Cloud クラウドのレビュー・感想・評価
全156件中、1~20件目を表示
黒沢清監督は我々とは違う視点で世界を見ることができるのではないか。
菅田将暉さんが演じる主人公が転売で大金を手にし、都会のアパートから湖の畔の新居へ引っ越してから物語世界は、まるで野心に燃える貧しい青年の恋と転落を描いた1950年代の人間ドラマのような、「ダーティハリー」などの70年代のバイオレンス・アクションのようなテイストを帯びます。
すると、緑の多い美しい風景の中で、古川琴音さん演じる恋人との甘い新生活がスタートすると思いきや、当時のアメリカ映画を見ている者は、湖で何かが起きるのではないか、恋人との関係性が豹変するのではないかと邪推してしまうでしょう。
さらに集団の狂気がピークに達する後半のクライマックスも、主人公の勤務先だった会社社長を演じた荒川良々さんがカウボーイか盗賊団の首領に見えてきて、まるで乾いた西部劇のような様相を呈するのです。
黒沢清監督が70歳を前にして、本作は「どうしてもやりたいことを割と素直に実現できた、その最たるものかもしれない」と述べており、映画史への造詣の深さも堪能することができる、破壊と混沌の映画となっています。
黒沢清監督作品にしては“黒さ”が足りない
中堅・若手のメジャー俳優を多数揃えた豪華な座組ではある。それぞれが役に入り込んで熱演しているが、菅田将暉や窪田正孝らスターたちにはどことなく“陽”のオーラが残っているというか、かつて黒沢組常連だった役所広司や西島秀俊が漂わせる底知れぬ闇がじわじわと背景をもどす黒く侵蝕していくような、要所要所でフレームを支配するダークさが足りない気がするのだ。
2020年の「MOTHER マザー」でデビューした奥平大兼は今や超売れっ子で(2023年の映画出演作は4本、2024年は本作含め3本)、主人公の吉井に雇われる佐野の得体のしれない存在感がいい。黒沢監督作との相性が良いように思うので、今後も起用されることを期待する。
スタイリッシュさとは対極にある終盤の撃ち合いのシークエンスは、素人が銃器を持ったらこんな感じだろうなというのが伝わってきて、あの野暮ったさや、彼らがあっさり撃ち殺される無常感が個人的にはよかった。あのアクション演出にはもちろん賛否あるとは思うが。
やっぱ、危ない橋渡るとろくなことないですね。
ちょっと何かが見えたり、ちょっと隠したり、ちょっと暗かったり、何かがそこにあるんじゃないかってゾワゾワしてしまうのは黒沢監督らしさ。そして、そいつは結局何者なんだ?って正体を晒さないのもその感覚にさせる。でもなんだか物足りない。ずっと引っかかってる、話のつじつまが合わない違和感みたいなものがそんな気分にさせる。そんな違和感も監督らしさのひとつなんだけど。でも、まったく隙だらけの銃撃戦とか見せられると、命がけにしちゃ緊迫感がなくないか?って萎える。
せいぜい、転売とか闇バイトとかの犯罪に手をそめてる連中はこの映画でも見てちょっと反省しとけ、と思うくらいか。
目に見える悪意
そもそもがおかしい話だとは思わないか?
たかだか愚か者一人のために人生を棒に振る意味や意義がどこにあるというのか?バイトに雇ってもらえた程度で元雇い主の窮地に駆けつける義理がどこにある?頂き女子がターゲットを死ぬ寸前まで泳がせる必要がある?命より重要な商材など本当に存在する?
