Cloud クラウドのレビュー・感想・評価
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不安と恐怖がすさまじい
・主人公の吉井が冒頭から3000円で買って20万で転売っていう、あくどい転売をしているところから猛烈にひきこまれた。そして終始、不安と恐怖が続くすさまじい映画だった。ただ冒頭の会社にはどういうコネで買いに行ったのかが気になった。ほぼネットで買って売ってを繰り返しているようだったし。
・吉井の最初のアパートの暮らしが転売ができて静かに安心している様子が妙にリアルに感じられた。当人も真っ当じゃない、こんなこと未来がないけど、これしかないという虚しさが凄かった。
・キャラクター全員が心に闇を抱えている感じが隠しきれてない雰囲気が凄く良かった。誰とも友達になりたくないと思った。
・クリーニング店から帰宅途中に道路上にはられたピアノ線?は滝本の仕業だったのだろうか。
・吉井の転売の卑劣だけど在庫があるだけまだ真面目なような気がした。無在庫転売よりもっていう意味で。とはいえ、フィギュアの様子とか見ると許しがたい。
・望まない管理職への打診?から退職して転売一本っていう吉井の希望を見出した世界が救いのない感じがとても良かった。運送会社も警察とつながってる感じとか、リズムよく閉塞感が増していって凄いなぁと思った。
・卑劣な吉井、転売屋をぶっ殺そうっていう事で集まった烏合の衆のリアリティが凄かった。全然、統率が取れてないけど何となくやっちゃおう感というか。
・移住先で雇った佐野君があんなに活躍をして驚いた。
・最後、どうなるんだろうと思ったら助かった先も曇天の未来っていう予感に満ちたシーンが強く印象に残って、ラストまでずっと不安と恐怖が続いていて凄かった。
現代の世相を鋭く抉る
衝撃のゲージツ作品か!?w
残念ながら私にはさっぱり理解できなかったが。
そもそも菅田演じる吉井は命を狙われるほどの悪なのか?
この程度でもネットで煽動されるとこうなる?
今世間を賑わせているネット強盗団の親玉とかなら制裁されてやむなしだが、
偽物をつかまされた程度では過剰報復の観は否めない。
胸がすく思いもない。
吉井の近しい人間関係も唐突でわからない。
そもそもアシスタント佐田って何者?
彼と比べると吉井の小物感半端ないんだけど?
吉井の下に付く論理性が全く理解できない。
さらに古川演じる彼女の行動も同様。
何か伏線があって私が見逃した?
と今回のレビューは???だらけ。
途中ホラータッチで良さげなところもあったが、
結局はゲージツお決まりの投げっぱなしのラスト。
モヤモヤしか残っていない。
一度やったら、二度も三度も...。
すっごい好き。黒沢清ナンバーワン。
変な映画ではあるけど、これまでの黒沢映画と比べるとアクが少なく、癖も控えめ。若手俳優を筆頭に、日本映画を支えるバイプレイヤーが勢揃いしており、いい意味でも悪い意味でも黒沢清らしさが薄めの、大衆向け映画になっている。
ただ、これまで見てきた「クリーピー」「スパイの妻」「蛇の道」の3本全てハマらなかった自分からしたら、大満足の作品だった。一方で、これまでの黒沢映画が好きなファンからしたら物足りないのかも。結構ポップでエンタメに振り切った作品になっているから、特有の闇はあまり感じられなかった。でも、これがいい。
恐怖が淡々と迫ってくる、緊張で心臓が小さくなるような演出は今回も健在。この演出だけは黒沢映画で変わらず好きなところだし、いつも変えずにやってくれるところ。実はここが好き嫌いわかれる原因でもあって、いつまで自主制作みたいな映画撮ってんだ!と言われるのはここにあると思っている。
黒沢監督はほとんど音楽を使わないし、そこにカメラがあっただけみたいな、突拍子もないリアリティを求める人。でも、これこそ映画だと思うし、私生活に支障をきたしてしまうような気迫こそがこの人の最大の良さだと思っている。それが今回は更に濃く現れていて、おかげでこれまでに無いくらいハマることが出来た。
アウトレイジ的に言えば「全員、狂人」。
