「窮鼠猫を噛む」室町無頼 ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)
窮鼠猫を噛む
「見ている物は同じでも、道は違えたか」
垣根涼介の同名小説を映像化。応仁の乱前夜の京を舞台に、寛正の土一揆の首謀者・蓮田兵衛を描く。主演は大泉洋。
寛正の土一揆は1462年9月〜11月に発生した一連の一揆を指すようだが、学校の教科書にはほとんど出てこない。蓮田兵衛についても「新撰長禄寛正記」に一行名前が出てくるだけらしい。いずれにしても、この後の応仁の乱〜大坂夏の陣があまりにも忙しいので世間一般には日本史上の空白期にあたると言える。自分も戦国史マニアな側面があるが、1500年以降の時代が主戦場なのでこのあたりの時代は教科書レベルでしか知らない。
知らないのが良かったか、思いのほか面白かった。蓮田兵衛(演:大泉洋)と京都警固役・骨皮道賢(演:堤真一)の腐れ縁のような対立関係も分かりやすかった。鎌倉〜南北朝を経て、戦国時代に一気にギアを上げる前の未成熟な郎党の姿も新鮮だった。また、一部アクションはVFXを駆使しているものの、基本的には人員を割いて撮影したようで、一揆本番の松明は大迫力。アクションだけでなく、「ひ弱な農民・浪人が武士とどうやって渡り合うか」という知略も盛り込まれており、特にこの時代に京に存在した七重の塔を使った作戦には思わず唸ってしまった。
もう少し頑張って欲しかったのは劇伴。最近の邦画のメロドラマにありがちな曲が流れたかと思いきや、いきなりレオーネ作品のようなマカロニマカロニした曲が流れてきて却って気が散った。エンドロールのような曲を全編通して使ってほしかった。「黒澤明と早坂文雄だったらこういう仕上がりにはしなかっただろう」なんてことをついつい考えてしまったのだ。
演出がややオーバーではあるものの、現代の歴史劇の流れとしては仕方ない。無理のない範囲で作り込まれていたし、結構面白かったので良しとしよう。