「失われぬ絆を求めて」パレード 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
失われぬ絆を求めて
この世とあの世の狭間の世界。
特異な設定ではあるが、映画としてはそう物珍しい設定ではない。是枝裕和監督の初期作『ワンダフルライフ』や近年だと『天間荘の三姉妹』とか。
監督作続く藤井道人によるNetflixオリジナル映画。また、ある人に捧げたであろう作品。
海辺で目を覚ました一人の女性、美奈子。
地震と津波の災害があった後で、町は瓦礫と化し…。
能登大地震の衝撃が未だ尾を引く中での配信はタイミングが悪かったとしか言えないが、こちら東日本大震災が背景になっているのは明らか。
混乱の中を懸命に探す美奈子。離れ離れになった息子の良を。
だが不思議な事に、美奈子の声が周囲の人々に聞こえていないようだ。何故…?
そこへ一台の軽トラが通り掛かる。乗っていた青年・アキラには美奈子の声が聞こえているようで、彼に連れられある場所へ。
遊園地跡地。4人の男女がいる。
彼らが言うに、ここは…
この世でもあの世でもない。まだ“その先”に行けない者たちが留まる場所。
美奈子はすでに死んでいた。ここにいる彼らも。
留まる理由は…?
現世に何か未練がある。まだ“その先”に行けない…。
海辺の近くの遊園地跡地。オープンバーがあって、各々に小屋があって…。
『天間荘の三姉妹』の温泉旅館もいいが、こちら夏休みなんかには最高な解放感。
しかし、ここに来たという事は…。
タイトルの“パレード”とは死者たちの祭りではなく、月に一度、皆で会いたい人を探す。
幻想的なシーンにはなっているが、この“パレード”が別にそれほど作品の主軸になっていなかった気がする。
寧ろ、個々のドラマが魅せるものがある。
美奈子の未練。息子の安否。もし自分の声が息子に聞こえたら息子も死んでいるという事だが、生きていたらこの声は届かない…。苦悩とおおらかな母性愛を長澤まさみが熱演。
小説家志望のアキラ。未練は、父親。身体が弱かった小さい頃父親が怖かったが、父と一緒に小説を完成させたい…。坂口健太郎の好演。
若いヤクザの勝利。未練は組と、恋人。今どうしているか…。普段は威勢のいい性格だが、会いに行く勇気が無い…。本作のみならず、横浜流星が日本映画に於いて存在感を発揮し続けている。
自称映画プロデューサーのマイケル。お喋りでちょっと面倒な時もあるが、誰に対しても分け隔てなく接する。リリー・フランキーの為に用意されたような役。
スナックのママ的なかおり。未練は、家族。子供たちが自立して家庭を持つまで見届けたい…。寺島しのぶが面倒見の良さといい女っぷり。
田中哲司演じるサラリーマン風の田中。彼は“その先”の案内人。
毎日毎日一日の大半を皆で他愛ないお喋りなんかをして過ごしたり…。家族のような空気感が温かく心地よい。
他にも黒島結菜、深川麻衣、でんでん、奥平大兼、北村有起哉、木野花、舘ひろしら豪華キャスト。最近『ベイビーわるきゅーれ』を見てご贔屓になった高石あかりも。
Netflixの金脈か、藤井監督の人望か。
映像や野田洋次郎が手掛ける音楽も美しい。
各エピソードで一番良かったのは、リリー・フランキー演じるマイケル。
本当に映画プロデューサーだった!
彼の未練は、映画。未完の作品がある。それを完成させたい。
皆と映画撮影。その雰囲気が何だか楽しい。
内容は、マイケルの若かりし頃。沖縄で学生運動に身を投じ…。映画と青春と想い人。
自伝的な作品。題して、『失われた時を求めて』。(本作のタイトル、これでも良かった気がする)
想い続けていた人に会いに行く。
マイケルの前にも、勝利が。アキラは父と。美奈子も遂に息子を見つける。
勝利のように成就され、旅立ちの時が。
ずっとここに留まる訳にはいかない。
一人一人ずつ、思い残す事なく旅立っていく。
死者と生者の思いを描いたヒューマン・ファンタジーだが、マイケルのエピソードが印象的で映画讃歌のようにも…。
勝利と入れ替わるようにしてここにやって来た女子高生のナナ。森七菜の拗ねた感じと劇中映画での演技は印象残すが、彼女だけ自殺未遂の昏睡状態というのがちと違和感。
そういう設定があって、彼女の“その先”が活きてくるのだけど…。
ラスト、昏睡状態から目覚めたナナ。10年後、彼女は…。
その仕事も今交流持つ人間関係も、あの場所での経験、出会い。
生と死を越えて、交流と絆が紡がれていく。
何だかそれが、藤井監督がある人に捧げたように感じた。
EDに“マイケルに捧ぐ”。
劇中でリリー・フランキーが演じたマイケルではなく、藤井監督にとっての“マイケル”。
藤井監督の作品を多くプロデュース。意欲的な作品に携わり、本作でも“企画”として。2022年に亡くなった河村光庸氏。
亡くなった人ともう会う事は出来ない。
が、映画を通じて在りし日に思いを馳せる事が出来る。
生者と死者。その絆は決して失われる事はない。
題するなら、
失われぬ絆を求めて。