豪華キャストのアンサンブル。とにかくみんな狂っていて、シュールな恐怖になんだか笑っちゃう。何やってんだ全くと少し呆れながらも、みんな全力で演技を楽しんでいてずっと見守りたくなる。しかも時間が経過する度に、頭のネジが緩まっていくようにして狂気じみてくるから、2時間ちょっと常に上り坂でとにかく楽しい。「キングスマン」の教会のシーンを想像してもらったら分かりやすい。だけど、そんな中にも人間臭がしっかり残っているから、なんだかんだで全員愛おしく感じちゃうんだよね笑
かなり銃撃戦。後半ずっと銃撃戦。
結構こだわりがあるんだろうけど、舞台が日本となるとリアリティは激減するし、銃を扱うことを納得させるような要素もなく、長すぎることもあって若干退屈した。本作はここで評価が分かれるだろうな。
ただ、奥平大兼が黒澤監督の雰囲気とめちゃくちゃマッチしていたのは意外だった。この映画で一番のハマり役は彼。他のキャストと比較するとセリフ量は少なく、大々的に画面に映るわけでもないんだけど、菅田将暉以上のインパクトですっごい爪痕を残していた。特に後半からはヤバい。あまりにイケてる。
主人公の吉井は銃を手にした時にあたかも初めて罪を犯したような顔をするけど、二度三度と回数を重ねる度に感覚が麻痺していき、罪の意識は徐々に薄くなっていく。まさに、転売ヤーという職業そのものを暗示させる表現。慣れって怖い。当たり前って怖い。一番狂っているのは自分自身だと、まだ彼は気づかない。
周りの評判通り、変な作品だったけど、監督の意図しているようなメッセージは珍しく受け取ることが出来たし、満足度がかなり高かった。ただ、流石に高額買取してくれるからって客のことを見限っては信頼も地の底ですぞ、おもちゃ屋のおっさん...。
没入感スゴイ!
菅田将暉さんの演技力は、凄まじいです。
グイグイ作品に取り込まれてしまう、没入感…半端ないです。
まさかまさかの展開に、ハラハラし通しでした。
ラストシーンが、何とも言えません!
続編を、期待しています!
こんなに面白い黒沢清映画が!
本年度暫定1位。純度100%の黒沢清ワールドでありながら、エンターテイメントとしても最高の出来。完全に映画に吸い込まれた。
◎終始不穏、不気味なのが黒沢清作品だと思うが、今回も間違いなくそう。常に黒沢清ワールドに浸っていられる多幸感(?)に、心が満たされていた。
◎主要な役者達はほぼ初めての黒沢作品だったらしいが、各々が素晴らしいポテンシャルを引き出されている。特に、窪田正孝と奥平大兼。2人とも素晴らしい。
◎後半の銃撃シーンの楽しさは、劇場で観てこそ。主に音響による理由で。
深夜帯で見たので、劇場にはほぼ観客ひとり。でもあらゆる人にみてほしい。
そして、黒沢清映画の虜になってほしい。
ラーテルは言い過ぎ。たぬきにしとき。
ひとつ言えるのは奥平大兼がめちゃくちゃ良い。佐野君が何者かなんてもはや気にならなくなるほどに。ストーリーは設定から何から中身がスカスカで、その全てをなんとかキャスティングで乗り切った感じです。
そもそも転売屋って今時やるならもっと上手くやるでしょうよ。某テーマパークの熊さんの新商品売った方がよっぽど利益出そうやん。だいたいあの社長も自分でオークションサイトにでも出せばいいのに、初っぱなからなんで??ってなった。わざわざ湖畔のポツンと一軒家みたいなとこ行くのも謎過ぎるし、後半の銃撃戦とかほんまもうただスクリーンを無で観てるだけやった。なんであんなことになったんやっけ?笑
最後の車を走らせながら多分名台詞を吐いたであろうシーンもなんか外の景色がCGで安っぽ過ぎて全然印象残らんかったな。強いて言うなら序盤のバスのシーンが一番怖かった。
空虚なゲーム
菅田将暉演じる転売ヤーが、ビジネス拡大に伴って不特定からの恨みを買い、思わぬ惨劇へ。人間関係や状況の説明を最小限に抑え、湿度と熱量も極力抑えた黒沢清ならではの娯楽作品。
登場人物がみな、出てきたときからセリフや表情が空虚で薄っぺらな感じ。ネット上の転売ビジネスや闇バイトの空虚さと重ね合わせた作者のねらいなのだろう。後半の延々続くガンファイトも、空虚なゲームをただ眺めている気分。
