「ファン必見!ようこそウマ娘沼へ!」劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」 乙べルさんの映画レビュー(感想・評価)
ファン必見!ようこそウマ娘沼へ!
1.はじめに
2.良かった点
3.気になった点
4.最後に
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1.はじめに
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Cygamesのアプリゲームであり、TVアニメ2期で大成功を収めた「ウマ娘」。俗に言う擬人化系作品であり、本作はタイトル通り競走馬×美少女を組み合わせ、競馬の史実に準拠しつつ要所要所でオリジナルのストーリーを織り込んだドラマチックなシナリオが高い評価を得ている作品だ。
今回の映画はウマ娘「ジャングルポケット」を中心に2001年の競馬をモチーフにしている。
・2000年に年間無敗を達成し、2001年のジャパンカップで戦ったテイエムオペラオー
・同期の皐月賞ウマ娘アグネスタキオン・菊花賞ウマ娘マンハッタンカフェ・ダービーで鎬を削ったダンツーフレーム
・史実で同じ渡辺栄調教師の管理馬だったフジキセキ
これらの面々を中心にストーリーが展開される。
タイトルを読んで貰えればわかる通り、私はこの作品を視聴しとても感動した。本当に素晴らしい作品である。その理由をいくつかの観点から書いていく。
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2.良かった点
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①競馬へのリスペクト
私はウマ娘を知る前から競馬が好きである。
そんな私から見てもこの作品は競馬へのリスペクトを強く感じる。
例えばジャングルポケットのトレーナーを務める「たなべ」という人物、これは渡辺調教師からきていることがはっきりわかる。実際の名前は使わず、上手く作品にそれとわかるように組み込む工夫が素晴らしい。
また、描かれる一つ一つのレースは展開がそっくりそのまま史実のレース展開である。誰がいつどのように前の馬を抜いたのか、その時実際の実況はどんな言葉を使ったのか、そういった感動の場面をアニメーションで完全に再現している。
特に私が驚いたのが最初の方に描かれるテイエムオペラオーの有馬記念だ。このレース映像にはキングヘイローがしっかりと映っている。
キングヘイローは確かにこの有馬記念に出走し4着になっている。しかしアニメの中で実況はキングヘイローの名前を呼ばないのである。極端な話、別に描かなくても今回の映画の展開には全く影響しない。それにも関わらずレースを忠実に描くためにキングヘイローをはっきりと描いたのである。
「可能な範囲で史実に忠実」、これを徹底している(のは一人の競馬ファンとしてとても好印象であった。
②キャラクターへの愛
各キャラクターの個性をしっかりと活かせていた。
例えばアグネスタキオンというキャラクターは所謂「マッドサイエンティスト」なのだが、作画と相まってかなりの狂気を感じた。正直凄すぎて背筋がゾクゾクするほどだった。
また主要なキャラクターはもちろん、おまけで登場するキャラクター達も特徴を意識して描かれている。
カレンチャンは「インフルエンサー」として写真を撮る場面が、ハルウララは「天真爛漫」でおっちょこちょいな場面が、オグリキャップは合宿所の米を残らず平らげてしまう「食いしん坊」な場面が…といった具合にそのキャラクターらしさが随所で描かれている。
ヲタクという生き物は推しがちょっとでも出てきていれば嬉しい気持ちになるものだ。そこをキチンと理解していることが嬉しかった。ライスちゃんとっても可愛かった。本当にありがとうございます。
③ストーリー展開
史実が既にネタバレなのだが、今回のシナリオを端的に表現すれば「最強を目指していた主人公が苦難を乗り越えて本当の最強を目指す」という内容である。
苦難を乗り越えて強くなるという非常に単純明快なスポ根、そこに史実とオリジナル要素を組み合わせて非常に熱くなるストーリーに仕上げている。
とてつもなく大きな壁、先輩からの激励、仲間やライバルとの絆…とてもわかりやすく、だからこそ誰でも胸に刺さる内容になっているのだ。
今回は一応ジャングルポケットが主人公となってはいるが、レースに出る全員が主人公であるという各キャラクターへのリスペクトも感じられた。各キャラクターはもちろんだが「競馬」そのものが面白いと思わせるような内容にしているのは胸が熱くなった。
④作画と音楽
とにかく作画がエグい、これに尽きる。
単純に可愛いだけではない。レースの時の真剣な表情、狂気じみた笑み、本当に悔しい時の涙…圧倒的な表現力で見ている我々の心に訴えかけてくる。
(なので単純な萌えを求めてきた人は「なんか思ってたより暑苦しい」となってしまうかもしれない…)
ネタバレはもう史実でされているのだが、それを知っていてもつい「いけ…!いけ…!!」となってしまうほど鬼気迫るレースシーンは必見である。
またその作画を引き立たせるような音楽もまた素晴らしい。特にEDの「うまぴょい伝説」、やはりEDはこれ以外ありえない。なんであの歌詞と曲調で感動してしまうのかわけがわからないが何故か泣けてしまう。これは私の脳がやられているのだろうか。
