「化け猫にもなれば猫神にもなる」化け猫あんずちゃん 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
化け猫にもなれば猫神にもなる
母親を亡くし、父親は借金まみれ。
そんな父親に連れられて、実家である田舎町の寺にやって来た11歳のかりん。
そこで出会ったのは…
こういう作品の場合、その出会いが要。
同世代の女の子? 男の子?
ちょっと年上のお兄さん? お姉さん? 人生を教えてくれそうな大人か、老人?
それとも、人間ではない存在…?
ズバリ、猫なのだが、猫は猫でも化け猫。
雷雨の日に拾われ、住職夫妻に大事に大事に育てられ…。
猫にしては長寿。10年経っても20年経っても死なず。
遂には30年経ち、人間の言葉を話せるように。
その名も、化け猫のあんずちゃん!
いましろたかしの同名コミックを、山下敦弘監督と『クレヨンしんちゃん』などに携わったアニメーション作家・久野遥子のタッグで映画化。
なるほど、アニメーションでしか表現出来ないユーモラスな作風。
何と言っても、あんずちゃんのキャラ!
年齢は37歳。猫で37歳なら、人間の歳だと相当。
当の本人(猫)は働き盛り。普段は寺男、たまに按摩のバイトやその他諸々。
バイクに乗って移動。が、人間じゃないから…と無免許のままで、お巡りさんに停められる。
スマホを使う。お酒も嗜む。臭い屁をこく。親父ギャグを言う。…
中身は完全おっさん。
だけど、情に厚い。仲の良い中年おじさんのよっちゃんの為に、取り憑いた貧乏神に「引いてくれ」と掛け合う。
地元では名が知れ、小学生男子二人が弟子入りを乞う。
どうやらこの町では、あんずちゃんの存在は普通。巨大猫が人間のように歩き喋っても、誰も驚かない。
所謂『ドラえもん』の世界みたいな。そういや日本の漫画の世界には他にも居たね。『うる星やつら』のこたつねことか。
ぼやきは多いが、面倒見は良く、おしょーさんから孫のかりんの世話を頼まれる。
一見可愛らしい普通の女の子のかりん。
が、実際は大人の前では猫被り。あんずちゃんや同世代の子供の前では毒舌。
自分の魅力を使って、お願い事やお金を恵んで貰おうとする、末恐ろしい子!
自分を田舎の実家寺に預けた父親を苦々しく思っており、何かと舌打ち。
しかし、心根では死んだ母親を今も思っており、孤独を抱えた女の子。
おっさん猫と小生意気で孤独な女の子のひと夏の交流。
時代設定は現代だが、雰囲気は昭和。あの小学生男子二人の感じなんか。
ノスタルジックであり、独特のユーモア。いやズバリ、緩い笑い。
何気ない日常をユーモラスにシュールに描いており、劇的な事は起きず。
今のアニメーションに求める斬新さ、テンポの良さ、ドラマチックな感動やリアリティーを見たい人には合わないだろう。山下監督の緩コメディのあの感じ。
キャラは役者の動きを基に、アニメーションを描き写す“ロトスコープ”を使用。あんずちゃんは森山未來が声と動きも担当。よって独特で好みは分かれるかもしれないが…。
しかし私ゃ、この作風が気に入った。
シュールだけど、ノスタルジックでハートフル。
あんずちゃんにかりん。
おしょーさん。小学生男子二人。よっちゃん。
メッチャ可愛いうずらのようなピーピーちゃん。情に厚い妖怪たち。…え? そうそう。この町には妖怪たちも住んでいる。
貧乏神。そして、地獄からの珍客…!
終盤、思わぬ大(珍)騒動。
母親会いたさに、貧乏神の案内で、あんずちゃんとかりんは地獄へ。
地獄と言っても何だか平和的。でもちゃ~んと、○○地獄とか怖~い怖~い罰はあるけど。
何故か地獄のホテルで清掃員をしている母親と再会。その直前、現世で半殺しの目に遭って現れては消える父親にはウケた。
母親を連れ立って現世へ。勿論これはご法度。
あんずちゃんたちを追って、地獄から鬼たちや閻魔様が現れる。
何故かコテコテ関西弁の閻魔様。手下の鬼も含め関西やくざみたい。
かりんや母親を守る為に、あんずちゃんや妖怪たちは鬼たちに立ち向かう。だけど、メッチャ弱ェ…。
迷惑はかけられない、と母。
駄々をこねるかりん。
掟を破ったからには覚悟は出来てるんやろな、と閻魔様。
はい、と母。
帰るで、とそれ以上何も言わない閻魔様に、厳しくも温情を感じた。(閻魔様を演じるは、宇野祥平)
別れの時。かりんは逆立ちしてみせる。私はこんなにも成長したよ。
また風変わりな日常が戻って…。
借金を精算した父親が迎えに来る。
苦々しかった父も自然に受け入れる。
このひと夏、奇妙な体験、ユニークな出会い…。
少女は確かに成長した。序盤と終盤の表情も違う。
だから…。
父親と帰ろうとしていたが、かりんは戻る。
この町が、あんずちゃんが、いつの間にか大好きになっていた。
あんずちゃん!
かりんが寺に戻った所で終幕。
絶妙な終わり方であり、その後はどっちにも取れる。
あんずちゃんと再会し、この町で楽しく暮らしました。
もしくは…
あんずちゃんは居なかった。
あんずちゃんは化け猫。何か訳あって化け猫として長生きし、この世に留まっていた。
それを終えたから…。
私的には後者の方がしっくり来る。
あんずちゃんは幸福の猫神様だったのかもしれない。