出演者は豪華だが、作品世界にあまりフィットしている感じはしなかった。中では、奥平大兼の飄々とした感じが、裏で何を考えているか分からない薄気味悪さもあって、良かった。殺し合いは全部彼が仕組んだようにも思われる。あと、荒川良々のライフル姿が格好良くて意外。
黒沢清としては、かつてのVシネマのように軽く撮った作品なのだろう。観る側も軽い気持ちで十分かも。
面白さはあったのですが‥
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
正直に言うと今作の映画『Cloud クラウド』は、個人的には食い足りなさがありました。
食い足らなさの1番の理由は、果たして映画の題材になっているネットのオークションサイトについて黒沢清 監督はちゃんと調べて脚本演出しているのかな?と疑問に思われた点です。
主人公・吉井良介(菅田将暉さん)は、オークションサイトの出品者で、潰れた会社から商品を買い叩いて仕入れたり、偽物をろくに確認せずに出品したりして儲けています。
しかしながら、現実のオークションサイトを利用した人のほとんどが知っているように、出品者は(サイトによっては購入者も)マイナンバーカードなどの身分証の登録が必要で、出品者や購入者にはレビューが付き、悪質な出品者はレビュー等で淘汰され、法令違反の出品者はバンされるのが通常だと思われます。
つまりそもそもこの映画で描かれたような悪質出品者が存在し続けられるかは、サイトのシステム的に疑問が出て来ます。
であるので、それが発展して今作で描かれたような、偽商品の購入者や安く買い叩かれた人達が出品者に恨みを持って襲い掛かるのは、いささかリアリティがないように感じました。
つまり、黒沢清 監督のイメージが先行して、現在の社会から遊離して映画が描かれているように私には感じられたのです。
そうなると映画の評価としては厳しくならざるを得ません。
(もちろん一般の観客がどのような評価をするのかは自由で開かれている必要はありますが)
『蛇の道』でも思われましたが、黒沢清 監督のイメージ先行で具体的な細部の現実リアリティから遊離した作品を、映画評論家の人達が持ち上げ続けるのも罪が深く、映画の世界に閉じこもり現実社会リアリティを知らないままで他作品含めて映画の評価をしているのではないかとの、(他作品の採点合わせて)専門家への疑念も湧き上がります。
今作がアメリカアカデミー賞の国際長編映画賞 日本代表作品になっているのも罪深いことだなとは僭越思われました。
菅田将暉さんを初め、秋子を演じた古川琴音さん、佐野を演じた奥平大兼さんなど、俳優の皆さんは素晴らしかったと思われます。
黒沢清 監督作品の特有の映画の雰囲気の良さは相変わらずあったので、俳優陣の皆さんの素晴らしい演技と合わせて、僭越ながら今回の点数となりました。
もうちょっとかな
登場人物も少なく、まあ独特の世界でした。
なぜ高専出てそうなの?とか、何故殺しにくるの?何故そういう手配できるの?と疑問があるなか説明的な要素が少なすぎて、それはそうなんだろうけどもうちょっとほしかったかな。
ディテールを一切排除した演出が思わぬ緊迫感を生むサスペンスの成功パターン!!
作品の中で必要最低限な人間関係しか描かれない演出が思わぬ緊迫感を生むサスペンスの佳作!!
黒沢清監督の他作品は未見だが、ディテールを排除した演出は日本よりも海外受けするのであろう。
作品、監督共に海外での評価が高いことにまず驚き!!
作品自体が転売屋であったり、狩りゲームであったり、ネット社会を媒介して個人等がなかなか特定されない世界ではむしろこうした演出を取った方がより効果的なのであろう!
今や日本を代表する俳優(個人的な見解)の菅田将暉と窪田正孝の競演だけでも眉唾物なのに、謎の人物を描かせたら天下一品の荒川良々まで出演し本当に贅沢の極みといった感じ!!
AIが創る世界
aiは人間のいい欲悪るい欲をみたすための試行錯誤とその時間限りなく短縮していく。
本来その報われない無駄こそがやさしさとか人生なのに。
凡夫があっという間に冷酷な殺人鬼に変わる。
人心無視して、科学は前進あるのみ、いずれ人間は欲だけの畜生地獄に戻る、最期の主人公のつぶやきこそが人間の限界なのかもしれない。
彼を助けにきた部下はAI,
怪演に感謝!
