「儚くも愛おしい2人の物語」ルックバック 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
儚くも愛おしい2人の物語
作品そのものの前評判が高かったことはもちろん、先日観た「あんのこと」で熱演を披露した河合優実が声優初挑戦ということもあって注目していた本作を、公開初日に観に行って来ました。上映時間58分と中編に属する作品でしたが、その展開やセリフ廻しは濃密かつ鮮烈で、無駄な部分が一切なく、長編を観た時のような心地よい疲労感を覚えることが出来ました。
ストーリーは”起承転結”がはっきりとしており、序盤から”転”の部分に起こるだろう悲劇を予感させるもので、まだ何も起こっていないうちから涙がこぼれそうになりながら観ていました(因みに原作は未読でした)。そんな感動を誘ったのは、藤野と京本という主人公2人の同級生の、親友でありライバルであり憧れの相手でありパートナーでもある関係性が、極めて不安定で儚げながらも、光り輝いていて実に美しく感じられたから。藤野の傲慢で野心満々で京本に対する支配欲すら感じさせる部分も、若気の至りという意味で誰もが経験し得るものであり、さらに京本の純粋過ぎる性格は、愛おしさしか感じませんでした。
そんな京本に襲い掛かった悲劇は、2019年に発生した京アニ事件を想起させるものでした。ネットで調べてみると、原作発表時にはその点で賛否もあったようですが、私としては、悲劇に接した人に思いを馳せ、それを作品世界に投影することは芸術の役割であり、前向きに評価すべきことかなと思ったところでした。
いずれにしても、擦り切れたオッサンの心すらもグラグラと揺すぶる本作のパワーは、実に見事なものでした。
藤野役の河合優実は、「あんのこと」の時もそうでしたが、ジェットコースター並みに起伏のある感情表現がホントに巧く、声優初挑戦とは思えないほどでした。京本役の吉田美月喜も声優初挑戦だったそうですが、「カムイのうた」の時とは一転、人付き合いが苦手で不登校になってしまった京本が藤野と出会って徐々に成長していく様子の愛おしさを、微妙な強弱で表しており、こちらも非常に良かったです。
そんな訳で、本作の評価は★4.5とします。