劇場公開日 2025年1月24日

「古色蒼然とした美談か、アグレッシブな実験作か」雪の花 ともに在りて 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5古色蒼然とした美談か、アグレッシブな実験作か

2025年2月28日
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もうすごいから。なにがすごいって、黒澤明の実直な弟子みたいなイメージが強かった小泉堯史監督が、ここにきて独自の世界を完成させてきたから。

「自分が会いたいと思う胸のすくような立派な人物に、映画を通じて会ってみたい」という小泉監督のいささか無邪気なアプローチは、およそ監督がみたいと思わないものはすべて排除されてしまうため、見方によってはとても一面的で、薄っぺらくさえ見えてしまうと思う。

しかし、映画なんて突き詰めれば究極の絵空事であり、その絵空事をリアルに見せることに多くの映画作家や俳優たちは腐心してきたわけだけれど、リアルであることよりも心がこもっていることを優先したらどうなるかという試みのひとつの完成形が、『雪の花 ともに在りて』なんじゃないかという気がしてくる。

徹底的にまっすぐなセリフと、それをてらわずに演じきるシュールなくらいまっすぐな演技。それでいてときおり娯楽映画ならではのサービスをぶっ込んでくる小泉監督の実直さと、正面から応える松坂桃李と芳根京子! 特に芳根京子は見せ場がありすぎてヤバイ。

古色蒼然とした古臭い映画、のはずが、なにか新しいものが生まれていて、ジワジワと良さが沁みてくるし、考えたら結構な回数笑わせてもらってサービス満点。同じように感じてもらえるかはわからないが、小泉組の高齢化によって黒澤組から伝わる伝統芸もなくなっていくでしょうし、ひとつの日本映画の形としてこれが作品として保存されたことも良かったと思います。

村山章