「お日さまの光」ぼくのお日さま 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
お日さまの光
話題性だけのコミックやTVドラマの映画化、アニメーションばかりヒットする昨今の日本映画だが、まだまだこんなにもピュアな作品が生まれる。
これが長編2作目、デビュー作『僕はイエス様が嫌い』でいきなり注目された俊英・奥山大史の確かな才。主演二人の初々しさ。それらの賜物。美しい白銀の世界が拍車をかける。
しかし、ただピュアなだけじゃない。
優しさ、温もり、愛おしさの中にも、ピュア故の切なさ、残酷さ…。
それがまた胸に染み入る。
北国の雪深い田舎町。
吃音症のアイスホッケー少年・タクヤはフィギュアスケートをする少女・さくらに心を奪われる。
一人で不器用に滑っていた所をさくらのコーチ・荒川が気に掛け、個人レッスンを受けるように。
少しずつ上達し、やがてペアを組むまでにもなり、さくらとの距離も縮まるが…。
フィギュアスケートを通して描かれる少年少女の淡い恋。氷上版『小さな恋のメロディ』。
そこにコーチも加わり、三者の交流が紡がれていく。
情報や説明過多の作品が氾濫する昨今、話の方も至ってシンプル。
それが本作の作風にぴったり。
シンプルな物語に身を委ね、見る者は心行くまで三人の感情に寄り添える。
野球も下手、ホッケーもあまり上手くない。吃音で上手く喋れない。
自身に対し劣等感を抱きつつも、その眼差しや佇まいは素朴。
越山敬達くんのナチュラルさ。奥山監督は彼に台本を渡さず、現場で即興演出。これに見事応えた。子役からのキャリアと自然体がマッチ。
彼が自然体なら、彼女は輝かんばかりのフレッシュさ。
ドビュッシーの『月の光』に乗せてスケートをしながらのさくらの初登場シーン。まさに氷上の天使。神々しいほど。タクヤでなくとも見惚れる。
本作で映画デビューどころか、演技も初という中西希亜良。子供の頃から習っていたフィギュアスケートが見る者を魅了する。顔立ちも小松菜奈を彷彿させる美少女っぷり。
二人共、順調なキャリアを築いていって欲しい。荒川でなくとも見守りたくなる。
池松壮亮も好演。『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』ではアクションのプロに見え、本作では本物のコーチに見えるさすがの芸達者ぶり。
新人賞や助演男優賞も納得の、三人が織り成すケミストリー。
映像の美しさは特筆。
開幕からの雪国白銀の世界の美しさ、氷上を滑るさくら、ペアでアイスダンスをするタクヤとさくら…。ため息が漏れるほど。
絆や交流が深まり、三人で練習やドライブ。氷の湖のシーン…。その一つ一つが、美しく楽しい思い出として見る者の心にも残る。
このまま温かさに包まれていたかった…。
本作、ピュアなだけのジュブナイル・ラブストーリーではないのは見ていて分かってくる。
各々が抱える悩みや陰…。
吃音症のタクヤ。父親も吃音症。母親はまたアイスホッケーをやらせたいが、父親は息子のやりたい事の背中を押す。
元プロの選手だった荒川。が、夢諦め…。完全に諦めた訳ではない。まだ未練が…。
同性愛者でもある荒川。プロを辞め地元に戻り、コーチをしながら恋人の青年と慎ましく…。
一見幸せそうだが、関係は秘密。田舎町、噂はすぐ広がる。
おおっぴらに出来ず、内に秘めた想い。
それがさくらに片想いしたタクヤにシンパシーを感じたのであろう。
さくらは感情表現が苦手。密かに荒川に憧れている。
ある時、荒川が恋人と一緒にいる所を見てしまい…。
愛の形は様々。が、無垢な少女にそれはショックな事…。
荒川がタクヤにスケートを教えた訳、荒川自身にも酷い言葉を…。
悪気はない。悪気はないのだ。無垢でピュア故、つい出てしまった事。
しかし、それがまた残酷でもあるのだ。悲しい事に。
三人の交流もそれっきりに。
荒川は自身の将来を、さくらは練習に来なくなり、タクヤはまたアイスホッケーを…。
“ぼくのお日さま”というタイトルから終始温かい作風だと思っていた。
が、雪が解け、春の温かさがやって来る。奥山監督の彼らへの眼差しも温かい。
春の陽光がまた美しい。
タクヤは荒川と再会。
そして、さくらとも。
再びスケートを滑り始めたさくら。
三人がまた集うかどうかは分からない。
しかしそこに、三人の間に紡がれたものは確かにあった。
ラストシーン。タクヤはさくらに何と声を掛けたのだろう。
言葉に詰まりながらも、きっとそれは温かく包み込んでくれるだろう。
お日さまの光のように。