決定的に動機が欠如している。人々は幽霊のように、あるいはクラウド上を流れる情報のように画面を漂い、それらの交点上にときおり感情のふりをした暴力が明滅する。動機などはじめからない。誰もが空虚な人形に過ぎない。
動機が欠如しているのであればなぜ画面に運動が生じるのか?本作において人々を駆動させているのは、この世界に瀰漫する悪意だ。
『CURE』然り『回路』然り、映画の中を跳梁する悪は特定の個人や機関に還元されることなく、むしろ反対に非人称的次元へと際限なく拡散していく。黒沢清の映画世界において悪意はさながら汎神論のごとく世界全体を満たし、人々を破茶滅茶な方向に突き動かしている。
したがって「あのシーンで誰それは何を考えていたのか?」などと思案することにはほとんど意味がない。本作はそもそも人間(の内面)を描く気がない。あくまで人間という視覚的な共通コードを介して不可視の観念をカメラ=光学機械の前に引き摺り下ろすことが目的なのだから。
淡々と画面に蓄積していく動き(=結果)の中にいかんともしがたい不気味ささえ発見できたならば、それ以上何も望む必要はない。あなたが視覚を通じて感じ取ったそれは、純粋な悪意そのものなのだ。
物理世界に召喚された悪意はいよいよ膨れ上がり、可視的な超常現象として顕現する。吉井と助手を乗せた車から覗く暗雲はマグマのように燃え滾り、雷鳴を轟かせている。それはまさしく地獄の入り口と形容するに相応しい黙示録的光景だった。さすがにここはCGだったけど(笑)
観ていて気持ちいいシーンがいくつもあった。特に終盤の銃撃戦のくだりは『蛇の道』『蜘蛛の瞳』といったVシネ時代の黒沢清を彷彿とさせるような乾きと殺伐さが感じられた。廃工場の立体交差を彼ほど巧く使える監督はいないんじゃないだろうか。廃工場の内部から吉井の先輩が運転する黒い車が雪の降る屋外に飛び出す一連のショットはまさしく奇跡のような出来栄えだった。
黒沢清本人が「70手前で好きなことやれてマジで良かった♬」と豪語しているだけのことはある一作だったともいえるし、どうということはないいつもの黒沢清映画だったともいえる。
映画監督が同じ主題を死ぬまで再奏し続けることは素晴らしいことなのだ、小津安二郎もジョン・フォードもみんなそうだった、と蓮實重彦御大が語っていたので、その言を借りて私も本作に手放しの賞賛を送ることとする。
ネット時代の殺意という連帯感。
「難しくないんで、サクッと見れます。お時間ある時どうぞ」と言われたが黒沢清だからそうはいかんやろうと思った、その予想通りであった。
なんか後味わるく、これが終わりじゃなくて始まりだって、、闇世界どっぷり突入だよね。
菅田氏も極力演技抑え目にして頑張っているがもう少し渋い若者の方が良かったかも知れない。これはルックでキャスティングの問題なんでどうにもならない。
でもこんな可愛い子が裏稼業にハマっていくのが良いのだ!と考える事もできる。
名前も知らないただ憎しみだけで繋がった人達が怖い。そしてただ1人のプロ、アシスタント君の存在感も凄かった。あ、松重さんもなかなか美味しい役回りだった。あれだけでぐっと閉まる。
車のカット窓外合成は雲きれいだけど、どうにもパースがあってないのが気になった。
「転売、ダメ、ゼッタイ!」・・・の、はずが???
映画Cloud鑑賞
15分経過
転売はダメだよなぁ…
30分経過
やっぱり転売はダメだよなぁ…
1時間経過
ああもう転売なんてするから…
ラスト30分
い、一体何を見せられているんだ…???
中盤までは免許交付後に見せられる交通ルール守りましょう動画のごとく、よく出来た転売禁止啓発映画のような主人公転落ストーリーだったのに、ラストの30分で怒濤の展開に。
そして、一部オタク(腐)女子が喜びそうな佐野のキャラはなんなんだ。
「あの転売ヤーのどこが良かったの・・・?顔?顔が菅田将暉だから???」と全力で問いただしたい気分である。金を稼ぐ能力に長けていたとも言いがたいし、やっぱり顔か。
正直、脚本にもツッコミどころは多いし台詞回しがいかにも台詞っぽいなど粗はあるが、主人公の殺されかけて殺してなお転売した商品の売れ行きが気になる狂いっぷりに、ドラマ相棒「節約殺人」で、人殺しをして捕まってなお、去り際に節約のため電気を消すことを忘れない主婦を思い出した。
荒川良々のなんともいえない気持ち悪さがとても良かった(褒めてる)
光と影
純粋(?)に金欲に満ちている吉井が周囲に恨みの種を振り撒く。
いつの間にか始まる復讐と、限界を越えた人の執念が怖く恐ろしく描かれたサスペンスホラー作品。
光と影の描き方がとても上手い。
人物の感情や立場によって光と影がしっかりと分けられている。
ストーリーが進むにつれ色濃くなり飲み込むかのような影、影、影。
吉井に対して佐野が若過ぎるように見える…それがまた佐野という謎の少年の不気味さを醸し出している良い一要因なのかもしれない。
転売屋は罪?
