ルックバックのレビュー・感想・評価
全815件中、41~60件目を表示
鎮魂歌
リバイバル上映で初見。アニメ・漫画好きではないが、手書きのタッチが新鮮。小さい頃から手書きの漫画に魅せられた二人の物語にぴったりの表現となっている。田舎のあぜ道のシーンなどもいい。
あの大事件をモチーフにしていることがわかるが、「あり得たかもしれない過去」を考えるのは辛い。いずれにしても、二人は漫画で繋がる定めになっていたと読んだ。
エンディングの賛美歌のような楽曲が、作品のテーマと相まって、鎮魂歌に聞こえた。
ところで、オープニングとラストがいずれも主人公の背中をじっくり見せるショットで、タイトルのダブルミーニングかとも思ったが、こじつけかな?
1時間弱の作品で一般公開されたことも話題になったが、もう少し二人の姿を見ていたかった気持ちはある。
美しさと耐え難い喪失感
3Dアニメが主流になってきてしまっている中、終始手描きアニメならではの繊細さと美しさが押し寄せる。
雨の中、田んぼ道を駆け抜ける藤野のシーンの躍動感や感情表現は特に素晴らしかった。
美しい音楽と相まって見入ってしまう。
嗚呼劇場で観たかった。。
改めて絵描きや、漫画家は職人なのだなと。
高い画力はありつつスポーツも万能で社交性の高い藤野と、引きこもりだが無機物の画力が異常に高い京本。
正反対な2人の切っても切れない関係も素敵だった。
後半の絶望的な展開は京アニ事件を彷彿とさせるが、あの事件の痛ましさを追体験するようだった。
(軽々しく言えるものではないし、当事者の哀しみを理解することはもちろんできないが)
どんなに直向きで純粋な夢を抱いて生きていても不幸は起こる。
それでも今の自身にできることをする。
していることに意味を見出さなくては。
悲劇の記憶はなくならない。
喪失、罪の意識を抱えてもなお、生きていかなくてはならない。
自責と反省
競争相手のいない中を独走する藤野は称賛を独占し自信を付けていく。京本の存在が皆に知れ渡り挫折しかけるが、京本が自分にだけ見せた一面に自信を取り戻す。京本に背中を見せることで
京本と成功して、いよいよという所で京本が自分の元から自立しようとする。藤野はここで背を向けてしまう。
孤軍奮闘という状況にある藤野の耳に事件が届く。そうしてやっと過去を顧みて自責の念にかられ、後悔する。藤野は、京本がいなくなった後でしか向き合えなかった。
だが京本はずっと見てくれていて、自分の支えにしつつ陰ながら支えてくれていたことを、藤野は知る。進む目的を得た藤野は不条理な運命に理由を探すのは止める。
藤本タツキがルックバックを描き上げることで救われたような気がしたと言ったのが、言葉の前に心で納得できる作品だった。
悲しみを誤魔化さない
作品の背景として、ある事件の影響を強く受けた映画なのは、もはや言うまでもありません。
事件のやり切れなさ、行き場の無い怒り、悲しみを、あくまで第三者として共感の意を示すことに作品として意味があったのかも知れません。
日本人は体面を気にして感情を表には出さないけれど、「悲しいときには悲しんでいいんだよ」というメッセージを感じました。
現実にIFは無い。
けれど、そんな空想に逃げることすらできなくなったら、この世はとかく生きにくい。
悲しみは消えないけれど、また立ち上がって歩く。
そんな強い背中(バック)を見て(ルック)励まされる映画です。
2人で過ごした時間が愛おしい!
