「背伸びしたくなる映画」数分間のエールを cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
背伸びしたくなる映画
観終えて、ぐーっと背伸びしたくなった。
背伸びの爽快感は、やりきった、乗り越えた人の特権かもしれない。けれども、まずは背伸び、から始まる一歩もあるのでは。そんなふうに思えた。
柔らかな色合いの絵柄ながら、物語は決して甘くない。重ねた努力がかたちにならず、夢を手放そうとする歌い手・ユウと、絵で挫折しMVの世界にのめり込む主人公・カナタ、彼の先を走っていたはずの同級・トノ。そんな三人が絡み合い、物語を紡いでいく。
はじめは、映画自体がMV、入れ小細工に似たつくりなのかと感じた。人物が紙芝居のように平面的で、動きが少しぎこちない。そんな人工的な画に、音楽がかぶさるとグッと深みが出て、思わず身を乗り出した。同時に、手描き風の自然背景が立ち上がり、奥行きを出す。人物たちも生き生きと動きはじめ、気づいたら引き込まれていた。
まっすぐMVにのめり込んできたカナタに訪れた、思いがけない挫折。冒頭ではモブキャラかと思われた女子の存在が、とある出来事から光を放ち、カナタとともに驚いた。薄っぺらさは単なる見かけ。気づきは、すくそばに転がっている。余計なものを一切配した組み立てに、思わずうなった。
カナタがたどり着いたMVは、本編とは対極と言いたくなるほど、荒々しく描き込まれている。複数の辛口コメントと、ポツンと浮かぶ呟きコメントをあえて示した後に流れる渾身作に、目と耳が奪われ、心を掴まれた。
何かをはじめたい人、挑戦したい人。続けるかあきらめるか、迷っている人。夏休みの季節に、ふさわしい作品だ。
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