「愛に犠牲は必要か?」知らないカノジョ toshijpさんの映画レビュー(感想・評価)
愛に犠牲は必要か?
紹介文や予告編で物語の筋は大体分かる。
リクとミナミにはそれぞれ夢があった。
互いに一目惚れして結婚した二人だったが、リクは夢を叶え
ベストセラー作家に。ミナミは彼を支える主婦になった。
ある朝リクが目を覚ますとそこは〈もう一つの世界〉で
二人の立場は逆転していた。ミナミは夢を叶えてシンガーソングライター
“前園ミナミ”に。しかもその世界ではリクとミナミは出会ってさえ
いなかった。リクは人生のすべてを取り戻すべく奔走する。
もしもの世界を描いたファンタジーだがその設定云々ではなく
リクがどうやって前の世界を取り戻すのか、お互いが人生で得たもの・
失ったものについて理解し自分が変わろうとするところに焦点を当てて
いる。観ていてリクを応援したくなる。ハッピーエンドになるわけだが
最後までリクの視点が貫かれていてすっきりした内容。
リクはミナミが歌手にならなかったのはリクのために夢を諦めたからだと
知る。自分がベストセラー作家になれたのはミナミの内助の功があった
おかげだったんだ。それに気づくことができたし、売れっ子になってから
ミナミに取った態度を反省もした。今度は自分が犠牲になってでもミナミの
成功を応援したい。そう思えたからこそ迎えたwin・winのハッピーエンド。
今度目覚めた世界では二人とも夢を叶えておりどちらかが犠牲には
なっていなかった。これで良かったと思う。
最近観た別の映画であまり納得できなかったものや作者の都合が
あからさまに出ていて興ざめしてしまったものがあったので
こういった直球勝負の映画に好感が持てた。
超売れっ子の歌手が普通にデートしている(ように見える)のに
世間の注目を集めないものなのかな?とか疑問点はいろいろあるが
そういうところがあっても全体として好きになれた映画。
「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから」
原題:Mon inconnue 2021年日本公開 が原作。
今作の「知らないカノジョ」という題が、簡潔で良い。
元の映画は鑑賞済み。ただし細かい描写はうろ覚え。
パラレルワールドに関する知識があって主人公をサポートする
同僚やなぜか出会ってすぐに主人公を受け入れてくれる不思議な
おばあちゃんは確かにいたような気がする。
中島健人・miletの二人はもちろん、重要な役割を演じる
桐谷健太と風吹ジュンもとても良かった。
テレビを全く見ないこともあってmiletのことを知らなかったが
スクリーンに映える美しさと歌声に魅了された。願わくばもっと
歌唱場面を入れて欲しいとも思った。
作家を目指すリクが書いた世界観を現実世界の写し鏡のようにしている。
小説でパートナーを置いて一人で進もうとしたら彼女がパートナー
ではないパラレルワールドに行ってしまった。小説でパートナーと
一緒に進む選択をしたら彼女が現実世界でもパートナーに戻った。
クライマックスで前園ミナミが歌う歌にもこの映画の世界観が反映されて
いて心に響いた。
(特定の)誰かに読んで欲しい物語・(特定の)誰かに聴いてほしい歌。
最初の読者になりたい・最初のリスナーになりたい。二人ともその
原点を思い出したのが良かった。