劇場公開日 2024年6月7日

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「こういう映画が一本くらいあってもいいじゃないか(笑)」THIS MAN 荒川ラリーさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5こういう映画が一本くらいあってもいいじゃないか(笑)

2025年3月30日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

 THIS MANのビジュアルを見て「あ、これはアカンな(笑)」と思いつつも、たまたま心が弱っていたからか、Z級映画を見たい衝動に駆られた私は気付いたら再生ボタンを押していました。で、結論から言うと悪くはないと思いました。MANの造形で多少期待値のハードルが下がっていたこともあるのでしょうが、絵作りはオーソドックスだし、話も割と普通。多用される風景のカットや冗長な展開が気にならないでもないが、まぁこれは低予算映画の味というやつでしょう。それに津田寛治や渡辺哲といったベテラン役者の存在がこの作品においては非常に大きかったと思います。無名の若い役者さんだけだったら飽きて途中で視聴をやめていたかもしれません(笑)
 題材となった都市伝説はすでに多くの作品に流用されているネタかと思いますが、本作のお話は黒沢清監督の「CURE」のそれに近いです。ある日突如として謎の男が現れ、その男を媒介として、市井の人々が無意識のうちに殺人を犯したり自死を遂げたりするというプロットはまさに本作と相似形です。ですので本作もある程度は意識したのかもしれません。しかし予算も桁違いのCUREとは張り合うつもりはなかったと見え、ご覧のとおりMANのビジュアルはああいう形で収まったようです。ですので本格的なホラーを期待していた観客からすれば、あのクオリティには少なからぬ落胆を覚えたことでしょう。しかしあのMANをここまでの低クオリティにとどめた監督の判断は、結果的には間違っていなかったように思えます。シリアス一辺倒な話が長々と続くだけの物語ではやはり飽きてしまいます。ともすれば作品の世界観を壊してしまいかねないMANのビジュアルですが、でも現にあのビジュアルがあったからこそ色々な人が興味をそそられて見たわけで、そう考えるとやはり監督にはある種のバランス感覚みたいなものがあったのだと思います。映画を一本作ること自体が奇跡みたいな世の中で、まぁこういう映画が一本くらいあってもいいんじゃないか?と私のような人間は思ってしまいましたね。「じゃあもう一回見るか?」と言われれば、そこは即答しかねるのですが…(笑)でもそれなりには楽しめたので制作人の方々には素直に敬意を表したいと思いました。

荒川ラリー