「【”世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし”今作はジャーナリストの正義、警察の正義、そして”公安の正義と一親を滅す大義”を描いた恐ろしいサスペンスミステリーである。】」朽ちないサクラ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし”今作はジャーナリストの正義、警察の正義、そして”公安の正義と一親を滅す大義”を描いた恐ろしいサスペンスミステリーである。】
■ストーカー被害を受けていた女性からの被害届の受理を先延ばしにしていた警察。
その間に慰安旅行に行っていた事が、ローカル新聞紙にすっぱ抜かれる。
そんな中、受理していた刑事、辺見(坂東辰巳之助)は虚ろな表情で”警察の正義って何だろう。”と呟く。
その事を警察の事務係の泉(杉咲花)は、親友のローカル新聞記者千佳(森田想)につい喋ってしまい、記事にしたのではと疑い、それを否定する千佳は独自に取材を続けて何者かに殺される。
◆感想
・今作は、ストーカー殺人を切っ掛けに次々に露わになって行くストーリー展開が非常に恐ろしくも面白い故に、ドンドン引き込まれる映画である。
・主人公の杉咲花演じる泉は、自分が親友のローカル新聞記者千佳に見知っていた”事実”をつい話してしまった故に、千佳が殺された事を悔いつつ、自身で上司の富樫(安田顕)や刑事課の梶山(豊原功補)から徐々に情報を得ながら、同僚の若手刑事磯川(荻原利久)の協力の元、真相を探って行く。
■元、公安の富樫を演じる安田顕の序盤は優し気な広報課課長の眼から、徐々に”公安の正義と一親を滅す大義”を泉に説く際の据わった眼の変化が恐ろしい。
そして、彼が公安だった時にカルト集団トラスポース(今は改名して、ヘレネス)により起こされた毒ガス事件を、自身のミスで引き起こした過去のトラウマに苛まれている姿が、彼の”一人を殺しても、百人を救う。”と言う思想形成に及ぶ過程や、”同じ警察でも、公安の正義は違う。”と述べるシーンに説得力を与えている。
・泉がストーカー殺人を犯した神職の男の神社に磯川と共に行った際に、”一つだけ残っていたお神籤”を引いた際に、そのお御籤に書かれていた在原業平の和歌”世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし”の意味や、神社の小社の中を覗いた際にカルト集団ヘレネスの紋章を見つけるシーンなども、効果的である。
ー 劇中でも、梶山が言う”俺たち世代だと、公安の事をサクラと呼んでいたんだ。”というフレーズ。-
・そして、カルト集団ヘレネスの信者で且つて富樫が助けた男浅羽(遠藤雄弥)が千佳殺害の犯人だと分かった際の、”一度、身に着いた思想は、簡単には拭えない”と言う言葉。
ー これは暗喩であり、カルト集団も、狂的な公安の偏向思想も同じである。と言っているのである。-
■一番恐ろしいシーンは、”全てが解決して”富樫と泉が料亭の離れで酒を呑むシーンであろう。泉は、”全ては公安が仕組んだ事ではないですか?”と富樫の顔を正面から見据えて言い、富樫は”憶測で物を言うな。”と受け流すも、泉は”今度の人事で、富樫さんは公安のポストに異動すると聞きましたが。”と言い、厳しい目で泉を見る富樫に対し”私も、殺しますか。”と更に言うのに対し、富樫が言った言葉であろう。
<ラストは、泉が千佳の母(藤田朋子)に、梶山から貰った千佳の記録を渡し、”千佳を殺したきっかけは私なんです。”と涙を流しながら贖罪の言葉を口にし、その後、磯川に、”私、退職する。そして、刑事になる”と言うシーンで締め括られるのである。
今作はジャーナリストの正義、警察の正義、そして”公安の正義と一親を滅す大義”を描いた恐ろしいサスペンスミステリーなのである。>