「母という名の呪縛、娘という牢獄」毒親 ドクチン レントさんの映画レビュー(感想・評価)
母という名の呪縛、娘という牢獄
自殺サイトで集まった男女が車内で一酸化炭素中毒による自殺を図り女子高生ユリが亡くなる。このユリの自殺の原因が明らかにされてゆくサスペンスタッチの作品。
韓国映画には珍しく担当する刑事が優秀で慎重な捜査が繰り広げられる。しかしタイトルでネタばれしてしまってる通り自殺の原因はやはり母親にあった。ただ、これは母親の過干渉やら共依存を苦にした娘の自殺というのではなく、その決断に秘められた少女の思いに驚愕させられる。
キーとなるのはユリの部屋で見つかった子供が書いた絵日記のページの切り抜き。それは虐待する母のことをユリが書いたものと思われたが、実はユリの母が子供の頃に書いたものだった。
ユリは母が虐待されて育ったのを知り、それで自分に対して過干渉してるのだと理解する。愛を知らずに育った母、愛を知らないからこそ自分が経験したような思いを娘にはさせたくない。自分は誰よりも娘を愛したいという思いからの過剰なまでの愛情表現だったのだろう。
そんな母の歪んだ愛を理解しながらもそれが自分を苦しめている。この負の連鎖を止めなければならない。そのためには母か自分が消えるしかないという極端な考えに支配されてしまい、今回自殺を図ったのだろう。
自殺間際、彼女は笑顔を見せていたという。それは最初は憎い母への復讐ができた満足感からと思われたが、本当はこの不幸な連鎖から母や自分を解放できることへの満足感からだったのだろう。
命を懸けて母をこの無間地獄から救おうとした娘の決断に驚かされる。娘が命を懸けて断ち切った負の連鎖。あとは母親次第だ。残された次男に対して同じ過ちを繰り返すのか、娘の思いを理解してこの負の連鎖を断ち切れるかは。
本作は一見、毒親をテーマにしたサスペンス映画ながらもユリの担任教師も同じように酷い父親に苦しめられている姿が描かれていて、どこの国でも同じような親子関係があることが思い知らされる。この教師の父親はトランプ大統領の父親にそっくりだ。そのせいでトランプはあのような人間になってしまった。
レビューの表題に書いた通り、日本で起きた滋賀医科大生母親殺害事件を連想させる本作。でも本作はさすがに創作だけに最後には希望の持てる結末に。実際に起きた事件の方はもっと残酷で救いがない。まさに事実は小説より奇なりだ。
この事件以前にも子供を医者にしたいがために父親がスパルタ教育を続けてその子がストレスで家に放火して母親が亡くなる事件なども起きた。
子は親の所有物じゃない。子供はあくまでも授かりものであり、親は育てさせてもらってるに過ぎない。過度に親が期待をかけたり、過度に愛情を注ぎこむのは子どもにとっては大きなプレッシャーになる。子供でもなんでものびのび育ててやるのが一番だろう。
本作は結末としてはユリが自己犠牲により負の連鎖を断ち切る道を選ぶが、これは少し美化しすぎな気がする。いくらなんでもこれでは彼女が聖母過ぎるだろう。やはり等身大の女子高生にここまでのことはできないだろうから、母を憎み母を苦しめるために自死したという方がリアリティは感じられる。
作り話だから美談で終わらせたかった制作側の気持ちもわからないではない。確かにこの方が見終わった後の気分はだいぶ違う。