愛に乱暴のレビュー・感想・評価
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「分かり易いもの、言われないと気づかないもの」・・・狂気とエロス
両端が黒くつぶされる4:3の画面比率の映画でしたが、冒頭、何十年も使い倒されて燻んだトーンになっている古びた家屋における台所仕事を詳細に描写されたりする中で、まるで古いドキュメンタリー映画を観せられてる様な錯覚に陥りました。まあ、スマホ出てくるし、LINEっぽい描写もあるから現代の話に違いないのだけど。
今思えばこの段階で既にわたしは監督の術中にはまっていた訳なのですが、この作品において徐々に顕在化していく沢山の「狂気じみたもの」は、今、目の前で突発的、偶発的に生じたものではありません。
過去の長い長い年月を経てその狂気は徐々に醸成され、当人にとってはそれは当たり前の事象、下手すると世間的にもギリ許容されるんじゃないかと・・・いわば拡大解釈や誤認がすすんでしまっていることに、とても恐怖を感じました。
若干のパート勤めはあるがほとんど専業主婦である桃子を演じるのは演技派女優、個人的に大好きな江口のりこさんです。
年齢的に最後の妊活に興味があるが亭主は全く協力的でなく、むしろその亭主の浮気が疑われる最悪な状況に追い込まれ、精神的に不安定さが増し、徐々に言動の異常性が目立ち始める桃子。
しかし、亭主はじめ主要な登場人物のほとんどは様々な要因で「ナチュラルに狂人(笑)」でして、言われないと気づかないくらいの程度に常識人の姿に化けています。その化け物達に囲まれる中、桃子の分かり易い狂気が正当性を保ちつつ物語をひっぱっていくという稀有なパターンとなっています。
原作未読ですので、原作が素晴らしいのか脚本もしている監督さんの腕が立つのかよく分かりませんが、これだけ目を背けたくなる狂気をとっちらかしながら何やら爽やかな読後感さえある締め方にとても好感を持ちます。
あと、着目点に品が無くて申し訳ないですけど、ストーリーに必要な必然的なエロスも、狂気と同様、「分かり易いものと、言われないと気づかないもの」をしっかり提示していて素晴らしかったです。「言われないときづかないもの」に関して言及しますと「不倫相手の部屋での演出、演技指導?」とか、フェチ目線?ではもう完璧としか言い様がありません。やはり敏腕ですね、森ガキ 侑大監督は!
江口のりこさんの体当たりの演技はじめ、演者の皆さんがその演技に静かな狂気を含んでいて本当に素晴らしかったです。
ぜひご鑑賞ください!
江口のりことチェーンソー
「ありがとう」と言ってくれてありがとう
江口のりこはこの5ヶ月で3本目の主演映画公開です。で、この「愛に乱暴」は本当に彼女ばかりカメラは追い、彼女のいないシーン(もちろんいないカットはありますが)はありませんでした。まさに主演映画です。
冒頭から10分ほどで彼女の現状がわかります。夫との関係や義母との関係、以前勤めていた会社が主催する「手作り石鹸」の講師などですが、確かに彼女にとっては不満な生活かもしれませんが、「それなり」に充実しているとも言えます。義母との関係もいうほど悪くはないと思います。
ただ、夫が若い女と関係を持ち妊娠させてしまうようなクズです(爆)しかも、同じような理由で現在の嫁も元嫁と離婚したうえでの再婚です。徐々に壊れていくヒロインですが、その壊れていくさまが鬼気迫るものがあります。江口のりこの演技はさすがです。ただ、誰のためのサービスカットなのでしょう(笑)私は好きですが。
彼女が正気に戻るのは、得体のしれない中国人青年との初めての会話です。
「いつもゴミ収集所をきれいにしてくれてありがとう」
劇中、彼女は夫に「あなたはありがとうって言わないよね」と一言いいますが、スルーされてしまいます。観ている方も・・・私もよく妻に言われるセリフなのでスルーしがちですが、この他人からの感謝の言葉こそが彼女を正気に戻し、あくまでも想像ですが彼との離婚にも応じたのだと思います。
