「三つの「さん」の夫婦愛」35年目のラブレター ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
三つの「さん」の夫婦愛
実在の主人公は「2.26事件」の年、
戦前の生まれのようだが、
その頃は貧しさゆえに
読み書きができない人は多くいたのではないか。
長じて一念発起し、彼のように努力する人、
識字の力がないまま亡くなる人と、様々だったろう。
とは言え、これは必ずしも過去のことではない。
日本の識字率はほぼ100%と言われてきたようだが、
自分は実際に字が読めない若者を十年以上前に見たことがある。
彼は脇に居る人に文章を読み上げて貰い、
回答していた。
勿論、全ての文字を読めないのではないだろうが。
そしてスマホが発達した今では猶更、
字が読めなくても機械が代行してくれる。
目で見るものと音が一致さえすれば
なんとか暮らせるほどにテクノロジーは発達している。
『西畑保(笑福亭鶴瓶)』が定年後に一念発起して
夜間中学校に通うようになったのは、
三十年以上寄り添ってくれた妻『皎子(原田知世)』にラブレターを書くため。
読み書きができない『保』の目になり
手になり支えてくれていた彼女への恩返しが
一つのモチベーションになる。
物語りは、彼の努力を一つの柱とするのだが、
もう一つの柱は夫婦間の愛情の描写の麗しさ。
「おはようさん」
「おつかれさん」
「ありがとうさん」
の三つの言葉が夫婦間で頻繁に交わされる。
なんという心地好い響きだろうか。
読みかけができないことを隠しての結婚。
真実を告白するまでの葛藤。
全てを受け入れ、二人で生きて行くことの決意。
山谷を乗り越え、
裕福ではなくとも、幸せが溢れる世帯は、
見ていて羨ましい。
しかしそうした二人を不幸が襲う。
これは演出の上手さと思うが、
画面に映されていたのは
『保』が字を書く練習をするシーンが主。
学校に通うようになった目的もそこにあったはず。
が、本作の一番の見せ所は、
彼がある手紙を読むところにある。
ここで観客ははっと気づかされる。
「書く」と「読む」は同じ比重であり、
共に人を生かすためのものであることを。
読めることで、主人公が再生できたことを。
『笑福亭鶴瓶』は、一見良い人も、
実は裏や影のあるキャラクターを演らせると
抜群の味を出す。
〔ディア・ドクター(2009年)〕
〔閉鎖病棟-それぞれの朝-(2019年)〕
あたりが好例か。
本作も合わせて、また一つ良い役柄が加わった。
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