「テーマは「時間」」ルックバック Naughty_O_Kicksさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマは「時間」
言うまでも無いが漫画とアニメの違いと言えば、漫画には無い動きと音の表現がアニメにはあることだ。原作を読んだ時との大きな違いは主人公の東北訛りや背景の動きにより舞台が地方都市だということが鮮明になった点だった。アニメならではの俯瞰的なカメラワークで映される田園風景や背後で田植え機が動いている様子など、自分が幼少期に過ごした町とリンクして主人公らの心情がより近く感じられた。
このアニメ化によって「時間」がより輪郭を増している事も印象深かった。冒頭の4コマ漫画を考える藤野の様子や、2人が共同で最初の作品を制作する様子、街に出てはしゃぐ2人、高校卒業を控えてそれぞれの行く道を決めるまでの時間経過が(もちろん原作でも描かれてはいるが)より丁寧に表現されていた。
そしてあの悲しい事件の後、藤野が後悔の念から起こした行動が時間を超えて「起こり得たかもしれない別の世界」を我々に見せてくれた。藤野が望んだのであろう12歳当時の二人が出会わなかった世界線。その時間軸では京本の命を藤野が救い、奇しくも二人は現実世界と似て非なる共同作業を始めるかも知れないという微かな救いは、藤野の知るところではないという悲しさでもあった。それでも、その世界からの奇妙な繋がりによって藤野は京本からの「背中を見て」というメッセージを受け取り、京本のため/そこに居ない誰かのために作品づくりの世界へ戻っていく・・
特筆すべきはエンドロール。黙々と液晶タブレットで作品を描くデスクの向こう側には、実家の勉強部屋から見える風景とは全く異なるビル群。そしてそのビルの窓に傾いた太陽が反射し、陽が陰り、空が焼け、やがて夜の帳が下りてきて、藤野が作業を中断し部屋を出る。そんな時間経過をシームレスに見せる演出とバックに流れる「Light song」が、全ての表現者と志半ばで命を落とした人々を照らす希望の光になって欲しいと願ってやまないのであった。