「素晴らしいライティング」ぼくのお日さま るなさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしいライティング
本作は、奥山大史監督(弱冠27歳!)の商業映画デビュー作であり、彼の卓越した才能が余すところなく発揮されています。物語は、雪深い田舎町を舞台に、吃音に悩む少年タクヤが、フィギュアスケートに情熱を注ぐ少女さくらに心惹かれる姿を描いています。彼らの関係を優しく見守るコーチの荒川の存在も、物語に深みを与えています。
奥山監督は幼少期にフィギュアスケートを学んだ経験を持ち、その知識と感性が作品全体に息づいています。特に、ドビュッシーの「月の光」に合わせて滑るシーンは、視覚と聴覚の美しい融合を体験させてくれます。さらに、主題歌としてハンバート ハンバートの「ぼくのお日さま」が使用され、物語のテーマと深く共鳴しています。
キャスト陣の演技も見事です。越山敬達は、吃音に悩みながらも純粋な心を持つタクヤを繊細に演じ、その内面の葛藤と成長を見事に表現しています。中西希亜良は、フィギュアスケートに情熱を注ぐさくらの強さと脆さを巧みに演じ、観客の共感を呼び起こします。池松壮亮は、二人の若者を優しく見守る荒川役を自然体で演じ、その存在感が物語に深みを加えています。
物語は、タクヤの初恋を中心に展開しますが、その背後には多様性や自己受容といった深いテーマが織り込まれています。タクヤの吃音、荒川の性的指向など、現代社会が抱える課題を繊細に描き出し、観客に深い感慨を与えます。しかし、これらのテーマは決して押し付けがましくなく、物語の中で自然に表現されています。
映像美も特筆すべき点です。雪景色の中でのスケートシーンや(三人が凍った湖で触れ合うシーンは素敵でした「小さな恋のメロディ」を思い出しました劇伴もジャストマッチ)
光と影のコントラストを巧みに利用した撮影は、観る者の目を楽しませるだけでなく、物語の感情的な深みを増しています。奥山監督自身が撮影と編集を手掛けたことで、彼のビジョンが隅々まで行き渡った作品となっています。