ドリーム・シナリオのレビュー・感想・評価
全179件中、1~20件目を表示
全シーンが面白くてストレスフルな、中年男性が陥る袋小路問題
主人公が大学の講義で語るシマウマの生態についてのエピソードが、この作品の基本理念を象徴している。群れの中にいることで、努めて目立たず、我が身の安全を確保したいが、自分がいるクラスタの中では認められたい、モテたい、チヤホヤされたい。しかし評価されるに足るものはというと、まだ一文字も書いていない論文だったりする。ああ、小さな不満を蓄積させながら、つまらない毎日に甘んじている自分たちになんと突き刺さる映画か(もちろん本物のシマウマは野生の王国で必死にサバイバルしてると思うけども)。
もうひとつ重要なのは、これが中年男性の映画であること。仮に主人公の性別を置き換えても、困ったひとの映画であることは変わりないが、おそらくこんな人もいる、という話になったように思う。中年男性が(無自覚であっても)どんな圧を発し、周囲を不安にさせるのか。いや、悪気はないのに!というのもひとつの正しさだし、そうであっても権威的な立場から社会に及ぼしてきた影響の積み重ねがあって、個人のささやかな望みが破綻する物語でも、中年男性にまつわる社会現象のシミュレーションとして機能している。
そこが監督の前作でSNS世代の承認欲求のこじらせを描いたブラックコメディ『シック・オブ・マイセルフ』と大きく違う部分だし、こちらのほうが複雑に絡み合った問題の根深さがあらわになっていて、じゃあどうせいっちゅうねん!と叫びたくなる一歩手前の問題提起として非常に優れている。そしても全シーンが面白くて美しくて哀しくて愚かしくて、繰り返し観ることで編集の冴えにも惚れ惚れするばかりです。
またしてもケイジの脚本選びのうまさ際立つ
脚本や演出が良いのか、ニコラス・ケイジが巧いのか。ケイジが我が身を顧みずとことんかっこ悪く不運な役柄を演じる時、そこにはなんとも言えない魔法が立ち現れる。あるいは、彼のバランスの効いた飾らない存在感が脚本の面白さをより際立たせるのか。ともかく本作は『The PIG』『マッシヴ・タレント』に続き、ここ数年で際立つ彼の脚本選びの才覚が最も花開いた出色の作。ボルグリ監督の『シック・オブ・マイセルフ』を見ればこの作り手が一つの着火点から居心地悪くも目が離せない不条理世界を生み出せる才人なのは一目瞭然だが、今回はその語り口を深化させ、どこかチャーリー・カウフマン的香りすら漂わせつつ、ケイジで遊び、祭り上げ、叩き落とす。彼の魅力を熟知した演出の巧さ。そしてケイジのリアクションの妙。当初、誰もが抱く「なぜ?」という感覚も気にならなくなるほど、彼の魅力と一つの事案に揺れる社会状況を見事に凝縮させた秀作だ。
フェイクの拡散に着想を得てSNSの功罪をからめた不条理コメディに、ニコケイのトホホ感が絶妙
昨年日本公開の「マッシブ・タレント」のレビューで「ニコケイ、第2黄金期の幕開けとなるか」と書いたが、この最新作でのニコラス・ケイジもお馴染みの困惑気味の表情が絶妙にはまっていて、好調を維持しているようで嬉しい。ほぼ予備知識なしで観始め、チャーリー・カウフマン脚本っぽい話だなと感じ、まず「マルコヴィッチの穴」が思い浮かび、ああそういえば「アダプテーション」ではニコケイが双子の二役で主演していたなと。
鑑賞後に資料で監督・脚本が「シック・オブ・マイセルフ」のクリストファー・ボルグリだと知り、同作で扱ったSNSや動画共有サービスの功罪がこの「ドリーム・シナリオ」にもつながっていたのかと得心。
私自身は知らなかったが、ある男が大勢の夢の中に現れるという話には元ネタがある。2009年頃にイタリア人のマーケティング専門家が創作した「大勢の夢に同じ男(This Man)が出てくる話」を、フィクションであることを伏せてゲリラマーケティングの一環として拡散させネット上で大いに話題になり、事実として報じるメディアまであったそう(Wikipediaに「This Man」の項が設けられ、経緯が紹介されている)。今年6月公開の邦画「THIS MAN」もこの元ネタから着想しているので、同作と「ドリーム・シナリオ」を両方観た人なら似た設定だと気づいただろう。
製作に名を連ねたアリ・アスターとも、主人公が不条理な状況に陥っていく恐怖をシニカルなユーモアも交えて描くセンスが似ていて、互いに共感するところがあるのだろうか。ボルグリ監督の次回作「THE DRAMA」(ゼンデイヤ、ロバート・パティンソン、「リコリス・ピザ」のアラナ・ハイムが出演)もA24とアリ・アスターの製作だそうで、今から楽しみだ。
なにか起こりそうで起こらない
私は夢で人生狂わされた! 悪夢なら醒めて!
