劇場公開日 2024年5月24日

「現代日本の問題としても捉えるべき作品」バティモン5 望まれざる者 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0現代日本の問題としても捉えるべき作品

2024年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

中東などからEU圏を目指した難民を、ポーランドとベラルーシが押し付け合うという凄まじい蛮行を描いた「人間の境界」も凄い映画でしたが、フランスに正式に移民として渡って来た人たちですら、フランス国内で不当な扱いを受けていることを赤裸々に描いた本作も、実に驚くべきお話でした。
題名の「バティモン5」というのは、労働者階級の移民の人達が数多く暮らすパリ郊外の一角の通称のことらしいですが、ここに暮らす移民2世のアビーと、臨時市長になったピエールの対立を軸にしたお話でした。同じ移民でも、副市長として完全に体制側に立つ人もいるし、要職に就いていなくても体制側に順応する人もいる。一方アビーのように市長選に立候補して正面から状況を改善しようとする人もいるし、さらにはアビーの友達以上恋人未満のブラズのような過激派までいて、それぞれのキャラクターに明確な役割があてがわれていて、その点フランス国内の移民問題の構図が分かりやすく描かれていました。

勿論臨時市長となったピエールの側にも、街の治安を維持し、荒廃した地域を再生するという役割を果たすという目標があり、一概に悪者という訳ではない描き方がされていたところがミソ。その点「人間の境界」ほどの直截的な非人道性はないものの、マンション火災の発生を奇貨として数時間以内に住民を強制退去させると言った手法は、明らかにやり過ぎ。その結果ブラズのような過激な行動に訴える者も出て来ることになり、ピエールの目標はむしろ達成されないことに。

結論として、行政サイド、移民サイドそれぞれの利害関係者のバランスをどのように成立させるのかを、観客に考えさせるというのが本作の意図だったのでしょう。

最近我が国でも、安倍政権以降の移民受け入れ政策への転換により、直近10年で在日外国人の数は200万人程度から300万人以上と1.5倍程度に急増しています。そしてバティモン5的に移民の人達が多く暮らすエリアというのが形成されており、元からの住民との間で軋轢が発生していることがたびたび報じられています。これを如何に調整するのかは、国であり自治体でありの責任ですが、我々1人1人にも街の平安や個人個人の自由を維持する責任の一旦があると思われます。そうした意味で、本作は現代日本の問題を描いた作品だったとも言え、実に意義深いお話だったと感じました。

そんな訳で、本作の評価は★4とします。

鶏