この女を怒らせてはならない。荒ぶる女神 江口のりこの姿を目に焼き付けろ。
フィルム撮影されている。冒頭から適度に荒れた画像で、主役初瀬桃子の姿が延々と映し出される。ゴミ出しに行く桃子、石鹸作りを教える桃子、買い物に行く桃子、料理をする桃子、猫を探す桃子。江口のりこが淡々と能面のようなポーカーフェイスで演じる。背景はぼかされ、カメラは微かに揺れ続け、不穏な雰囲気が醸し出されている。
そもそも原作者の吉田修一が意図している「愛」とは何か。それは一種の秩序のようなものである。夫も妻も、親も子も、それぞれの立ち位置を守りそこから踏み出さない。裏では背信行為があるかもしれないが相手には明かさない。そうすれば連帯感や信頼感が生まれてくる。愛というものはそういうものだと吉田は前提におく。そして、それぞれの立ち位置からはみ出してしまう行為を「乱暴」と捉える。
原作では、主役の桃子も含め、登場人物たちが多かれ少なかれ他人に対し乱暴であり、その結果として関係性が壊れていく姿が精緻に描かれている。また吉田の作品ではよくあるモチーフの被害者と加害者が入れ替わる局面も描かれる。
映画は、途中までは実に忠実に原作をなぞっている。細かい部分での省略や改変はあるものの。
ただ、決定的に原作と映画が違っているのは途中から初瀬桃子=江口のりこが暴走を始めるところにある。それが端的にあらわれているのは、桃子が不倫相手の部屋を訪ねるところ。映画では、桃子は大きなスイカを畑からもぎ取ってもっていく。この場面は原作にはない。私は、桃子の攻撃性、暴力性をより過激に描きたいという映画製作者の意図的改変だと考える。スイカのシーンをきっかけに桃子はチェーンソーを振り回し家を破壊しはじめる。結末部分も同様で、原作はやや丸く収まっているが、映画は桃子が全てを破壊し尽くした後のようにみえる。詳細な説明はないけれど。
そして、江口のりこという女優について。よく「狂気」の演技とか言うけれど、彼女の演じる役はどこが冷めていて狂っているようにはみえない。むしろ分かっている上での攻撃性や暴力性を表現できる得難い役者なのだと思う。破壊王と呼んであげてください。
下手なホラーよりも怖い
愛情のベクトルが一致していない
タイトルなし
江口のりこさん宛書かといった感。独壇場。原作読んでないのでわからないけど、床下の秘密にはお母さんも関与しているらしく、精神分析的には抑圧物の回帰か。最初からかなりおかしかったとすれば、流産から精神を病んでたし、もともと問題あったかもしれない。頭は良さげで、それなりに人にも優しく、仕事もきちんとする感は描けているとともに、もともと江口さんのキャラとしての、自分に対してどうでもいい感というか、距離感が出てた。ただし、映像において不気味さがずっと漂っていた。孝太郎とのやり取りは、単に無関心というより、統合失調症家族のそれみたい。風吹ジュンは最近いい人役が多すぎるけど、こんなに嫌な役も上手にできるのだと関心。猫を追っ払うシーンもいい。
女性の不幸はもっと内閉化するけど、こんなに攻撃的なのはスカッとする。と共に、やはりそれは伝統芸として狂気として表現される。孝太郎の反復と無神経さと裏腹の正直さも物語として見事である。風吹ジュンがやり直せるわよというシーン、妙に救いがある。
「江口のりこさん一番」
圧巻の江口のりこ劇場😆
素人には難しいけど
やっぱり母親は息子の味方なんだな
江口のりこさん出演の作品を観る機会が続いています。どんな役でもこなす才女ですね。喝采です。見応えがあります。
息子の彼女は怪しく見えるんだろうな。
可怪しい、変じゃない、ってきっと普通の感情なんだろうな。文字通りどこの馬の骨か分からんというやつだわ。
不倫の果てに子供が出来たと言って前妻を追い出して妻の座に。幼い頃の背比べの跡が残る古い夫の実家で暮らし、別棟で暮らす「お義母さーん」に気を使う日々。
自己実現、存在意義を確かめながら生きる事の虚しさを感じた。懸命に暮らしていても周りは自分とは関わり無く動いていく。
「ありがとう」って言わない夫、「ありがとう」と言ってくれた町の外国人。望んでいたモノは自分の存在を確かめる事。