黒い糸で固く結ばれ、地獄のドライブが始まる
*
誰かの言いなりにならず
社会の組織に組み込まれず
転売で自分の力だけで稼いで
彼女と生活していきたい
ただそれだけだったのに
吉井は地獄へと導かれてしまった
もう帰ってこられない
自分の生活や利益のために
人の人生や喜びを転売で奪い続ける
*
佐野というアルバイトの少年
「困ったときはいつでも呼んでください」
「ずっとあなたのアシスタントです」
親身になってくれているようだが
実際のところ黒い組織の会長のせがれ
(だと思いながら観ていました)
*
人々から色々なものを奪ってきた吉井に
「殺し合いゲーム」という報酬がやってきた
吉井が嫌いな奴らが、吉井の命を狙う
「みなさん本気ですか?」
と、佐野がけしかけて仕組んだんだろう
*
吉井に銃を持たせ、窮地の状況に追い込む
そして、佐野自らが危険な状態に身を晒す
“佐野が助けに来てくれた”
そう思っている吉井は佐野を狙う奴を
黒いソレで撃ったのだ
「吉井さんすごいですよ…命拾いしました」
黒い組織の当たり前の日常や
人を殺すことで救える命があることを
実践を踏まえて佐野は吉井に
植え付けているかのようだった
吉井の何かがぷつんと切れた
あっという間に射撃が当然の行為になった
*
「吉井さんは稼ぐことだけ考えてください」
「その他のことは全部こっちがやるので」
さあ、地獄のドライブのはじまりだ
転売で得たカネが漆黒に染まる
そんな日常が涎を垂らして彼を待っている
この世界から抜け出したいと告げたら最期
吉井の命はあっけなく終わるのだろう
*
楽して稼ぐ方法なんてあり得ない
あり得たとしてもずっとは続かない
うまい話とあると聞かされて
地獄に連れて行かれてしまうことは
誰だって可能性としてあり得る
自分だけが良い思いをしようとして
人から搾取したり傷つけたりしたら
その分だけきっちり還されるように
この世は出来ている
真っ当に生きていれば保たれる
人を大切にすれば保たれる
自分の人生も、自分の幸せも
*
すぐ近くで地獄のドアの入り口が
影を落としているんだな…と
深く考えれば考えるほど
ゾッとさせられるような作品でした
人がバンバン死んでいきますし
主人公も闇堕ちするので
観た後はかなり凹みます
ご留意ください
*
雑な脚本
菅田将暉主演、転売屋を主人公にした特異な設定でかなり期待して観ました。
前半部は、悪くはなかったが、観終わって、
「映画の脚本ってこんなに雑でいいの?」と感じてしまった。
あらゆる動機が説明不足
吉井を襲う人たちのそれももちろんだが、佐野の後輩の行為や
そもそも湖畔に引っ越す吉井の動機がピンとこない。
自身に恨みを持つ人たちに襲ってもらいやすい環境を選んでいるようにみえる。
他にも佐野にパソコンを見るな、と言いながらシャットダウンやロックもかけずに出かけてしまうのも雑
バスの背後の人影や、道路に張られたワイヤーなどは拷問時などに明らかにしておくべきでは?
