劇場公開日 2024年11月22日

「『マルコヴィッチの穴』に迫る奇抜なコンセプトは最高、だが…」ドリーム・シナリオ ドミトリー・グーロフさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0『マルコヴィッチの穴』に迫る奇抜なコンセプトは最高、だが…

2024年11月22日
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鑑賞方法:試写会

クリストファー・ボルグリ監督作品は初めて。16mmフィルムで撮影されたという本作。まず、ファーストシーンから柔らかで落ち着いた映像美に惹かれる。撮影監督はだれだろうと思ったら、コゴナダ監督作『アフター・ヤン』なども手がけたベンジャミン・ローブだった。なるほど、本作のなんともやるせないラストシーンの風合いもどこか『アフター・ヤン』を思わせる。

それ以上に劇中、幾度も思い浮かんだのが、アリ・アスター監督の『ボーはおそれている』とトッド・フィールド監督の『TAR/ター』の2作品。
前者については、主人公が平凡な俗物(それに加え極度の心配性でもあるが…)で、事態の推移になすすべもなく流されていくようにみえるところが、本作でニコラス・ケイジ演じる主人公のキャラに相通ずる。
また後者においては、音楽院で教鞭をとる主人公が学生から抗議されるところや、惨めな境遇に身を落としていく点などが、本作で生徒らの反応に振り回される大学教授の主人公とダブってみえる。

そんな本作だが、ストーリーは波乱万丈のキャリアとともに今やミーム化したニコラス・ケイジに当て書きされたかと思えるほど。見事に彼のハマリ役となっている。そもそも、「みんなの夢に出てくるニコラス・ケイジ」というあまりに突飛なコンセプトだけで、映画の半分以上は「勝った」といえるだろう。『マルコヴィッチの穴』にも迫る奇抜さは掴みとして申し分ない。

そこらをニヤつきながら観ていると、これまでやらかしてきた我が身のみっともなくも恥ずかしい「過去」(※広告会社のおねえさんのシーンではないよ)が時折フラッシュバックし、思わず赤面するはめに。いや、これは私だけか?(苦笑)

一方、「SNSでバズらせ、上げて落とす」といった社会的風潮を皮肉った描写などは終始、紋切り型だし、ありがちな見栄や嫉妬、承認欲求に振り回される主人公と妻のスタンスもまた最後まで変わることがない。うむむ、なにかイマイチ食い足りない。

たとえば、『ボーはおそれている』に出てきた「風呂場の天井に張りついていた男」や「巨大なち●●ん」、『MEN 同じ顔の男たち』の「出産を繰り返す男」、『ゲット・アウト』の「深夜に全力疾走で向かってくる男」——そんな不条理なインパクト、もうひと押しが劇中にほしかった。監督のニンじゃないよと言ってしまえば、それまでだけど。

もうひとつ。後半にでてくる『エターナル・サンシャイン』みたいな設定がやや唐突で、肝心のラストスパートに向けてやや迷走気味にも感じられた。このことがせっかくのオチの切なさ・ほろ苦さを減じてしまった感はいなめない。

以上、試写会にて鑑賞。

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ルピノ