劇場公開日 2024年6月28日

「鬼才が作った作品を天才たちが奥行きを広げる」ルックバック bionさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0鬼才が作った作品を天才たちが奥行きを広げる

2024年6月28日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 藤本タツキが産み出した『ルックバック』を押本清高が奥行きをつけ、河合優実、吉田美月喜が藤野、京本に息吹を吹き込む。

 原作は10回以上読んでいて、一体どんな作品に仕上がってくるのか、期待と不安でいっぱいだったが、藤野の第一声を聞いてすぐに安心した。さすが、河合優実。事前情報がなかったら、「完璧に藤野を演じる声優は誰だ?」ってなるよね。
 秋田弁ネイティブ引きこもりの京本も原作のイメージそのまま。わざとらしさがない朴訥とした喋り方で藤野への憧れの気持ちを絞り出す。
 ここのシーンは、初見であればコメディー的な感想を持つと思うが、先行きを知ってしまっている自分にとっては、涙が溢れてしまう。

 京本にべた褒めされて、藤野が思わず歓喜のジャンプをする。
 原作では見開き2ページを使っていて、ページをめくらずに、気の済むまで藤野に感情移入する静止時間帯。
 ここのシーンをアップのスローモーションで演出するのではなく、映画的な表現で藤野の気持ちを表す。
 京本が視界から消え、誰1人いないあぜ道を嬉しさにまかせて、全力で走る藤野。引きのアングルで自宅まで走り続ける藤野が映し出される。一刻も早くマンガを再開させたい藤野のはやる気持ちがスクリーンから伝わってくる。

 『まんが道』的な展開から直角に折れ曲がり、よもやの出来事が待っているこの作品。
 何度読んでも、胸が締めつけられる。それを、こんな素晴らしいアニメーションで鑑賞できるとは。

 出張が早く終わったので、2回続けて鑑賞。2回目の回は、作品を愛する観客で埋め尽くされていて最高の環境だった。
 重要なシーンでは誰も物音を立てずに息を呑んでスクリーンに集中している。エンドロールが終わると、感謝の拍手。

 感動を共有して、余韻にひたる。何と贅沢な時間。

追記
 3回目のルックバック鑑賞。あらゆるシーンで、背景がおそろしいくらい緻密に描き込まれていることに気がつく。
 京本も無事に美大を卒業していれば、アニメーションの背景担当になったのかも。

 なぜ描き続けるのか?

 マンガやアニメには現実逃避だけではなく、辛い現実を癒す力がある。藤野が自ら作った4コマの世界が生命を持ち、希望という形になって戻ってくる。

 haruka nakamuraの音楽を聴きながら幕が下りる。明日への活力がみなぎってくる。

bion
またぞうさんのコメント
2024年6月29日

返信ありがとうございました。4コマは本当にシュールで、あれ見て「絵が上手い」と言ってるクラスメートのあたり、ブラッシュアップライフの福ちゃんを思い出しました。

またぞう
またぞうさんのコメント
2024年6月29日

褒められた藤野の走り、私もここが映像化の価値を感じたところの一つでした〜

またぞう