夢の中に現れる同じ男。世界中で2000人以上が見たという。
現実世界には存在せず、見たら死ぬという噂も…。
“THIS MAN”と呼ばれる太眉男の都市伝説があった。
本作はその映画化ではないが、影響受けているのは明らか。
夢の中でこの不気味な太眉男と会うのは嫌かもしれないが、我らがニコラス・ケイジとだったら…?
でもでもでも! そのニコケイが…!
シュールでブラックな笑いとスリラーが入り交じるこの不条理劇。プロデューサーに名を連ねてるあの監督とタッグを組んできたあのスタジオの世界観に納得。
大学教授のポール。性格は温厚だが、小心者。家庭では妻子からも空気のような存在で、大学でも講義は居眠りの時間。絵に描いたような“THE平凡”。
ポール風に言わせると、シマウマは一頭では目立つが、群れの中では目立たない。例えが言いたい事は分かるが、よく分からないような…。
そんなポールの人生が激変する奇妙な事が。
見知らぬ人から何処かで会った事があると声を掛けられる。会った事などないが、同じ事を言う人が何人も。周りだけではなく、SNSを通じて世界中で。
会った場所というのが、夢の中。ポールが世界中の人々の夢の中に現れたというのだ。
一体、どういう事…? 理由も原因も全くさっぱり。
ちなみに夢の中のポールは何をする訳でもなく、ただ現れてただ見てくるだけ。今回冴えない風貌で禿げが際立ったニコケイがヌボ~ッと見てくるだけで笑える。
時の人ならぬ“夢の人”となり、TVにも出演。疎遠だった知人たちから声が掛かるようになり、大学でも人気者。
目立たなかった中年男が突然目立つようになり、戸惑いつつも悪い気はしない。
大企業から広告の話、ポールの人生の映画化の話、オバマ元大統領と面会の話…。
平凡な人生から大逆転。まさに、夢のシナリオ!
考えても考えても不思議な話。現実世界でも似たような症例が先述の通りあり、単なる眉唾ものではない。
それにしても一体、どういう原理…?
夢は寝ている時に見る脳の現象であるが、その人そのものや出来事なども少なからず影響する事も。
映画や漫画などのカルチャー、哲学などの題材になり、奥が深い。人類永遠のテーマの一つ。
しかし本作はそんな深遠な作品ではなく、前半はシュールなコメディ。先述もしたけど、冴えないニコケイが夢の中に現れるだけで本当にプププッ(≧▽≦)
時の夢人、ポール! 注目を浴びる事に浮かれ、若い女性からも言い寄られ、真面目そうに見えてお調子者。
アクションヒーローになったり、シリアス熱演を魅せたり、ブチギレ怪演を大パフォーマンスしたり。本作ではコミカルの中にも哀愁を滲ませて。
ニコケイの巧演に唸らされる。再びキャリア復活させてから、劇中さながら夢のシナリオ!
…でも、良い事は長続きしなかった。
有名になり、家に不審者が侵入。
企業とのミーティングで見解の相違。
何やら不穏な影がちらつき始めた中、思いもよらぬ“事件”が夢の中で発生。
ポールが悪事を働く。殺人、暴行、性的加害…。夢の中で。
考えてみるとおかしな話。夢の中のポールがやった事で、現実のポールには一切非はない。
こんなの普通に考えれば分かる事だし、無視してりゃ落ち着くだろうと思っていたら…、
夢の中での被害者はどんどんどんどん増えていく。現実ポールへの非難も増える一方。
顔も見たくない、怖い…との理由で、大学を休む者も。招かれた食事会もキャンセル。オファーの話も白紙に。
皆、よく考えて。夢の中の話だよ?