佐野を解雇したのに、彼に手配してもらった車をそのまま使い続けるのはとても不自然。
小さな違和感満載です。
最後の撃ち合いは、銃撃戦とも呼びたくないような単なる「ドンパチごっこ」
佐野の背後組織の存在も唐突過ぎで、解雇された佐野が吉井を救う理由も見えてこない。
俳優さん個々の演技は悪くなく、前半部まではある程度楽しめたので、この点数です。
「フィルム・ノワール」
今年233本目。
NOBUさんの「Sin Clock」のレビューでノワール・サスペンスと拝読しましたのでちょっと調べて、主に犯罪を中心に撮る映画、今作もフィルム・ノワールと総じて言えます。黒沢清監督の2作前「蛇の道」がある特殊な状況下を描いた作品で、今作はどうだったかは控えたいと思います。
面白い
闇の商売である転売ヤーの実情みたいなものが描かれているが、そういう世相とか現代社会を面白く描こう、という映画では全くない。かと言って現実には存在しない、フィクションに振り切れた荒唐無稽なキャラクターたちの話でもない。出てくる人物の言動がどう展開していくか、いちいち興味深く目が離せないが、一方で、作者が頭の中だけで作り上げたような話だな、作者の掌の上にずっといる感じだな、とも感じる。それが嫌な感じではない。不思議な味わいの映画としか言いようがない。じわじわと、もう一度見たくなってきた。
もう、目の前にあるかもしれない現実
後半はアウトレイジかと思ってしまうほど。
普通に暮らしていると
あの様は現実感に乏しいかもしれないけれど、
普段の暮らしの外に、
近い将来、いや、もうすでに
存在しているかもしれない現実にも映った。
実際に、転売ヤーにムカッと来て、
この野郎と思ったことは
一度や二度ではない。
ただ、まぁ、良いかとその品物はあきらめるくらいに
大して執着がないことが普通だが、
そんな風に割り切れない人もきっといる。
見えない世界は確実にあって
たまたま見ないで済んでいる。
この映画を
ないない、ありえない
と見るのか
ひょっとしたら
と見るのでずいぶん差が出てくるように思う。
僕は、あながちあり得ない
と割り切れなかった。
射幸心
菅田将暉が売れっ子俳優なのが納得できる。まさに様々な役を演じられるカメレオン俳優だ。今回彼が演じるのは煩わしい人間関係を嫌いミニマムな人間関係しか持たない、というより損得勘定でしか人づきあいができない転売ヤーの吉井。
彼は工場に勤めながら転売で生計を立てていたが、上司の滝本から管理職昇進の話を薦められ煩わしい人間関係を嫌い工場をやめてしまう。
滝本に対する話し方も口ぶりは丁寧だが、心がこもっておらずうわべだけを取り繕ったその場しのぎなものであり、それは誰に対しても終始そんな感じで彼のその生きざまがよく表れている。相手はさぞかし自分が舐められていると感じることだろう。まさにそんなコスパ重視で煩わしいことを嫌う今どきの若者像を菅田は見事に演じている。
そんな吉井にも恋人の秋がいるが、この二人は似たもの同士だ。秋もやはり損得勘定で吉井と付き合っている。
ネット動画でファスト映画というただ映画のあらすじを紹介する動画や、早送りで映画を見るのが若者の間で流行ってるという。彼らはとにかくコスパを重視する。映画を見るのに2時間もかけれないのだという。こういう今どきの若者の考え方もわかるような気がする。
日本は終身雇用が崩壊して非正規が増え若者の貧困率が増加。どんなに働いても生活は安定せず結婚もあきらめざるを得ない。生活していくには自分の時間を切り売りするしかない。彼らにとっては時間はきわめて貴重だ。そんな社会の中で吉井のようにコスパ重視の人付き合いしかできなくなるのも理解できる。
この社会で生きていくためには人の気持ちなど考えてる余裕などないのだ。転売屋がひしめく業界の中で彼は他者を搾取してどうにかのし上がろうとする。
ババ抜きのような商売と彼は言う。安く仕入れて高く売り逃げる。時にはコピー商品でも売り逃げれば勝ち。まさにゼロサムゲーム、しかしゲームの敗者からは恨まれるようになる。
次第に彼の日常には不穏な影がちらつく。アパートの階段のネズミの屍骸、彼を狙ったであろう道に張られたワイヤー、バスの席の後ろにたたずむ影。
そしてついにはネットを介して集まった人間たちが彼を血祭りにあげるべく集結する。それは逆恨みであったり、やっかみであったり、そして破滅した自分の道ずれにしようとする者たちである。
彼らはみなこの社会の負け犬たちだ。人生がままならないことへの鬱積を吉井という標的に向けることで昇華しようとしている。しかし、吉井もまた彼らと同じく負け犬だった。
この終盤長々と繰り広げられる戦いは不毛な戦いである。この戦いで得られるものは何もない。魂の救済も得られない。ただ殺し合い生き残った者だけが勝利するこれこそまさにゼロサムゲームだ。金は一銭ももうからない。命を代償にして得られるのは自分の命のみ。