⑤アグネスタキオンの存在
最初に「本作はジャングルポケットを中心に〜」と書いたが早速訂正する。あれは半分嘘だ。
本作の中心は間違いなくジャングルポケットとアグネスタキオンである。おそらく本作のストーリーを考えた人はタキオンに脳を焼かれた人だろう。そう思えるくらい圧倒的な存在感があった。
タキオンは史実ではたった4戦で現役を引退し、その全てに勝利。そしてその4戦で戦った相手が後に大活躍をすることで「それら全てに勝った」という伝説を残した馬である。どのくらい伝説かというとCMになるくらい伝説である。「その馬の名は…」のフレーズで知った人もいるかもしれない。
本作でも史実同様、登場人物は軒並み「タキオンに負けた」という現実と向き合うことになる。常に付き纏うタキオンという存在が彼女達を時に突き動かし、時に立ち止まらせ、時に奮い立たせるのである。ジャングルポケットは特に顕著であるが、すべての人物に影響を与えたという意味ではタキオンこそ、このストーリーの中心と言っても過言ではない。
そしてそれらの乱高下が高クオリティな映像と音楽で我々の脳に流し込まれるのである。当然我々視聴者の脳もタキオンに焼かれることになる。
…のだが、クライマックスでそのタキオンの脳を低温加熱からの超強火で焼くのがジャングルポケットなのである。ジャングルポケットが主人公である所以はまさにここだろう。視聴者の脳を2方向からの超加熱で焼き切っていくCygames、恐ろしい会社である。
と、ここまで良かった点をひたすらに書いたので、次は気になった点についても書いていこうと思う。
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気になった点
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①息をつく暇がない
これは良かったと感じる人もいるかも知れないが、個人的には展開を詰め込み過ぎていたように感じた。
基本的なストーリー展開が「レース→イベント→レース→イベント→レース→…」という単調な流れなことに加えて、描かれているレースの数がとても多い。そこにキャラクターを数多く描いているとなれば必然的にイベントパートの内容はギチギチになる。
10分前と10分後で感情が乱高下するジェットコースターである。内容自体はすごく良かっただけに、もう少し丁寧な説明や描写も欲しかったが…まぁこればっかりは尺の都合がある以上仕方がないのかもしれない。
②目がやられる
これも個人的なものかもしれないが、非常に目が疲れた。凄まじい作画と表現力で展開の早いストーリーを描いているので画面がピカピカと光るシーンが多く、目への負担が大きいように感じた。
これもある意味尺の都合上仕方ないのかもしれないが、観終わったあとは疲れがドッときた。
そういう意味でもこの映画はやはりジェットコースターなのかもしれない。まぁ表現力の代償と言われればそれまでなので、これもやはり好みの問題だろう。
③ウマ娘・競馬を知らない人向けではない
これは気になったというより、気をつけたほうがよいかもしれない点である。
この作品は全体的に競馬とウマ娘への愛と熱意が非常に強い。一人の競馬好きとしても、ヲタクとしても大いに楽しめた。しかしそうでない一般人が視聴した場合、楽しめない部分が多いように感じる。
代表的なのはアドマイヤベガである。
詳細は省くが重い過去を背負っている1999年のダービーウマ娘である。本作での彼女はメインの登場人物ではないが度々その姿が描かれる。
しかしその姿は「夏祭りで綿あめをやたらとプッシュする」「合宿所の布団のフワフワ具合を真顔でレビューする」といった、重たい過去を全く感じさせない珍妙なものなのだ。
もちろんアニメ「ROAD TO THE TOP」を見ていれば「あんなことがあったのに、それを乗り越えて素になれたんだな…」「あのアヤベさんがみんなと一緒にはしゃいでる!」と感動できるのだが、何も知らない人から見たら「フワフワ好きのおもしれぇ女」である。
他にもそういった要素が多数散見され、気になった点①②で書いた部分と合わせて、何も知らない人が何もわからないまま終わってしまいかねない。
劇場版をわざわざ観に来る人は基本的にウマ娘大好きなので大した問題ではないかもしれないが、恋人や友人がウマ娘を知らない場合、置いてけぼりを食らうかもしれない。最低限「TVアニメ2期」と「ROAD TO THE TOP」は視聴しておくことをオススメする。
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最後に
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この映画への私の印象をまとめると「ウマ娘好きを更に沼に叩き落とすファンサービス映画」だろうか。
ジャングルポケットやアグネスタキオンなどの主要人物が好きな人は勿論、多くのファンに刺さるようなリスペクトや趣向が光る作品だ。
その一方、尺の都合でやや駆け足な展開にファンでなければ置き去りにされかねない。ウマ娘のように我々も精一杯走って追いつく必要があるだろう。
…などと散々書いたが、結局は自分の目で見なければ意味がない。気になっている人は是非自らの脚で劇場に行き、その先にある感動を目指してほしい。