しかし、それで愚民どもは納得しない。世界中の人々に謝罪しろとまで。
人気者から世界中の嫌われ者に。この急転直下こそ、夢…悪夢に違いない。
見ていてポールが気の毒。祭り上げられて、世界中から叩かれて。
謝罪は絶対しないし、ランチに訪れた店で出ていけと言われても出て行かないし、娘の演劇鑑賞会に来るなと言われても来る。ポールも頑固な所があるが、気持ちは非常に分かる。
もし、自分に同じ事が起きたら…? 誰がそんなバカバカしい事で謝罪するか! ポールと同じく断固拒否やいつもと変わらぬ姿勢を貫き通すだろう。
だって、自分は何も悪くない。が、そんな姿勢がポールの立場をさらに悪くし…。
仕方なく、SNSを通じて謝罪。ところが感情高ぶっちゃって、被害者は私なんだ!
さすがにこの謝罪は…。フジテレビや日テレのようにやらなければ良かった。
世のトレンドとしてバズって、デマ一つでバッシングに晒されて…。俊英クリストファー・ボルグリは、奇妙な設定を通してSNSやデマに踊らされる世の中や人々を痛烈に風刺。第2のアリ・アスターになれそうな逸材。
夢ポールは何故犯罪を…? これも何故ポールが世界中の人々の夢の中に現れたと同じくらい謎。
原因究明はナシ。極限状態になったポールが現実世界で本当に犯罪を…というB級作品に出まくっていた頃のようなバイオレンスや暴走もナシ。
それらを見たかった人には肩透かしかもしれないが、本作はあくまで世の中や人々への風刺と哀れ男の顛末に集中する。
大学で職を追われ…。
いちゃもん付けられ、暴行され…。
ポールにとって一番悲しい出来事は、支えてくれる筈の奥さんや娘たちからも嫌悪され…。家庭崩壊。離婚。
その後も世知辛い。元有名人なのでイベントに招かれるも…。
夢で人生を狂わされた男。“ドリーム・シナリオ”などではなく、“ナイトメア・シナリオ”。
この不条理感、胸くそ悪さ…。
ポールが一人どん底に叩き落とされた頃、世の中や人々は新システムに爆盛り上がり。
大企業がポールの体験を元に開発した“ノリオ”。誰でも自由に他人の夢の中に入れる。
勿論精神的安全は充分に考慮して。ランダムや特定も可。相手は拒否する事も出来る。
出会いや商品アピールも兼ねて。SNSに変わる新時代のツール。
にしても、世の中や人々の関心ってのは…。何だかなぁ…。
ポールを教訓に…と開発されたが、よくよく考えれば怖い事だと思う。
間違いなく、第2第3のポールが世界中で現れるだろう。
夢で人生を狂わされたポールがこの“ノリオ”を使っているという皮肉。
もはや夢の中でしか…。
平凡ながらも穏やかだったあの頃…。愛する家族…。
夢でもし逢えたら…。
見る人を幸せにする夢。見る人に影響を及ぼしかねない悪夢。
たかが夢、されど夢。
いい夢、見たいよね。
夢に遊ばれる輩たち
ニコラス・ケイジ主演の情報しかなく観た。
(観る前に、できるだけ前情報を入れないで、先入観なく
楽しみたいという発見を期待している。)
開始30分頃までは楽しんでみた。
ただ、これが限界だろう。
監督はクリストファー・ボルグリ、『シック・オブ・マイ
セルフ』の人。
あの映画も転結が弱かった。この監督には
脚本のサポートに他のストーリーテラーが必要。
製作のアリ・アスターは売れっ子でアイデアも枯渇して
他に手がまわらない、のだろうね。
この手の不可思議なお噺映画は転結に注目されるから、
起承だけのアイデアだけだと楽しめない。
夢は自分が刺激した脳の映像。
デジャブは認知心理学的説明と
生理学的な説明(脳の海馬傍回という場所で、一時的な異
常が起こること)が説かれるが、明確にはまだ解明されて
いない。
面白い題材だが、限界を突破して新たなる世界観を表現
するクリエーターを、映画界も見つけてほしい。
(僕はスピリチュアルな世界観がすきで、デジャブも己で
多く経験している。
でも、ソレでしかない。
広がりも羽ばたきもない。
ただの凡人に夢を操ることなんて、できない。
デジャブ自体、自分の世界でしかないのだ。)
※このレビュー閲覧注意
※注意
あらすじや設定を知らずに観ると一番面白いタイプの映画
なので、まだ知らないという方は今すぐ読むのはやめて下さい!
そしてサブスクにGO!!