なんて悲しい結末なんだろう。だからこそ、出会い、作品作り、別れ…2人が過ごした時間がとても引き立つ。
それぞれが「彼女のように書けるようになりたい!」と、姿見えぬライバルを目標に、必死に絵の練習した小学時代。春も夏も秋も冬も、無我夢中に描き続け、ヒット作を生み出した中高生時代。
ずっとこんな幸せな時間が続くかと思いきや…引きこもり京本が美大に進むことを告げる。これからデビューなのに…良いパートナーなのに…ショックすぎて、暴言を吐いてしまう藤野。痛いほど、彼女の気持ちがわかる。
ケンカ別れをした後、悲しい事件が起こる。いろんな後悔が頭の中を駆け巡ったんだろう。藤野の気持ちが痛いほどに伝わってきて、涙が止まらなかった。
大量のスケッチブック、藤野のサインが入った半纏、出会いのきっかけとなった4コマ漫画…「もし会わなかったら、こんなことは起こらなかったかも」という気持ちがよぎるものの、本棚に並ぶ藤野のコミックを見ると、別れた後も京本が応援してくていたことが見てとれる。
2人で紡いできた過去があり、今がある。辛く悲しい出来事を胸に、また描き続ける。きっと京本は、側で見続けている、彼女に自慢できる作品を作ろう、と。
シンプルなストーリー展開、セリフではなく描写で真意を語る描き方…だからこそ、登場人物の気持ちがよくわかる。久しぶりに素晴らしい映画に出会ったわ。
温かい良い映画だと思ったけど一転して切なく
面白かったです。
温かい良い映画だと思ったけど、一転して切なくなる。
でも、救いもある。あると思う。
そんな感じの物語でした。
このアニメーションの制作背景は知らないのですが、最近のアニメーションにしては、背景とか絵が細かくないです。
例えるならば、ドラえもん並み。
そういうアニメだと思って観れば気にはならないけれど。
ちょっと言葉にならない。
普段アニメ観ないけど
綺麗な絵だし藤野ちゃんのキャラが人間臭くて面白くってグイグイ観てしまった。お涙頂戴みたいな感想もあったけれど、自分はこれまで京アニ殺人が何処か遠くの出来事のように思っていた状況から一気に近くに引き寄せられた感じ。亡くなった方ひとり一人ひとりにこのコみたいな人生があったんだよなと。
日航機墜落事故や知床遊覧船沈没等は一歩間違ったら起こり得る事として恐怖と悲しみを激しく感じていたが、京アニは自分が関心無いアニメ界の事なのでかなり遠い事件だという感覚だった。この映画で初めて恐怖ととても悲しいという感情にひきこまれた。
改めて京アニの被害者さま達へ御冥福をお祈りします。
雨のシーンは形は違えど誰もが何かしら経験したことがあるのではないの...
それでも生きる
凝縮されたストーリーに好感が持てた
原作未読。
無駄のない作品でとても好印象だった。藤野の育ってきた背景からはじまり、京本と出会い仲良くなっていく様子やふたりの関係性が明確に描かれており迷いなくストーリーを楽しめた。
良かった点として、言葉で語らず描写で表す場面が全編とおして多くよかった。藤野の本棚が話が進むにつれて変化していく様子は胸が熱くなりました。
気になった点として、アマプラで視聴していたが故か挿入曲が入るシーンで音量がバッと大きくなるのが3回ほどあり音量をその度に下げていたため評価下げてしまったが、映画館では逆に相乗効果として高評価になるのかな。ほんとに無駄なストーリーがまるでなく気分よく見られる作品でした。
『ルックバック』したことで気づく絆と成長
2025日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品に輝いた本作。小学校時代から、漫画家を目指してきた2人の少女の青春群像劇。自分の娘も漫画家をしており、高校時代からいろいろな作品投稿をし認められ、集英社からこれまでにも何冊かコミックも出している。しかし、コロナ禍となり、思うように絵が描けなくなり、一時は挫折し、この世界の光と影を味わってきた。今は、背景アシスタントをやりながら、復活を目指して頑張っている。
そんなことで、本作に登場する漫画家を目指す藤野と京本2人の、漫画にかける想いだけでなく、様々なシーンがオーバーラップしてきた。絵を描く部屋や同じスケッチブックが積み重なった様子、当初は、ペンで描いていた原画を今はパソコンで描いている作業、そして美術大学進学か漫画家の選択等、実際に娘の成長を通して、目の当たりにしてきたことである為、より感情移入ができた作品でもあった。
原作は未読だが、『チェーンソーマン』の藤本タツキの作品と言うこと。きっと彼も漫画家を目指した頃の思いが、この2人の姿に投影されているのだと思う。個人的には、京本から「藤本先生の大ファンでした」と告られた後、雨の中、泥水も気にせずに、小躍りしながら家に向かうシーンは、藤野が気持ちの高揚を抑えられない様が、見事に伝わってくる描写だった。また、ジャンプの賞発表を、雪のコンビニに藤野が京本の手を引いて向かい、自分達の名前が掲載されていた時のシーンは、派手な喜びではないが、確実に嬉しさが染み渡るシーンだと感じた。