この戦いの最中で、そして戦いを制して生き残った吉井が常に気にしていたのは商品の無事であり、その売れ行きだけだった。命が助かったことに対して何の感謝の気持ちもわいてこない。ただ、儲かったかどうかにしか関心がない。
吉井をはじめとする彼ら負け犬はただ最下層の人間同士でいがみ合い殺し合う。かつて支配層が行ってきた分割統治の構図がここに見られる。被支配層を互いに争わせれば彼らが結集して支配層に牙をむけることはない。支配層は安定した支配を続けられる。
このシステムは今の貧富の格差が固定化した現代においても機能している。それにうすうす気づいている彼らだが、それを自分たちの手で変えるのは不可能だ。政治の力を使わない限り。
彼ら転売ヤーのやっていることは所詮は富裕層の食べ残したパイを奪いあってるに過ぎないし、けしてそれで富裕層にはのし上がることはできない。そんな社会に生きていることを自覚している彼らが射幸心をあおられるのも致し方ないことなのかもしれない。
そもそも彼らを負け犬ということ自体酷な話ではある。今の貧富の差が固定化された時代では到底個人の力ではどうしようもないこともある。正規社員になれる者がいれば、そのぶんなれない人間もいる。正規非正規で同じスタートで年をとればとるほど収入格差は広がる。こういう社会システムに生きる若者に対して今の社会は自己責任だという。これこそまさに分割統治だ。政治の不備を追及しようとする考えを自己責任という言葉で圧殺するのだ。正規社員になれなかったのは自分の努力が足りないからだ、自分が十分な教育を受けれなかったのは家が貧しかったからだ。それを世間のせいにするのは筋違いだ。そういう思考に陥れば、社会のおかしさを訴えるようなことはしなくなる。投票に行ってもどうせ何も変わらない、無駄なんだと。それこそが支配層の作り上げた罠なのだが。
本作はそんな現代社会を痛烈に風刺したスリラーの佳作。相変わらずの黒沢作品らしく日常に潜む不穏な空気や恐怖が見事に映し出されていた。
ちなみに監督はガンアクションは少々苦手のようで、終盤の多くを占めていた銃撃戦は物足りないものだった。せっかく佐野という興味深いキャラクターを創造しておきながら彼の活躍がいまいちだったのは残念。彼がプロの殺し屋ならもう少し華麗な銃裁きが見たかった。それ以外はほぼ満足な作品。
さまざまな恐怖
すぐそばに在る日常から始まり
恐怖が広がる
銃を持って変わってしまう心理も恐怖
でも非現実的なのか そう遠くないリアルなのかのところが映画ならでは
ラストはもうちょっと現実的な日常になってもよかったかもと思ってみたり
窪田正孝、岡山天音をもっと見たかった
吉井良介(菅田将暉)の生業は「転売屋」。 今日も電子機器工場の倒産...
吉井良介(菅田将暉)の生業は「転売屋」。
今日も電子機器工場の倒産を聞きつけて、健康電子機器30台をタダ同然の金額で仕入れた。
工場主からは「人非人」などの罵詈雑言を浴びせられるが、「安く仕入れた品に儲けを付加して売る」だけなのだ。
売れなければ、廃棄費用はこちら持ち。
厳しい仕事なのだ。
幸い仕入れた機器は1台20万で売れた。
さて、アルバイト先のクリーニング工場では、青年部主任なるわけのわからない役職を押し付けられそうになった。
そんなのは御免被る、3年勤めた、辞め時なのだ・・・
クリーニング工場以外にも、先輩転売ヤー村岡(窪田正孝) からは新事業立ち上げ名目で金をせびられる。
こいつともオサラバしたい。
ちょっと金遣いは荒いが魅力的な恋人・秋子(古川琴音)とともに、山あいの湖畔に格安賃貸があったので引っ越すことにした・・・
といったところからはじまる物語で、前半から不穏な雰囲気が漂っている。
この前半は、ロマン・ポランスキー監督作品を彷彿させる剣呑な雰囲気で、ゾクゾクさせられる。
ま、人というのはどこで恨みを買うかはわからない。
転売ヤーとしての悪評が巷に拡散、ハンドルネームだった吉井の正体も暴かれ、名も知らぬ人たちが集まり、復讐を仕掛ける。
匿名の悪意は「雲」のように湧き上がって来る。
それがタイトルの由来。
集まった人々は吉井の住処を襲い、廃工場に拉致監禁して・・・
と、ここからはジョン・カーペンター監督『要塞警察』か。
バンバンと撃ち合い・・・
なんだけれど、長くてダレたぁ。
見知らぬひとたちが集まってのマン・ハンティング物語ならば、それはそれで、クラウドの先、SNSの先の見えない悪意に襲われるという現代的怪談になったのだが、残念ながら、集団の中に因縁ある人物が出てきて、つまらなくなった。
復讐するなら、とっととやらないと、ヤられてしまう。
やっぱり、そうなるよなぁ。
で、ここで終われば、普通の映画なのだが(ま、普通かどうか意見は分かれるかもしれないが)、吉井の助っ人。アシスタントくん(奥平大兼)によって、クラウドの彼方に吉井は連れ去られてしまう・・・
う、ビヨンド!
