劇場公開日 2024年7月19日

「あんずちゃんのキャラが良い」化け猫あんずちゃん ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5あんずちゃんのキャラが良い

2024年8月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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 同名コミック(未読)の原作があるが、本作の主人公かりんは映画独自のキャラクターということだ。
 まずはこのオリジナルキャラがよく出来ていると感心させられた。多感な少女の苛立ちや親に対する反抗は、よくある話といえばそれまでだが、その葛藤を実に丁寧に描いてる。

 かりんは小学5年生の割に現実思考な少女で、少し大人びたようなところがある。いつまで経っても自堕落な父親の影響でこういう性格になったのかもしれない。町の少年たちと比べてみてもそれは歴然で、全然子供らしさがない。それが後半にかけて、母を恋しがる年相応の少女になっていくのだ。
 無理に突っ張っていた女の子が自分の弱さを認め成長していくという、その変遷が丁寧に描かれているおかげで、終盤は自然と感情移入でき思わずホロリとさせられてしまった。

 監督は久野遥子。彼女は岩井俊二監督の「花とアリス殺人事件」でロトスコープアニメーションディレクターを担当したことで世に出てきた人である。本作も、画面の元となる映像を一旦実写撮影し、それをアニメーションで描き起こすロトスコープの手法がとられている。
 そして、その実写映像は山下敦弘監督が撮影したということである。したがって、本作は両名の共同監督作となっている。

 とはいえ、普通ロトスコープのアニメはリアルさを前面に出すものだが、本作はキャラや世界観が非常にマンガ的で、あまりロトスコープっぽさを感じさせない。アニメーションを制作したのは老舗のシンエイ動画でクオリティという点では問題ないのだが、ロトスコープならではのヌルリとした動きが見られなかったのは少し意外であった。かりんの父親と後半の東京のシーンのモブに如何にもロトスコープっぽい動きが確認できるものの、それ以外は普通のアニメという感じがした。敢えて手描きアニメらしい温もりのある映像に仕上げたかったのかもしれない。

 物語は前半は淡々としているが、中盤以降は跳ねた展開で楽しく観ることが出来た。アニメーションならではのデフォルメされた表現も快調で、シュールなシチュエーションも大変魅力的である。ラストにも溜飲が下がった。

 全編緩いテイストが横溢するが、時折シビアな場面もあり、幾ばくかの歯ごたえも感じられた。
 特に印象に残ったのは、かりんが同級生の少年と再会するシーンである。かりんにとっては極めて大切なことも、相手の少年にとっては退屈なことでしかなかったという非情な現実。かりんの落胆が手に取るように分かり、何とも切なくさせられた。

 そして、本作最大の魅力は、何と言ってもあんずのキャラクター。これに尽きる。
 化け猫という、この世の者ならざる存在ながら、バイクの無免許運転でお巡りさんのお世話になったり、パチンコしたり、立ち小便したり、所構わず屁をこいたり、中身は完全にだらしのないオッサンである。見た目も中年太りのオッサンのようでパッと見は全然可愛らしくない。しかし、そんな見た目とは裏腹に、時にかりんを気遣う優しさを見せ、どこか憎めないキャラクターとなっている。

 貧乏神も良いキャラをしていた。ふんどし姿の禿げたオッサンという冴えない見た目で、性格もとことん気が弱く、あんずとの掛け合いでは常に貧乏くじを引かされる。何気に物語のキーパーソンになっている。
 他にも、あんずと親しいよっちゃんというオッサンも良い味を出していた。
 こうしてみると、本作は冴えないオッサンてんこ盛りなオッサン映画と言えるかもしれない。

ありの