「名も知らぬ者たちの生き様を観た。」室町無頼 Moiさんの映画レビュー(感想・評価)
名も知らぬ者たちの生き様を観た。
感想
1460年代室町時代。寛正年間に京都を中心とする人口集中地域において発生した疫病と数年間の大飢饉により幕府徳政令の下知が遅れた足利幕府に対して業を煮やした一万人を超える庶民が決起したとされる土一揆が発生。その首謀者とされ歴史書の記述に名のみが残る蓮田兵衛と骨皮道賢という人物をフィーチャーして、「あんのこと」で渾沌とした現代社会底辺部の闇深い問題を鋭い視点と切り口で活写した入江悠監督が自身渾身の脚本と演出を担当。そして伝統的お家芸である東映の時代劇制作陣が総力を挙げて室町時代の過酷な生活環境と無秩序状態での人間の振る舞いを創りあげる。絶望的状況の中でも逞しく生き抜く市井の人々の姿と徳政を求め、現政権や統治機構への批判と改革を掲げて現れべくして世に出ようとした多くの無名剣客、自称剣豪や田舎詰の土豪、或いは無頼漢達のやり場の無い様々な怒りや憤りを一揆という形でエネルギー爆発させてしまった事態の一大顛末をシュールな視点かつ味わい深い娯楽性を以て創作し描いておりある意味において気を吐いている時代劇作品である。
演出・脚本◎
自由な発想から考えられる社会状況の中でのその場に置かれているあらゆる人々の心理や想いを社会的側面から注視してイメージを加味していき、心の動きなどを含めたありとあらゆる感情要素をエピソードとして反映しようとした脚本は多少の難を感じるが大いに評価できる。また過酷な境遇下でも本質を見極める目を持つ人間に見い出された者が武士(もののふ)として成長する話を中心に農民、商人、女性、子供、各々の登場人物それぞれにあったであろう無数の視点と思考が感じられ各々の人生譚に感動する事が出来た。また各々の話が上手く纏められ表現されていた。
まだまだ日本の時代劇映画は滅ぶ事なく創って行く事が出来ると本作を観て安堵し喜びを実感する。
演出としても入江監督が過去の名作時代劇を手掛けた名匠達の作品の制作意図や演出を今一度よく汲み上げ、内容を踏まえて創作したと思われるシーンと台詞が多々あり、人間の不条理さや社会状況による究極的な貧困と飢えの中での人間の心理描写をよく簡潔に纏めて描いていると感じる。監督自身の本作に於ける名もなき市井の人々への想いや行動を忌憚なく描写して披露するという意図をありのままに演出に反映させているところも素晴らしいと感じる。
近年の時代劇の再評価ブームにあたって私事であるが「究極の環境下での人間的気迫を現代人は役として表現する事が出来無いのでは?」という疑念も本作を鑑賞すると忽ち払拭され心配が杞憂となり胸の支えがおりる気がした。
俳優・配役◎
大泉洋氏。というより洋ちゃん。どうしても洋ちゃんと呼びたい。洋ちゃんのナイスキャラが蓮田兵衛のキャラになっていて素晴らしかった。もうこの人垂らし!(笑)。益々ファンになりました。
堤真一氏。骨皮道賢って堤さんそのもののイメージになりましたね。演技は印象的です。
才蔵役の長尾謙杜氏。すみませんアイドルグループで有名な方である事を存じ上げませんでした。本作の演技はとても素晴らしいものでありました。貧困と飢えと明日死ぬかもしれない悲壮感と悩みの中で命を賭して数々の試練を経て武人となった姿に感動し、成長し立派になった最後の姿が画面に映った時、もしかしてこの後に歴史に名を残す人物になるのでは!と期待と希望が溢れ出てきて老耄は泣けて仕方ありませんでした。
遠藤雄弥、芹澤興人、三宅弘城、水澤紳吾、前野朋哉、阿見201、般若、ドンペイ各氏のそれぞれ個性的で気合いの入った素晴らしい演技と配役は印象に残った。特に唐崎の老人役柄本明氏の演技が秀逸で印象に残る。
⭐️4
本年も宜しくお願いします
共感コメントありがとうございます
時代劇と言えば、戦国時代、江戸時代、幕末が指定席でした。
本作は指定席を選ばず、集客、興行収入が読めない室町時代の歴史書に名はあるものの無名に近い蓮田兵衛を主人公にしてチャレンジしています。時代劇の常識を打ち破って、知られざる時代の知られざる英傑にフォーカスしています。
こういうチャレンジが今の時代劇には必要だと思います。
我々観客は常に新しいものに触れたくて、映画を見に行くのですから。
では、また共感作で
ー以上ー