「自白に至る過程を章立てにして、1991年と1981年を交互に見せる難易度高めのミステリー」殺人鬼の存在証明 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
自白に至る過程を章立てにして、1991年と1981年を交互に見せる難易度高めのミステリー
2024.5.7 字幕 T・JOY京都
2021年のロシア映画(138分、G)
10年前の事件の再捜査を強いられる捜査員が事件の全容に辿り着く様子を描いた犯罪映画
監督はラド・クバタニヤ
脚本はラド・クバタニヤ&オルガ・ゴロジェッツカヤ
原題は『Казнь』で「実行」、英題は「The Execution」で「処刑」という意味
物語の舞台は、ロシアのモスクワ郊外
数々の難事件を解決し、昇進を果たしたイッサ(ニカ・タバゼ)のもとに、ある一本の電話が入る
それは、彼が10年前に解決したはずの事件と同様の手口による被害者が出て、それによって「真犯人」の存在が浮かび上がってきたからだった
昇進パーティーも中断され、署に向かったイッサは、そこで被害者の女性キラ(アグラヤ・タラソーバ)から話を聞くことになった
キラは犯人に抑え込まれ、口の中に土を入れられて窒息させられそうになっていて、その手口がかつての事件と酷似していた
イッサはキラに見覚えがあり、それは彼女の姉ヴェラ(ユリア・スニギル)の葬儀の場であることを思い出す
彼女もまた非業の死を遂げていて、イッサはその捜査に関わっていたのである
イッサは再捜査を始め、犯罪現場の記録係イワン(エフゲニー・トゥカチュク)とともに、過去の事件を洗い直すことになった
そして、当時の捜査資料などを読み解き、アンドレイ・ワリタ(ダニール・スピバコフスキー)を容疑者と断定する
彼の住処を包囲し、逮捕したイッサは、警察ではなく、彼の家で取り調べを始めようと考える
部下たちは戸惑いを見せるものの、そこでワリタを拷問する形で、取り調べは進行していくのである
映画は全7章の構成で、「Важняк(ボス)」「Отрицание(否認)」「Гнев(怒り)」「Торг(交渉)」「Депрессия(鬱病)」「Принятие(受諾)」「Казнь(実行)」という感じに進んでいく
「否認」以降は劇中でも語られる「事実関係の認知の心理過程」になっていて、最終章は文字通り「処刑の実行」という感じで結ばれる
ワリタは自白をすることになるのだが、彼はひとつだけ「否認」を貫く
それが、ヴェラの殺害に関するものだったのである
物語は、1981年と1991年が交差して描かれる構成になっていて、1991年は時系列で再捜査の流れを描き、1981年〜1986年までは前回の事件の真相を順を追って示していく流れになっている
この構成に早めに気づければ混乱はしないものの、全7章内全てで2つの時間軸の話が展開するので、時系列の変化は合計12回ほどあったりする
それゆえに頭の中でシーンのパズルを作ることになるのだが、それがハマる瞬間というのは爽快なものがある
それでも、難易度高めの映画なので、繰り返し観ることで面白さがわかるタイプの映画であると言えるだろう
ワリタが自白を強いられる過程は、同時に真犯人が自白を強いられる過程にも似ていて、捜査が進むにつれて浮かび上がる事実というものは罪深いものがある
犯人を通して見えてくるものが、そのまま跳ね返ってくるようにも見えるところが面白くて、それゆえに知的好奇心をくすぐる内容になっているのではないだろうか
いずれにせよ、原題や英題では意味がわからないのだが、邦題は言い得て妙という感じになっていた
原題は7章のタイトルになっている言葉で、そこで英題の処刑が行われるのも趣がある
とは言え、かなり地味な作品で、人物の判別もかなりつきにくいので、精神的に疲れる映画であるというのは間違いないと感じた