商売をしているだけで、命を狙われる。怖い話です。
私なんかフリマで100円で買った品がヤフオクで28000円で売れた身としては、夜も眠れないほどです。差額で商売をしている物販の人にはあまりお薦めできないかも知れません。この監督の映画は好きです。出演者が豪華で楽しめました。
後半に失速した感じ
転売ヤーの話。
中盤まではどういう結末になるのか楽しみながら観れたけど、以降は話が行き当たりばったりのように感じ、キャラクターの行動も説得力に欠けるように思った。いろいろ説明不足のところもあるので、こちらで補完しながら鑑賞しないといけない。
それが味になればいいけど、本作だと作品への集中力をそいでいるように感じた。
オチも中途半端に感じて、もっとすっきり終わってほしかったと思う。
分かり易い不条理劇
『蛇の道』『Chime』と、今年に入って相次いで公開された黒沢清作品に本当にガッカリさせられ続けて来た僕にとっては久々に黒沢らしさが感じられる不条理ホラーでした。
あこぎな手を使って買い集めた品を高価で転売する、いわゆるテンバイヤーの男の下に恨みを募らせる人々・SNSで煽られた人々が集まりぶっ殺しの暴力が炸裂し始めます。その混乱と暴力こそ黒沢映画の持ち味でしょう。
でもね、本作で描かれるのは「分かり易い不条理」「解説できる理不尽」であると感じられました。『憐みの3章』の「訳の分からぬ不条理」「解説などできない理不尽」を観て混乱の陶酔を感じた後だと本作は物足りなく感じてしまいました。映画の観客は本当に我儘だなと思います。はい。
急ハンドルぅ!!
展開の急ハンドルっぷりにビックリ!
だけどジャンプスケアに頼らずあれだけ怖いシーンを作るのは流石の演出力
工場勤務のかたわら、転売ヤーとしての活動もする吉井
投機的な転売で入ってきた600万を手に彼は仕事を辞めてしまう
転売活動に特化した自宅兼倉庫を借り、北関東の湖の畔で恋人と暮らし始める
しかし、その生活はどす黒い暗雲に包まれていくのだった・・・
いささか乱暴なまとめ方ではあるが、登場人物はみんな壊れている。欠けている
仮の人生、仮の目標、仮の成功に支配されて行き当たりばったりの行動に皆が終始する
そんな中で唯一、主人公の感情が爆発するシーンは「彼の中でこれだけは本物だったのか」と伝わってくる名場面だった
終盤(個人的には松重豊さんの出たシーンから)の急ハンドルっぷりには驚かされたが、総じて強く記憶に残った一本だ
デジタル的な「クラウド」でもあり、自分でもハッキリとさせられない感情を含む形の無いものに振り回される人々、そして現実にも充満する濁った空気
思い返すほどに解釈の幅を広げる秀逸なタイトルだと感じた
沸き上がった憎悪の雲海、菅田将暉は呑みこまれるのか
1 しがない転売屋が多数から恨まれ窮地に陥いり、一線を越えようとする姿を描く。
2 封切り前に番宣のCMが頻繁に流れていて、興味を温めていたところ不入りで早めの打切りかと思え、平日夜の回に行くと自分を含め二人だけだった。
3 映画は、菅田将暉のあこぎな買い叩きのシーンから始まる。工場で働きながらネット販売で利ざやを稼ぐ日々。仕入れのネタ探しや売行きを確認するのにアパートでパソコンとにらめっこ。なんとも貧乏臭く社会の底辺で喘ぐ。ところが冒頭で仕入れたものが六百万円の儲けとなった。ここまでが前段。菅田の近辺で不穏な動きや謎の人物の接近があり、サスペンスの様相をなす。
4 小金を得た彼は、工場をやめ郊外に引っ越す。地元の若者を作業員に雇い転売を専業とするが、ブランド物のコピー品など手口がやばくなっていく。損を被り菅田将暉に恨みを持つ者が増え、ヤバイ連中が集まり復讐の為に襲撃に向かってくる。襲撃に至るまでは中弛みでサスペンスすらなく面白くない。
5 襲撃後は逃走劇からの銃撃戦となるが意外な人物が表れ菅田の窮地を救う。そして一線を越えていく。襲撃については、やる方もやられる方も既に正気を失っている。特にライフルを使う二人は狂気に支配されていた。菅田も襲われながら売行きと商品のことを心配する始末。さらに菅田を助けた人物は、ど素人みたいな顔をしながら淡々と反撃し、裏社会の顔役的な存在であることが分かる。人物の出し方としては唐突過ぎると思う。その一方、銃撃戦は、狂気が蔓延する場面において、得体の知れない人物や底辺同士による抗争を描いたナンセンス劇として評価はしたい。とは言え、全体的にはバランスの悪い作品となった。