因果応報でも「このままでは貴方は妻になれません」と夫の不倫相手に宣言するところは当に居場所は渡さないと言う事ですかね。
割と値の張るお土産を買う事も自己アピールだったんだろう。だって不倫相手には庭でこさえたスイカを裸のまま持って行くんだから。
自分の実家でも部屋を片付けてくれと言われここにも居場所がなくなってしまう。
ラストのお義母さんが暮らしていた離れから古い実家が解体されるところをアイス片手に眺めている表情はこれからの人生の幸先に見えた。
雀百まで踊り忘れず
なんか地味な狂気
ありがとうは言いましょう
心の居場所は欲しいよね
原作未読ですが、大好きな江口のりこさん主演ということで注目していた本作。もちろん公開初日に鑑賞してきました。
ストーリーは、義母・照子の家と同じ敷地内の離れで夫・真守とともに暮らす初瀬桃子は、手の込んだ料理、行き届いた掃除や洗濯などを完璧にこなし、義母への気遣いを忘れず、石鹸教室の講師まで務める、非の打ちどころのない嫁であったが、真守との冷えた関係や義母へのストレスが、桃子の心と生活を少しずつ壊していくというもの。
冒頭から、そつなく家事をこなし、夫にも義母にも優しく接し、ご近所への挨拶を欠かさず、ゴミ捨て場を自主的に掃除する桃子の姿を通して、丁寧な暮らしぶりを描きます。こんな素敵な奥さんを前にして、目を合わそうともせず、気のない返事しかしない真守の姿から、冷えきった夫婦関係が伝わってきます。特に、二人のリアルすぎる噛み合わない会話がよかったです。
それでも、健気に話題を探して話しかけ、真守の出張準備までして、よき妻であり続けようとする桃子が哀れでなりません。二人の会話の中で“首輪をつけたまま捨てられるネコ”の話題が出ますが、これはまさに桃子のことです。そんなあり得ないことが、時として残酷に降りかかります。必死の奮闘も虚しく破綻する夫婦関係を前にして、ついに暴走する桃子が切ないです。
終盤で判明する桃子の過去とこれまでの行動が結びつき、サスペンスホラーのような雰囲気にぞっとします。因果応報といえばそれまでですが、桃子の生い立ちや真守との出会いは描かれないので、そのあたりはわかりません。しかし、近所の男性からゴミ捨て場掃除のお礼を言われた桃子が号泣する姿から、心のどこかでは妻として嫁として頑張る自分を認めてほしかったことが伝わります。
ただ、そんな桃子に同情しながらもどこか共感しきれずにいたのは、丁寧な生活がもたらす息苦しさと頑張る自分への承認欲求、それを感じさせる雰囲気に原因があったのかもしれません。真守を擁護する気持ちは1ミリもありませんが、彼が桃子を冷たく突き放す言葉にはちょっと共感するものがありました。
仕事も家庭も住む家もあるのに、そのどこにも居場所がない桃子。最後は、そのすべてを失うのですが、どこか清々しい彼女の笑顔が印象的です。これまで自分を縛りつけてきた家やしがらみから解放された安堵のようにも見えます。あるいは、清く正しくあろうとした自分自身を捨てることで得られた開放感のようにも映ります。取り壊される離れは、過去との決別のように感じます。
それにしても、序盤から何度も描かれる、鳴き声だけのネコへの反応、何度も気にして見ているSNSなど、ミスリードからの真相解明には驚かされます。またタイトルは、献身的に尽くす妻への裏切り、裏切られた妻の暴走、息子愛で嫁を蔑ろにする姑、他者を顧みない不倫など、自分の求める愛のために他者の尊厳を踏みにじる言動を指しているのでしょうか。愛は尊くも罪深いものだと感じます。
主演は江口のりこさんで、特に暴走する桃子の演技は彼女の真骨頂で、その実力が遺憾なく発揮されています。脇を固めるのは、小泉孝太郎さん、風吹ジュンさん、馬場ふみかさんら。中でも、小泉孝太郎さんと風吹ジュンさんのナチュラルに嫌悪感を抱かせる言動が秀逸です。
まさにタイトルどおり
江口のりこ
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