ルチオ・フルチ監督か、ラヴクラフトか。
ということで、ラストで評価アップね。
説明不足による強引に見える展開、不条理な登場人物の行動には、かなり戸惑いました。
黒沢清監督が菅田将暉を主演に迎え、憎悪の連鎖から生まれた集団狂気に狙われる男の恐怖を描いたサスペンススリラー。
黒沢清監督の映画には不穏な気配が漂って、観客の周囲の空気とどこか共振するのが恐ろしいところ。しかしそれは、社会問題を狙い撃ちした“社会派”だからではなく、黒沢監督が洞察する人間たちからにじみ出る、怪しげな臭気のせいかもしれません。「Cloud」も“転売ヤー”に“闇サイト殺人”と現代社会の暗部を題材にしているものの、描くのはむしろ、その奥底にある人間の本性ではないでしょうか。
●ストーリー
町工場で働きながら転売屋として日銭を稼ぐ吉井良介(菅田将暉)は、転売について教わった高専の先輩・村岡(窪田正孝)からの儲け話には乗らず、コツコツと転売を続けていました。
ある日、吉井は勤務先の工場の社長・滝本(荒川良々)から管理職への昇進を打診されますが、断って辞職を決意。郊外の湖畔に事務所兼自宅を借りて、恋人・秋子(古川琴音)との新生活をスタートさせます。
地元の若者・佐野(奥平大兼)を雇って転売業は軌道に乗り始めるが、そんな矢先、吉井の周囲で不審な出来事が相次ぐように。
吉井が自覚のないままばらまいた憎悪の種。例えば苦労して開発した医療機器を吉井に買いたたかれる町工場の経営者殿山宗一(赤堀雅秋)のように、バッグやフィギュアを大量に買い取り、インターネットを使って高値で売りつける転売屋としての行為は、自身の知らないところで周囲の人間の反感を買っていたのです。それはネット社会の闇を吸って成長し、どす黒い“集団狂気”へとエスカレートしていきます。誹謗中傷、フェイクニュース…悪意のスパイラルによって拡がった憎悪は、実体をもった不特定多数の集団へと姿を変え、暴走をはじめます。やがて彼らがはじめた“狩りゲーム”の標的となった吉井の「日常」は、急速に破壊されていくことになっていきます…。
●解説
吉井は困窮した町工場の製品を非情に買いたたく冷血漢です。物腰は丁寧だが熱がなく、真意がつかめません。
吉井の真の目的は何なのか。映画の前半は、楽して金をもうけようとする吉井の危うさ、怪しさをジワジワと示してゆくと思って見ていると、半ばを過ぎたあたりで急展開、バイオレンスとアクションに転調するのです。吉井は何者かに拉致監禁され、殺意にさらされます。
吉井のしたことは、襲撃者たちを怒らせて当然でしょうが、本人はそれほどの罪悪感は持っていません。その証拠に、吉井は人を小ばかにしたような言葉を、文字通り、さらっと言ってしまうのです。
「クラウド」というタイトルに関して英語表記は「雲」のdoudですが、監督の黒沢清は不特定多数の意味も込めて「群衆」のcrowdをイメージしていたといいます。
男たちの憎悪はそんな「雲」のように膨らんできているのに、吉井にはそれが見えないのです。とはいえ、うっすらとは感じているはずです。暗がりで怖い顔をしている吉片に、観客は「気をつけろ」と言いたくなるでしょう。見えないけど、怖い。いや、見えないから、怖い。 黒沢流ホラーの神髄が吉井のまわりにほの見えてくるのです。
ネット社会の匿名性は、見えない恐怖を描くのに格好の題材ですが、映画の中盤以降、ホラーからアクション映画に転調させていく起動力となるのです。
金を稼いだ吉井は郊外に家を借り、恋人と住み始めます。やがて、ガラスが割られるなど、不審な出来事が。ネットを介して集まった集団の攻撃を受け、吉井ははっきりと恐怖を感じるようになります。
