劇場公開日 2024年7月19日

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「グルーよ、おまえもか…。アメリカ人男性が抱える「良き父親になる」というプレッシャー」怪盗グルーのミニオン超変身 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0グルーよ、おまえもか…。アメリカ人男性が抱える「良き父親になる」というプレッシャー

2025年3月14日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

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楽しい

興奮

あくまで独断と偏見で言うのだけれど、アメリカのアニメ映画とかファミリー映画をずっと観てきて心に引っかかる点が二つある。

一つは主人公が最後の最後に偉大な仕事をやり遂げて群衆から拍手喝采を受ける、という展開が多い(気がする)こと。
もちろんエンタメ映画の主人公というのは大体において困難なミッションをやり遂げるものなのだけれど、アメリカ映画だとスポーツ選手みたいに群衆から拍手喝采を受けて終わるという展開が多い(気がする)のだ。

もう一つは作品が人気が出てシリーズ化すると、主人公が結婚して子供が生まれるという展開が多い(気がする)こと。

きちんと統計を取ったりしているわけではなくあくまで独断と偏見で言っているだけなので、実際はそんなに多くないのかもしれないけど、今作のようにグルーが子育てに奮闘する展開を観ると「グルーよ、おまえもか…」という気持ちになってしまう。

あくまで独断と偏見なのだけれど(しつこい)、アメリカ人の、特に白人男性は「大きな仕事を成し遂げて大勢の人たちから拍手喝采を受けて一人前」「結婚して子供を作って、子供から尊敬される良き父親になって一人前」というプレッシャーがすごく強い気がする。

アメリカという国は大雑把に言うとヨーロッパ各地から新天地を求めて移住した開拓民が先住民を駆逐して築き上げた国なので、国民(特に白人)のアイデンティティとして「新天地で一旗上げる=アメリカン・ドリームを達成する」「成功して故郷の人たちから拍手喝采される」というものが根強くあるのではないだろうか。

さらに開拓者にとって家族を増やすというのは厳しい開拓地で生き残るための必須条件であり、その記憶は現代においても影響を与えていて、「子供がたくさんいる温かい家庭を守る強くて優しい父親」というのがアメリカの白人男性の一種の理想像として定着しているのではないかと思われる。

今作のグルーファミリーは自分たちを狙う敵から逃れるため、証人保護プログラムのように新たな身分を手に入れてメイフラワーという町で別人として暮らすことになる。

メイフラワーといったらアメリカ人なら誰でも知ってる、イギリスの清教徒が迫害を逃れて新天地を求めてアメリカに移住するために乗り込んだ船の名前である。

メイフラワー号に乗って新天地を求めて移り住んだ開拓民のご先祖様と同じように、新たな町メイフラワーで「良き父親」であろうと奮闘するグルー。
ご近所付き合いもやらなくちゃ、というわけでお隣のビジネスマン夫婦とテニスクラブに行ったりもする。
でも、誰がそんな小市民的なグルーを観たがるというのか。

もちろん親子の絆や子育ての大切さをファミリー向けアニメで描くのは当然と言えば当然なのだが、グルーが三人娘を養子に迎えるというのが心温まるエピソードだったのに対して、結婚して子育てに奮闘するというエピソードはシリーズ化のテコ入れで無理矢理ねじ込んでいるという感じがして、あんまり面白さに繋がっていなかったと思う。

日本の作品と比較するのもどうかと思うが、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』は、野原ひろしが自身の父親としての責任と向き合うというのが大きなテーマであり、それが作品の面白さ、感動と直結している傑作だった。

一方、今作で「良き父親」であろうと奮闘していたグルーであるが、最終的には怪盗稼業に精を出したり敵と戦ったりもするのだが、なんとなく「もう子供も生まれたし、家庭を守る責任もあるしバカなことはやってられません」的な雰囲気が濃厚になってしまって、いまひとつハチャメチャ感のない面白みのない作品になってしまったと感じてしまう。

ミニオンもファンタスティック・フォーやX-MEN やスパイダーマンなどのパロディーで頑張ってはいたが、大して活躍もせず消化不良状態。

赤ん坊のグルーJr.が『Mr.インクレディブル』のジャック・ジャックと見た目がそっくりというのは指摘されてる方も多いが、『Mr.インクレディブル』が「良き父親」でいることに疲れ果てたところから主人公が再生するまでをしっかり描いているのに対して、今作は適当なところでお茶を濁して終わらせた感は否めない。

変身したメガミニオンたちがもっとハチャメチャな活躍してくれていたらもっと楽しめたと思えるだけにかなり惜しい作品。

一つだけ良かったのは隣家の少女ポピー。
「良き父親」としてのグルーではなく「仕事をする男」としてのグルーに理解を示してくれる女の子キャラというのは都合がいいといえば都合がいい存在だけど、観ているこっちのオッサン心もずいぶん彼女に慰められた(笑)。

盟吉津堂
ももえもんさんのコメント
2025年3月18日

明吉津堂さん、共感とフォローをありがとうございます✨私も最近この作品を鑑賞して、レビューを拝見させていただきました!はちゃめちゃで楽しいこの映画をこんなに具体的に分解されていてすごいなと思いながら読んでいました😊最後のポピーに対する視点はなるほど!と思いました🤭他のレビューされた作品も拝見いたしましたが、今まで通ってこなかった作品ばかりで勉強させていただきます、、!
よろしくお願いします☀️

ももえもん