全うに生きられない者たちのどんちゃん騒ぎ
主人公は真面目に働く転売ヤーというあらすじだったけれど、特に真面目とも思わなかった。転売屋として儲けることのできる手段を、当たり前に模索し実行している。
もちろん倫理観が欠如しているし、屑でもあるんだろうけど、一番強く感じたのは想像力が欠如した人物像なんだなということだった。ただ相手の立場になって想像するということができない。彼には悪いことをしているという意識もなく、当たり前に相手を慮ることもない。だから相手のこともすぐ忘れる。目的があるわけでもなく、金儲けというより予算残高の数字による一瞬の恍惚や興奮の奴隷になっている。そんな主人公でも人間らしく恐怖し、葛藤し、道徳観が揺り動かされ、慟哭する様は喜劇じみたものすらあった。
この物語にはまっとうな人間がいない。一線を越えた者たち。なにがしかの感情が著しく欠けてしまった者たちしか出てこない。彼らを正しい路線に直そうとするものも出てこない。歪んだ倫理や道徳を抱えたまま、後ろめいた結末へ向かっていく。
面白い。また、演出の力なのか、素人の鉄砲玉でもそれが発砲される度にドキッとした。音や画の力? アクションとはまた違った興奮や恐怖、没入感だった。
ただ、所々辻褄合わせ感のでるシーンがあったり、ネットの悪意がこういう形で表面化していくかはどうなんだろう……と思わされたところもあった。彼と関係のあった者たちはネットの力を使って報復にでるのか? 上手い具合に関係のありなしで比率が別れる。たまたま雇ったはずの男が……という仕掛け。簡単に銃も出てくる。リアルなだけにそうしたところが気になってしまう。ネットの悪意はもっと別のやり方で発現するような気がした。
さあゲームの始まりです
2024年映画館鑑賞95作品目
10月13日(日)イオンシネマ新利府
ハッピーナイト1300円
監督と脚本は『スウィートホーム』『地獄の警備員』『蛇の道(1998)』『ドッペルゲンガー(2003)』『贖罪』
『散歩する侵略者』『スパイの妻 劇場版』
『旅のおわり世界のはじまり』『蛇の道(2024)』『chime』の黒沢清
粗筋
転売ヤー吉井良介を恨む男たち6人は(三宅赤堀矢部井上滝本村岡)吉井を誘拐し殺そうとしていた
そこに現れた救世主は吉井からクビを宣告されたバイトの佐野だった
警察でもないヤクザでもない猟師でもない素人のドンパチを只々描きたかっただけの娯楽作品
アメリカならともかく日本ではリアルじゃない
安倍元総理暗殺でさえ拳銃ではなかった
手製の爆弾とかネットを参考に工学部出身じゃなくても容易に制作できるかもしれないが拳銃はなかなか手に入る代物ではない
佐野の人物像が全く見えてこない
そこまでして吉井を守る理由がわからない
『蛇の道』のように吉井が拷問され殺される展開を予想していたが今回は違った
しかしそれら細かいことは黒沢清にとってどうでもいいことなのだ
殺し合いの馬鹿馬鹿しさではなぜか『昭和歌謡大全集』を彷彿させた
襲撃メンバーの方が一方的に殺されたわけだけど
転売そのものは悪くはないが商売にも仁義というものがある
受け取るカネも重要だが顧客満足度の方が大切
たしかに彼らは人生の落伍者だが恨みを買うような商売はなるべく避けよう
まぁ面白かったのは事実
映画鑑賞は粗探しが目的じゃない
監督の意図になるべく寄り添って楽しむのが1番
あと役柄として今回も心配された荒川良々だが彼も芸歴長い50歳
白髪も目立ち始めた
北野武作品に続き良かったよ
こんなやつにも妻子がいるのかよと思う人もいるだろう
でもわりと世の中いるんだなあ
配役
「ラーテル」のハンドルネームで稼いでいる転売ヤーだが本業に専念するため勤めていた工場を辞めた吉井良介に菅田将暉
吉井の恋人の藤田秋子に古川琴音
吉井に雇われたバイトの佐野ふとしに奥平大兼
転売に失敗し吉井を恨むネットカフェ難民の三宅達也に岡山天音