見えない恐怖を描くのがホラー映画なら、それを可視化したのがアクション映画。戦争映画、ギャング映画、西部劇といったジャンル映画の主人公は、恐怖の対象である敵と闘うために、銃を手にします。
吉井も仕事のために雇った若者に助けられながら、敵に立ち向かっていきます。
この唐突な方向転換に、不自然さを感じさせないのが黒沢映画です。一つには、吉井はじめ登場する全員が「コイツ、何考えてるんだ?」と戸惑う人物ばかりだから。不条理なことを当然のように口にし、行動に移すのです。近しい人物同士でも関係は希薄、そして皆自分勝手。漠然とした憎悪の芽が膨らみ、無軌道な暴力となって噴出するのです。情感を注意深く排除する黒沢演出に俳優たちが繊細に応え、誰もが不気味に見えてきます。
但し本作が他のスリラー映画と違って、「やぼったい印象がなくスマート」に感じられるのは、あれだけ怖い演出なのに、不用意に血が出ないというスプラッターな表現を極力抑え込んでいることにあります。本作では銃でたくさん人が撃たれますが、破壊された死体は全く撮られていないのです。
●感想
“ネットの闇”という主題は、掲示板の悪意ある書き込みなど、さまざまな形で表現されてきましたが、これほどえたいの知れないスリルが渦巻く映画は記憶にありません。ただ生活上の困窮を抜け出すために主人公が行った小さな悪事が、予想だにしない殺意を招いてしまうこと自体は現実に起こりえる話だし、菅田が演じた若者像も実にリアルで現代的。主人公が購入する湖畔の家や廃工場などのロケーション、脇を固める古川、荒川、窪田正孝らの謎めいた挙動やセリフも鮮烈で、映画の不気味な濃度をいっそう高めていると思います。
人に恨まれるようなことを言う吉井の心理は、映画では詳しく説明されません。特に後半はさらにそぎ落とし、アクションに徹したそうなのです。最近の映画に散見されるアクションのごたごた、もたもたした感じがほとんどない。簡潔で、全く隙がないのです。その結果、暗闇の中で動けない怖さみたいなものが際立つ演出となりました。
但し説明不足による強引に見える展開、不条理な登場人物の行動には、かなり戸惑いました。
まず疑問な点は、殺害しようとする動機です。例えばネットの取引上のトラブルで、頭にきて出品者を殺害しようとするでしょうか。はたまた目をかけてきた部下が突然退職したくらいで殺意を抱くものなのでしょうか。はたまた後輩に事業への投資を持ちかけて断られたくらいで、恨みに思うものでしょうか。もうこれらは先に殺意を抱くことが決めていて、余計な説明抜きにいきなり吉井を殺ろそうするので、見ている方は面喰らうことになるのです。
また吉井が雇った佐野も得体の知れない人物なのです。ただのニートのくせに、何か凄い裏社会とつながっていて、佐野が電話するだけで拳銃の手配から、死体の処理まで裏社会の人物とおぼしき相手が全部用意してくれるのです。このニートくんはいったい何者なんだと脅かせてくれる設定した。
さらに恋人の秋子も不条理さを爆発させます。いきなり退屈という理由だけで、別れを切り出し吉井の元を去るのはいいとして、吉井が監禁されて殺されそうになった時再び現れたものの助けようとらず、傍観するのみなのです。秋子が襲撃一味のボス格なのかとすら思ってしまいました。そしてラストでの秋子の思いがけない行動。吉井が唯一信じられるのが実体のない愛であることが、終局の重要な伏線となっていたとはいえ、さすがにこれはあり得ない変容ではないかと思いました。
いくら怖い描写のためには、台詞をそぎ落とし、説明しないことを徹底されても、登場人物の心理描写まで省略されては、なぜ突然そんな言動になるのかちっとも理解できなくなります。
その辺で評価の大きく分かれる作品だと思います。
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