「好みとはまた違うのですが、それでも大変面白く観ました」室町無頼 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
好みとはまた違うのですが、それでも大変面白く観ました
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと、今作の映画『室町無頼』を面白く観ました。
ただ、個人的には不満がなかったわけではありません。
その理由は、飢饉や疫病に苦しむ民衆に理解を示さず何ら対策を行わないまま暴利をむさぼる権力者(室町幕府やその大名)の描き方が、単純な悪として描かれ過ぎだと思われた点です。
もちろん現在と違い人権や民主主義の概念の無い室町時代において、現在の権力構造よりかはるかに当時の権力形態は単純で民衆に対する考えの希薄さはあっただろうとは思われます。
しかしながら、今作の原作者である垣根涼介さんもインタビューで答えているように、原作の小説「室町無頼」で描かれた室町時代は、今の社会に酷似しているからこそ選ばれたストーリーだと伝えられ、であるならばなおのこと室町時代なりに現在に通じる権力者側の複雑な構造も調べて踏まえて描く必要があったと思われるのです。
でなければ、単純化された権力の描き方では完全に逆に権力者に侮られ、ズレた批判は全く権力者の中心を切り裂くことは不可能になるからです。
今作の権力者側の名和好臣(北村一輝さん)などの描かれ方は、風刺漫画的には面白さがありましたが、単にそれは市井の憂さ晴らしに留まり、実際の社会の具体的な改変には本質つながらないと思われます。
そして、今作に限らず(事実に謙虚に向かい合った傑作『あんのこと』などを除けば)入江悠 監督の弱点として根底に流れている権力観(反権力思想)だとは僭越思われました。
(必要以上に今作の単純化された権力の描き方を持ち上げる周辺関係者の人たちも含めて‥)
しかしながら、今作の映画『室町無頼』は、特に才蔵を演じた長尾謙杜さんの素晴らしい演技とアクションによって、個人的に感じた不満を遥かに凌駕する面白さと民衆側の説得力が加わったと思われます。
また、主人公・蓮田兵衛を演じた大泉洋さん、骨皮道賢を演じた堤真一さんなど、相変わらずの説得力ある出演者が勢ぞろいしていて、特に最終盤の大人数によるアクションと映像は映画的にも圧巻の場面も数多くあったと思われます。
個人的には、入江悠 監督はもっと権力側の複雑な構造にどっぷりつかって調べ上げる必要があるのではないか(研鑽を怠り単純な空想的な権力描写(反権力思想)に安住していると感じる日本映画界のある年代から上の左翼界隈から、脱する必要があるのではないか)と、僭越今後の課題を感じながらも、今作の映画『室町無頼』を、結果的にはそれでも大変面白く観ました。