吉井に自社商品の医療機器を安く買い叩かれ恨んでいる倒産寸前の町工場の社長の殿山宗一に赤堀雅秋
吉井襲撃メンバーとして三宅を誘うこの手のことは既に経験者で熟知している矢部に吉岡睦雄
吉井襲撃に参加するネット民の井上に三河悠冴
宗一の妻の殿山千鶴に山田真歩
警察官の北条に矢柴俊博
模型店店主の室田に森下能幸
室井襲撃メンバーに射殺される猟友会の猟師に千葉哲也
吉井を救出しようと敵のアジトに乗り込む佐野に拳銃数丁弾丸数発を売る謎の男に松重豊
吉井が勤務していた工場の社長の滝本一郎に荒川良々
吉井を転売業に誘った胡散臭い先輩の村岡耕太に窪田正孝
転売を失敗した三宅をネットカフェでボコボコにする男に足立智充
不動産屋に吉田亮
吉井の自宅に石を投げ入れガラス窓を割る佐野の後輩に萩原護
吉井が勤めていた工場の同僚に田中爽一郎
群馬の配達業者に斉藤友暁
東京の宅配業者に佐々木陽平
黒沢清が三本出た当り年。その順位。
乗れず。
回路な題ゆえあの恐怖陰惨を期待した私がズレてたか。
寧ろ勝手にしやがれ系の変キャラ群像喜劇?ならばそれと構えて再見するか。
今更ネットの匿名の逆恨みの恐怖なんぞ描かんわな。
黒沢清が三本出た当り年、チャ、蛇、本作の順かな。
一点、荒川の想定内の怪演は頂けぬ。
こんなキヨシ映画を待っていた…
菅田将暉主演での黒沢清新作、なので時々発生する人気有名俳優主演で予算多めのキヨシ映画のパターンなのかなと勝手に想像してたんだけど、とんでもない怪作、というか観たかったキヨシ映画であり、傑作だった。ヤバい。冒頭から日常の続きのように画面が始まって、そのまま不穏なキヨシワールドにどっぷり浸かって、ニヤニヤし、ハラハラしっぱなしの2時間超だった。
とにかく菅田将暉がここまでキヨシワールドにハマるとは思っても無かった。しかも口髭を蓄えた佇まいはちょっと黒沢清みたいにも見えてきたし。そして菅田将暉だけでなく、キャストのほとんどが善人なのか悪人なのか曖昧な、タイトル通りに雲のように不定形な存在感を醸し出していて素晴らしく、怖かった。それが前半では菅田将暉の部屋を訪ねてくる荒川良々のシーンを筆頭に普通に存在する狂気としてサスペンスを盛り上げるし、後半はどこにでもいるような人が銃器を持って繰り広げる、ちょっと見たことがないけど、日本が舞台ならこれがリアルだよな〜というガンアクションに活かされていた。しかもリアルな人間像だけではなくて、助手の佐野くんという漫画的なキャラクターも出てきて、虚構としての飛躍の楽しさもバッチリだった。
廃工場、ビニール幕などいつものキヨシ映画印もふんだんに登場するし、スクリーンプロセスなどは今回演出的にも必然性があったりして、ちょっと集大成的な作品にも思えるほど隅々まで黒沢清的。なのにちゃんとアクションエンターテイメントとしても面白くて、役者も全員良い。で、前半も後半も怖くて笑えて楽しいという映画。最高だった!
面白さのベクトルを伝えるのが難しいが
面白い。でもアカデミー日本代表って映画ではない(笑)。それは選ぶ側がトンチンカンだと思うし、黒沢清も迷惑だろうと思う。これはアカデミーに選ばれて嬉しいというような作品ではなく、根本がVシネであり、いい意味でVシネであり、映画はアクションである、ということを現代でやる理屈をつけるための進化である。
菅田将暉は転売ヤー。PCの向こうにいるのは得体の知れない客だけではない。この導入は『回路』的でもあるが、ここで重要なのはゾンビのような有象無象の人間たちに追われるということである。むしろ空っぽな昆虫のような人間がエサにゆらゆら集まってサバイバルゲームを展開していくのを楽しむ映画で、その意味では『散歩する侵略者』に近いのか。とにかく集まった顔も知らぬ殺人者たちがおっちょこちょいで面白い。ある種『悪魔のいけにえ』的ファミリー感に西部劇が加わる面白さ。この連中の絶滅にいたる過程はもっと見ていたかった。
ということで、相変わらず痛ぶられる主人公を嬉々として描く黒沢清であった。
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