劇場公開日 2024年5月24日

「法律系資格持ちのもう一つの見方(参考までに)」バティモン5 望まれざる者 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0法律系資格持ちのもう一つの見方(参考までに)

2024年5月26日
PCから投稿

今年197本目(合計1,289本目/今月(2024年5月度)31本目)。
(前の作品 「三日月とネコ」→この作品「バティモン5 望まれざる者」→次の作品「」)

 ストーリー自体はフランス映画では、古典的フランス映画(余韻を残すタイプの映画)ではなく、フランス特有の移民問題を題材にした、いわゆる移民当事者と行政、地域住民の対立ほかを描く(一応、架空の都市等にはなっていますが)ストーリーです。趣旨的にフランスがテーマになることが多いです。

 映画としては架空の物語ではありますが、フランスでこの問題、また後述するように多くの方が疑問に持たれている「地方行政が勝手にあんなことできるの?」といった観点でみました。後者については私が知る限りで書いておきます(後述)。

 ストーリーとしては架空ではあるものの、今フランスで起きているこうした問題を背景にしている点ではまったく架空とも言い難く、その問題提起の映画という観点では評価は高いですが「なぜ行政がそこまでいきなりできるか」が示されておらず混乱するのかな(何か、フランスが独裁国家のように見えてしまう)といったところです。

 ただこの点は、フランスの歴史まで知らなければならないので、採点上考慮せずフルスコアにしました。なお、関連知識は以下です。

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 (参考/フランスの「デクレ」、地方行政の公権力行使について)

 フランスでは、アルジェリアとの紛争があった1955年に「(国家)緊急事態法」というものが定められ、地方行政に大きな裁量権が認められるようになりました(この地方の行政の公権力の行使を「市町村デクレ」といいます(「デクレ」というのは「宣言」というような意味))。

 身近なところでは、コロナ事情の中で「マシに運用されていた時期」は確かにあります。一方、フランスは自由平等をうたう国ですが、だからこそ法の縛りが少ない国ではあったものの、この「市町村デクレ」により「13歳未満の子の理由のない23時以降の外出禁止」といったものが制定された都市もあります。趣旨は理解できますが、そもそも道徳的に23時以降に理由もなくうろつくこと自体が普通ではないので、「そんなものを発布して何がしたいのか」という批判を浴びたことがあります。

 そしてこの映画でも描かれている「外国人の排斥問題」についても、人権を考慮しない地方行政の「市町村デクレ」の連発で当事者が追いやられたのは事実です。一方、こうした連発が許されている一方で、それを不満と思う市民(国民)は、日本より多く地方行政を訴える(日本でいう行政事件訴訟法)門戸が広く(後述)、「連発もされるが、広く受けつけることであまりも変なデクレは裁判所で取消されるし、裁判所からこうした行政に警告がいくシステム」ができあがっています。日本の行政法の発祥はドイツで、ドイツとフランスは隣国どうしですが、フランスはこれとは別に行政法が発達し、それが良くも悪くも今のフランスにあり、また救済の道も広くあることから、一概にどちらが上、下とも言えないように思えます。

 映画で描かれている通り、フランスはこのような歴史があるため、行政がなかば警察や司法のように無茶苦茶な行動に出ることがありますが、同時にそれを争う裁判も幅広く保障されているのが特徴です。

 (※フランスにおける、行政への裁判(日本の行政事件訴訟法)と日仏の違い)

 日本では「原告適格」と「訴えの利益」が厳しく問われます。

  (原告適格) 沖縄のサンゴ礁が荒らされているので行政訴訟で争いたいが、それを知った大阪市民が訴えたケース

  → 「どうであろうがあなたには無関係でしょう?」と門前払いを食らうケースです。「無関係な人は来ないでね」です。

  (訴えの利益) 土地の収用(土地収用法)に不服があっても、一度収用委員会が収容を決めて、そこに建物を建てたことに元所有者が不満があるような場合

  → すでに所有権がうつって、建物もたっている(立ち始めている)以上、それの取消しを争う裁判は仮に訴えを認めて勝訴させても建物が消えるわけではないからダメですよ、というもの(昭和48.3.6)。

 日本ではこの2つが厳しく問われるので、行政事件訴訟法における原告の勝訴率は10%あるかないかですが、フランスは「裁判はちゃんとやるが、とりあえず不服がある人はきてください、書類さえ書けば裁判はやります」という立場に立ちます。

yukispica
Mさんのコメント
2024年6月27日

ためになりました。ありがとうございました。

M