「忠誠!(チュンソン!)」ソウルの春 マスゾーさんの映画レビュー(感想・評価)
忠誠!(チュンソン!)
クーデター
語源はフランス語(coup d'État)
で一般的には暴力ないし武力による
政治的変革を意味する
国家の統治とはつまりは
国軍の統帥権(指令する権利)の掌握と
言え政権が軍部を掌握しなければ
ならないが発展途上国や情勢が悪化している
国家においてはしばしば政変は
クーデターによって起こることが多い
それほどに軍隊の実質的権力は強いのである
暴力装置という表現も間違いではない
今作はあくまで
フィクションと謡っているが
明らかに大韓民国の朴正煕暗殺後の
1979年10月から翌年8月にかけての
プラハの春になぞらえた「ソウルの春」
を題材にしその後発生した
12.12「粛軍クーデター」をモデルにし
その中心人物だった
全斗煥(チョン・ドゥファン)や盧泰愚(ノ・テウ)
クーデターに立ち向かった張泰玩(チャン・テワン)
らを一部名前を改変しているがほぼ展開は
史実通りの実録系作品
どうだったか
いや非常に面白かった
軍の存在や政治体制の成り立ちが
日本とは異なる部分は新鮮だったし
ディティールや緊迫感も素晴らしく
誰もが感情移入する側をぶった切って
終わるラストは唖然とさせられます
って史実なんですけども
韓国の歴史を
少し復習すると
1950年の朝鮮戦争後
南北を38度線で分断され
朝鮮戦争は終わらないまま
(ちなみに今でも終わっていません)
韓国は米国ら同盟国と軍備を整え
睨み合いが続けていましたが
国家としての機能が進まぬうち
軍の腐敗等が進んだことで
日本名「高木正雄」も持つ軍人
朴正煕が1961年に「5.16クーデター」
を起こして軍事政権を樹立
日本から「日韓基本条約」
として戦後補償と引き換えに
技術支援などを取り付け
(この条約は後に政治的に反故)
「漢江の奇跡」と言われるほどに
急速に発展した
しかし1979年その朴大統領が
KCIAの職員に暗殺され韓国全土に
戒厳令(軍部が三権を掌握すること)
が敷かれたがここに吹いた世界的な
民主化運動の風と共に再び
騒乱が起こったのである
暗殺事件の捜査の代表保安司令官
チョン・ドゥグァンは軍内部の
極秘派閥「ハナ会」に属し
5.16クーデターも関わった野心家
ハナ会は軍内部で勢力を拡大する
秘密組織でも陸軍師団を指揮する
ノ・テゴン将軍と共に重要な存在
政治側にも国防長官に賄賂をしていたり
工作を危惧し軍部と政治を切り離す
方針でいた陸軍参謀総長チョン・サンホは
軍の中でもハナ会に属さず堅物な
イ・テシンを首都警備司令官に打診し
ドゥグァンを左遷する方向で動きます
それを察知したドゥグァンは
チョン・サンホを暗殺事件の加担者
としてでっち上げると共に
陸軍司令部を乗っ取って政権を
奪取する一大クーデターを
1979年12月12日に実行するのである
簡単に説明すると
・大統領に参謀総長取調べの認可を得る
・陸軍司令部を占拠する
・ハナ会のネットワークを最高に駆使する
という算段である
最も大きいのは鎮圧に動く側の通信を
保安部あがりのクーデター側が
完全に盗聴しており行動を封じられて
しまったことにある
そして何より38度線に前方部隊を
集中しているのだからソウルは南側から
反乱を起こされると軍備が常に足りない
ただでさえ大統領暗殺という混乱状況
である
様相的にはクーデター側に有利な条件が
揃っているように見えて映画上の序盤では
なかなか大統領の許可取りがうまく
いかなかったりイ・テシンの機転で
阻止されたり非常警戒警報「珍島犬1」
が発令されたりといったヒロイックな
展開が進むので観ている側はテシンに
感情移入していくところがうまい
しかしテシンの努力も事態を理解していない
陸軍上層部に再三阻止され
ドゥグァンの土壇場からの工作によって
あれよあれよ形勢は逆転していき
テシンはソウルに迫撃砲を打ち込んででも
と最後の手段のように持っていくが
すんでのところで司令官を解任
クーデターが成功に終わってしまいます
これには観てる側は( ゚д゚)ですが
これ史実なんですよね
実録系映画って結末はわかっていても
そこまでにどうハラハラさせるかが
カギですからこれは見事でした
「藁にもすがる男達」でも
幸薄い役を演じたテシン役のチョン・ウソン
そして何より前髪を後退させてまで
ドゥグァンを演じきったファン・ジョンミン
(全斗煥の写真見ると再現度ヤバい)
よくできていました
韓国の政治の歴史も知れて良かった
おすすめで