「醜いと嗤われた人にしか分からない深淵。」顔を捨てた男 デブータさんの映画レビュー(感想・評価)
醜いと嗤われた人にしか分からない深淵。
皆さんは、手塚治虫先生の神漫画・ブラックジャックの中に、《気の弱いシラノ》と云う御噺が有るのをご存知か?
人には各々大なり小なりコンプレックス…劣等感と云うモノが在ると云いますが、
大概は、凡人共やハイスペ共の偽善的な建前に過ぎません。
然し、残念ながら…現実は本当に残酷且つ過酷なもので、
中にはホンモノな人達がいます。
«ユニークフェイス»と…ポジティブなのかネガティブなのかよく分からん呼び方でどんなに茶を濁そうが、
彼らを視る世間共の大多数は、
バケモノだのフリークだの不細工だのと内心で罵倒し…嘲嗤い…自身と比べて安堵し優越感に浸るのです。
昨今、ルッキズムの名の下に、
口では直接罵らず、直接石を投げないだけで、
【目は口ほどに物を言う】を字でいく様に…
道行く人々の彼らを見る視線は、同情や憐憫、憎悪や愉悦に彩られている。
皆さんは…
他者から生理的に気持ち悪いと真顔で云われたことがありますか?
何処からか転がってきた消しゴムを拾うとして、右斜め後ろにいた同級生の女子から…
「やめて!触らないで!!」と叫ばれた事はありますか?
席替えの時に…敵意に満ちた眼で睨められながら半泣きされた事はありますか?
「オマエなんかに好きになられたら、その娘(こ)が可哀想だから、オマエは誰も好きになっちゃ駄目だよ」と諭された事はありますか?
……無くていいんです、こんな事。
そんな経験は、しなくて済むなら…しないに限ります☺️
言い返す事も諦め…
醜い自分が悪い、デブな自分が悪い、ダイエット出来ない自分が悪い…と、
…卑下する事で、現実逃避する。
今作の主人公は、恐らくその百倍…いや、千…万倍は、ずっとずっとずっと…ずぅぅぅっと仄暗い心の底で、息を潜めながら生きていたに違いないと、、
独断と偏見で、私はそう考えています。
先天的な病により顔面が変形し、内向的に他者との深い関わり合いを避け続けてきた主人公が、
何故に売れない役者を続けてきたのか?
そんなの……愛されたいからに決まってるからじゃないですか!
こんな見た目の自分でも誰かに認めてもらいたい…好意を向けてほしい…
人生で…一度でいいから、“好き”だと云われてみたい…
一度でいいから、自分からお金を払う云々ではなく、好意を寄せてきてくれた異性と、身体を重ねてみたい…
一度でいいから、好きになってしまった…なんて悲嘆に暮れる事なく、
正々堂々好きになった人に、好きだと告白したい。
…たとえ、形だけでも良いから…【自分】じゃない赤の他人…架空の誰かに【変身】してみたい。
そう思う事が、そんなに罪ですか?ダメですか?
不細工は、夢見る事も許されませんか?
そんな主人公にも転機がが訪れるんです。
それは画期的な新薬の治験者。
強烈な副作用に苦しみながらも…主人公は本当に変身するのです、嘘の様なイケメンに。
まるでクローネンバーグ監督の身体変形みたく、顔の表皮が無数の腫瘍毎…ベロンと剥がれ落ちていく。
セバスチャン・スタン並のルックスになった彼は、勝ち組になれました。
«エドワード»の名前を棄て、役者と云う過去を棄て、ボロアパートを引き払い、
今では不動産会社のエース営業マン。
そんな彼にも唯一、心残りが在る。
産まれて初めて自分を忌み嫌わず、普段と同じ…誰にでもそうする様な感じで接してくれた隣室の女性…初恋の君。
劇作家志望だった彼女を街中で見つけてしまったところから、
彼の悲運が再び動き出してしまう。
彼女のオリジナル戯曲…《エドワード》の主役オーディションに思わず参加してしまう。
最初は順風満帆…憧れの君を愛でたくゲットし、念願の恋仲に…
然しながら、何事も絶頂を迎えれば、後は降るだけが真理な如く…
主人公の前に、ヤツが現れる。
本当は«そうなりたかったであろうもう一人の自分»
かつての自分と似た疾患を患い、変形した容姿ながら、
そんな後ろめたさや悲壮感を一切見せずに、明朗快活にして自由闊達なナイスガイの…オズワルド。
私から見て…気色悪いくらいの善人で、
「世界がオレを愛さないのなら、オレが世界を愛せばいいのさ🥰ラブ&ピース!」
…って冗談抜きで臆面も無く真顔で云えるだろう好漢。
さては…あんた、人生3周目だろ?って言いたくなるくらいのポジティバー。
つまり、私が最も苦手とするタイプ。
嫉妬するのも烏滸がましいと、付け入る隙を与えてくれず…それなのに、向こうはお構い無しにグイグイとこちらのATフィールドを打ち抜いて懐柔してくる人誑し😭
顔がどんなに整って、どれだけの美女に言い寄られようが…
一度付いた心の疵は、そう容易く消えることも、拭うことも出来ない。
結局、、何処までいっても、私は私…自分は自分、彼は彼。
無い物ねだりの、隣の芝生は青いが連続するばかりが人生なのさってね、
巫山戯んなコンチクショウ😭😭😭
ただ…終盤辺りのあの茶番劇は一体何なんだ?
主人公は優柔不断なまま、恐らく流される様に、オズワルド夫妻と一緒にカルト堕ちって、一体何のオチだよ、アレは🤣🤣
人生はズームすると悲劇で、引きで観ると喜劇ってか?
……オレのくだらない人生も、誰かにとっては嗤い噺くらいにはなるのかな?
