劇場公開日 2024年6月21日

「組織の闇に迫る主人公を警察の女性事務職員にしたことで、一般人に近い感覚で謎の解明に立ち会ったような気分になりました。目力溢れる杉崎の好演が素晴らしいです。」朽ちないサクラ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5組織の闇に迫る主人公を警察の女性事務職員にしたことで、一般人に近い感覚で謎の解明に立ち会ったような気分になりました。目力溢れる杉崎の好演が素晴らしいです。

2024年6月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 『孤狼の血』などの人気作家、柚月裕子の同名小説を映画化。警察組織の論理に対峙する広報担当の女性職員の姿を通して正義とは何かを問いかけます。俳優陣の実直な演技、丹念な演出の2本柱によって骨太で見どころ十分のサスペンスミステリー作品となりました。

●ストーリー
 たび重なるストーカー被害を受けていた愛知県平井市在住の女子大生が神社の長男に殺害されます。米崎県警平井中央署生活安全課は、女性の両親が提出したストーカー行為の被害届を、すぐに受理せず1週間先延ばししていました。
 地元紙の米崎新聞は、平井中央署が被害届の受理を後回しにして、慰安旅行に出かけていたことをスクープします。県警内では誰が慰安旅行の日程を米崎新聞社に漏らしたのか犯人捜しに躍起となります。

 そんな中、県警本部で県民の苦情受付やマスコミ対応を担当する広報広聴課の職員・森口泉(杉咲花)は、親友で米崎新聞社の県警担当記者でもある津村千佳(森田想)から、「話したいことがあるから会えないか?」とのメールを受け取ります。泉は迷いましたが、千佳に会うことを決めます。実は泉は、千佳に慰安旅行の情報をうっかり漏らしてしまい、千佳に口止めしていたのでした。
 イタリア料理店の個室で泉と対面した千佳は、スクープ記事のネタ元は自分ではないと頑なに否定する。だが、泉は千佳を信じることができません。「この件には、何か裏があるような気がする」そう告げて千佳は泉と別れました。その1週間後、千佳は遺体となって発見されるのです。
 はたして千佳の訴えは本当だったのか。後悔の念に突き動かされた泉は、捜査する立場にないにもかかわらず、千佳を殺した犯人を自らの手で捕まえることを誓います。そして、千佳の死亡原因を求めて、泉は警察学校の同期で、渦中の平井中央署生活安全課の警察官・磯川俊一(萩原利久)とともに、千佳の死に関する調査を独自に開始するのでした。 やがて事件は、ストーカー殺人と警察の不祥事に、かつて大事件を起こしたカルト宗教団体が絡んでいることが明かになっていきます。

●解説
 公安、カルト団体など、組織の闇に迫る主人公を警察の女性事務職員にしたことで、一般人に近い感覚で謎の解明に立ち会ったような気分になりました。
 一番の推進力は、誠実で毅然とした雰囲気の杉咲の好演。事件を幕引きにしたい上司に対峙する時睨みつける、目地からの強さ。また上司に「わたしも殺されるの」と語る時のワナワナと全身で恐怖を演じる演技、さらに桜吹雪の中である決意を固め、前を向くラストシーンのカタルシスを表現した演技が、サスペンスというジャンルの枠を打ち破るくらい印象的でした。ちなみに、岡崎市周辺でオールロケを行った。神社や川のシーンで咲き誇っている美しい桜はすべて本物です。

 加えて2人のベテラン俳優の迫真の演技によって、全編の骨太の印象を醸し出しています。元公安の富樫隆幸を演じる安田顕は、贅肉を削ぎ落としたいぶし銀の演技で魅了します。一連の事件を捜査する県警捜査一課の梶山浩介には豊原功補。静の富樫と動の梶山というコントラストが、生み出されているのです。

 監督は、公開中の「帰ってきた あぶない刑事」で長編映画デビューした原広利。2作の雰囲気は好対照ですが、本作でもシャープな演出、風景の撮り方などに実力をうかがわせ、今後に期待を抱かせてくれました。

●感想
 カルト宗教信者の逮捕で、一件落着のはずが、そこからが本作の真骨頂。テレビの刑事ドラマでも当初犯人と目された人物に徹底的に疑いの目が向けられるのだが、終盤になって真犯人へドンデン返しする展開は、よくあることです。けれども本作の真相は、奥が深く、規模が大きかったのです。
 結局真相までは明らかにせず、あくまで泉の個人的意見でしか、結末が暗示されません。それでも一連の事件に何らかの関与が疑われる公安警察の闇を感じさせることになります。
 そんな警察組織の闇に女ひとりで立ち向おうとする泉の決意が、本作の救いとなっています。お茶くみ事務員でありながら、自分の推論と主義を強面の上司に堂々と意見する泉の強さに、皆さんもエールを送りたくなることでしょう。
公開日 :2024年6月21日
上映時間:119分

流山の小地蔵