差は徐々に埋まっていき、拓也とさくらの息も合ってくる
そして、アイスダンスの大会に出ることになったのだが、その直前にさくらは「荒川の秘密」を知ってしまうのである
映画は、とても静かな映画で、ドビュッシーの「月の光」と、窓から差し込む陽光のコントラストで魅せる映画となっていた
LGBTQ+問題が描かれていて、さらに少年少女の素朴な感情が描かれていく
さくらは恋した相手が同性愛者であることを知って傷つくのだが、これは普通の感覚で、それらを社会的に許容するかどうかとは別問題であると言える
ラストで拓也はさくらと再会し、そこで何かを言おうとして映画は終わるのだが、二人がどうなっていくのかはご想像にお任せします、というエンディングになっていた
映画は、語らない映画だが、キャラクターの心情は痛いほどによくわかる内容になっている
さくらの母(山田真歩)も「秘密」を娘から打ち明けられ、その理由を遠回しに荒川に伝えるのだが、相手に配慮しつつも、これ以上さくらが教わりたくないという気持ちを伝えることになっていた
荒川はさくらから「気持ち悪い」とだけ言われてしまうのだが、それはさくらの気持ちが荒川に向いていたことと、生理的な部分が大きいのかな、と感じた
いずれにせよ、とても静かな映画で、展開もそこまで激しくないのだが、キャラクターの内面は恐ろしいほどに動いている作品になっていた
主人公である拓也が問題の蚊帳の外に居続けるというのも斬新で、何もしていないし、何も知らないところで自分の初恋が消えていくのは切なくも感じる
英題は「My Sunshine」というもので、これは解釈によっては「三人それぞれのお日さま」という意味にもなるので、それがうまく噛み合わないもどかしさというものもあるのだと思う
エンディングはこの映画の原案にあたる楽曲でもあるので、あの歌詞が拓也の言いたかったことと捉えるのか、彼の日常を補完しているだけなのかは見方によって変わるのではないだろうか
冬から春への小さな恋
「僕がはイエス様が嫌い」で第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史さんが監督・脚本・撮影・編集を手がけて撮りあげた商業映画デビュー作は、何処か疎外感を抱く3人の触れ合いの様が、寓話的な美しさと現実的な厳しさで描く。
雪の降る田舎町、ホッケーが苦手な吃音の少年タクヤは、ドビュッシーの曲「月の光」に合わせてフィギュアスケートを練習する少女さくらに一目惚れしてしまう。
或る日、さくらのコーチを務める元フィギュアスケート選手の荒川は、ホッケー靴のままフィギュアのステップを真似して何度も転ぶタクヤの姿を目にする。
タクヤの恋を応援しようと決めた荒川は、彼にフィギュア用のスケート靴を貸して練習に付き合うことにする。
やがて荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めることになるが、或る切っ掛けで予想外の方向に転がっていく。
音楽デュオ「ハンバート ハンバート」が2014年に手がけた同名楽曲をタイトルにした本作では、池松壮亮さんがコーチの荒川役を務め、テレビドラマ「天狗の台所」の越山敬達さんがタクヤ、アイスダンス経験者で本作が演技デビューとなる中西希亜良さんがさくらを演じている。
吃音のあるアイスホッケーが苦手な少年、選手の夢を諦めて恋人の地元でスケートを教える男、コーチのことが少し気になる、ませたスケート少女、この3人の心が、やがて一つになってほどけてゆく。
映画巻頭の初雪のシーンから、春になって雪がとけるまでの切なくて淡い恋は、その純粋さゆえに何とも言えない温もりを残します。
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