そんな中、連載が決った時、京本が美術大学進学を選んだ理由として、引きこもりだった京本が、これからの人生を自分で切り開き「藤野に頼らなくても生きていきたい」という、切実な思いが込められていたように思う。一方、京本の才能に最初から気づいていた藤野だからこそ、これまで常にマウントを取っていないと不安だったが、京本の大学進学が、藤野を漫画家として独り立ちさせる後押しになったとも感じた。
ラストには、意外とも言える悲しい結末が待っており、そこで初めてタイトルの『ルックバック』(回想・振り返り)の意味合いの重みも増してきた。そして、卒業式のあの日、藤野が何気なく描いた4コマ漫画が、バタフライ・エフェクトとして、その後の2人の人生に、大きく左右する発端である事が意味づけられる展開は、作者のストーリーテラーとしての巧みさを感じた。
泣くしかない、だけど進むしかない
映画館で見ればよかった
歩み
なんか、胸に詰まる。
漫画家の話だ。
漫画家になるまでと漫画家として生きていく話ではあるけれど、人生訓のようなものがいっぱい詰まってた。
「一意専心」なんて言葉が浮かぶ。
脇目も振らず邁進していく意味だと思うのだけれど、その行為に支払われる対価は「時間」だ。
小学生から物語は始まり、22歳くらいまでが描かれるのかな?彼女達は人生の大半を漫画に食い潰されるような描き方だった。
その消費されていく時間に、努力なんてものが引き合いに出されるのだけれど、積み重なる尋常じゃないスケッチブックの物量を第三者が「努力」と誤解するのかもしれないと思った。
京本は言う「他にやる事がなかった」
コレは努力から派生する言葉ではない。彼女にとっては別の目的でスケッチブックは積み重ねられていく。その歩みの先に「漫画家」があった時に美談として語られるエピソードにはあたるだろう。
偏に、持って生まれた才能の発露に過ぎないんじゃないかと思われる。
2人は何年も机の前で過ごす。
何時間も何日も、机に向かいペンを走らす。
コレも努力じゃないんだと思う。必要であり彼女達にとっては普通の事だ。
それを異常に感じる当事者以外の者たちが「努力」と後付けの説明をするのだろう。異常を異常と感じず日常にできる人種でないと住めない世界なのだ。
京本は通り魔に襲われて死ぬ。
袂を分けた2人がまた組んで漫画を描く未来に期待したのだけれど、そんな綺麗事は起こらなかった。
京アニの事件を彷彿とさせる内容…胸が掻きむしられる思いだ。嫉妬にしか捉えられない。劣等感を拭い去る為に他者を排除する…何一つ生産性のない解決策で、誰かを排除しても他の誰かが代頭する。どんなに困難に思えても自分を磨くのが1番の近道で、ゴールが全く見えなくてもやり続けるしか手がない。
そして、通り魔でなくとも人は死ぬ。
誰しもに平等に「死」は訪れるのだ。その先にあるのは「無」である。フジモトとの未来も、京本の絵の完成も、全ては実現できなくなる。
どんなに惜しまれても取り返しはつかない。
…儚い。
途中に挟まれるパラレルワールドには面食うのだけど、フジモトの願望なのかもしれないし、アンサーである4コマは偶然の一致なのかもしれない。
京本の死を乗り越えて彼女はまた机に向かう。
他に出来る事が無いからだし、やりたいと思う事もないのだろう。骨の髄まで「漫画家」であり、プロフェッショナルの正体でもあるのだろう。
アンサーの4コマで、フジモトの背中にはツルハシが刺さってて血みどろである。だが高笑いをして去っていく。ベタな落ちではあるけれど、アレもプロとしての生き様なんだと思う。裏で血反吐を吐こうが、ボロボロになってようが観客や読者には見せない事の揶揄に思えて仕方がない。
そんなメッセージを京本が込めたわけではなく、むしろフジモトが気づいたのだろうなとも思う。結果として京本はうずくまるフジモトの背中を押した。
ルックバックは様々な解釈ができていて優れたタイトルだと思う。
軌跡を「振り返る」事でもあるし、作中に差し込まれる「背中を見て」の訳は、京本が見てたフジモトの「背中」でもある。それは京本が大事に持ってたフジモトのサイン入りのチャンチャンコの背中でもあって、押された背中を振り返れば、その背中を押した人が必ずいて、独りではないんだとのメッセージも含まれるような気がしてる。
そして、フジモトは京本に背中を押されて、再度ペンを取る。
ファンがいる。
自分の作品を楽しみにしてくれている読者がいる。
きっとそんな事を、あのチャンチャンコから感じたのではあるまいかと思う。
原作は未読であるが短編らしい。
とても情緒豊かな語り部であったと思う。
多くは語らず…が、雄弁に問いかけてくる作品だった。
こういう展開にならない世界線も観てみたかった。と思ったら
尺は短いけど心に沁みる良作
全815件中、41~60件目を表示