ニコラス・ケイジ演じる大学教授のポール
自分の研究論文を書籍化したいという夢を持っている彼だが、それは長年叶わず通常運転の毎日を繰り返していた
そんな彼に思いもよらぬ大きな変化が訪れる
最初は「町でよく顔をさされるようになったなぁ」ぐらいだったのだが、なんと世界的規模で
同時多発的にポールが登場する夢をみる人が続出しはじめたというのだ
自分の意思が及ばぬところで顔と名前が(主に顔)売れていくポール
彼に悲喜こもごもの物語が始まってしまった・・・
ゴールデン・グローブ賞を参考にすると今作はコメディに分類されるらしい
たしかに大学教授でありながらどこか情けない
ポールの姿や、展開のあれこれはコメディチックだ
しかしそれ以上に、人間社会で生きる人なら誰しもが分かるリアルな物語でもある
作中で問われる
「シマウマはなぜ白黒模様なのか?」
私達も🦓でないとは言い切れない
ニコラス・ケイジさん、最高だよ
今日のキネカ大森の名画座は 「B級俳優と思われがちなニコラスケイジの真価を観よ。」という(受け取り方によっては失礼な)企画で、「ドリーム・シナリオ」と「マッシブ・タレント」の二本立て。 失礼な、と書いたが、そもそも「マッシブ・タレント」の前宣伝文句が「君はまだ、本当のニコラス・ケイジを知らない」だから、みんなそう思っているのは否めないかもね。しかし、俺はこの企画のおかげで真のニコラス・ケイジさんを、憑依型俳優の真価を観たよ。
ただ、本作「ドリーム・シナリオ」は、こっわ(怖)。 映画自体は(俺にとっては)困りものでした。パッとしない生物学の大学教授の主人公は、突然、いろいろな人の夢に現れるようになり一躍時の人として大人気になるが、しばらくして夢の中の主人公が乱暴やら殺人やらと、ひどいことばかりを各自の夢の中でし始める。それとともに、なんの責任もないはずの本人が大変な状況に陥っていく、という話。
世界が一段階覚醒するときに (本作で言えば、人類が、他人の夢に出現する技術を発見し確立する、そのタイミングで)、最初のひとりには悲劇が起きているかもしれないよ、という話なのかな。例えれば、「ふぐが美味いということを人類が知る際に、肝を食って死んだ男(人類に「肝は食ってはいけない」と知らしめた男)の話とでもいうのだろうか。
何もしていないのに自分の存在が人々を不安にするという苦境。自分もまた悪夢の中で自分に襲われるようになっても誰の同情も得られない苦境。
いや、観ていて救いがないわ。イヤホラ(イヤな気持ちにさせられるホラー)だわ。苦手だわ。というわけで、ニコラスケイジさんは見事だったけど俺の評価点は低いわ。ごめんね。
可哀想すぎる
夢が現実を壊していくとき
ニコラス映画にハズレなし
と言いたい所だが、今作はどうか。
プライムビデオで配信されていたので、ニコラスケイジってだけで視聴した。
結果色々と気になる部分はあったが楽しめた。
おそらく世界的に有名になったイタリア発の都市伝説「This Man」が元ネタなのかな?
ゲリラ・マーケティングの一環として考案した都市伝説らしいが、まさにそれを彷彿とさせるシーンが数々あった。
シーンの切り替わりや演出が良く。
コメディ系の雰囲気を出しながらホラーを感じる少し不気味な演出の切り替えが上手かった。
やっぱニコラスの演技は良い。
哀愁があり、素朴だが、一方で変質的な一面や不気味な雰囲気を醸し出す。
ポールと言う人物にハマってたように見えた。
ストーリーとしてはあまり捻りは感じられないが、ストレートな構成で割と好感が持てた。
ただこの現象についての説明はなく、それを匂わせる様な観る人間に少し想像させるようなヒントもない。
なのでなぜそれがポールだけに起こったかも考える余地もない。
ただそれが起こり人々に影響を与える人間になった。
ってだけ。
どちらかと言うとみんなの夢に出てくるオッサンと言うアイディア先行型の映画だなとはおもった。
まぁ普通に観てればそんなのは気にならないし
非常にエンタメしてて良かった。
お勧めできます。
優れた物語性を含んでいるし洗練されている
SNSについての寓話なんだと思うけれど、良く出来たシナリオだと思います。
優れた物語性を含んでいるし、映画としても非常に洗練されていると感じました。
怖くて、もう一度観たいとは思わないけれど。
しかし、主役のポールは、一体、どう行動したら良かったのでしょうかね。
あまりにも理不尽です。
全179件中、1~20件目を表示