侍タイムスリッパーのレビュー・感想・評価
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時代劇ファン層に届くことで、さらなるバズりに繋がるのではないだろうか
2024.9.14 MOVIX京都
2023年の日本映画(131分、G)
幕末の侍が現代の時代劇撮影所にタイムスリップしてしまう様子を描いたコメディ映画
監督&脚本は安田淳一
物語の舞台は、幕末の京都
会津藩の高坂新左衛門(山口馬木也)と村田左之助(高寺裕司)は、長州藩の山形彦九郎(庄野﨑謙)をある寺院の前で待ち伏せをしていた
ようやく山形が寺院から出てきて対峙することになった高坂だったが、突然の雷雨に見舞われてしまう
そして、いざ勝負というときに雷が落ち、それによって勝負は流れてしまった
数時間後、高坂が目覚めると、そこはどこかの長屋の裏手で、町人の会話などから「江戸」であることがわかった
京都から江戸に一瞬で移動したことに驚きを隠せずにいると、そこでいきなり浪人と剣士の戦いが始まってしまう
浪人たちは剣士の名前を聞いて恐れ慄いて逃げるのだが、再び同じようなやり取りが始まってしまった
そこで高坂は助太刀をしようと乱入するのだが、そこで行われたのは時代劇の撮影で、高坂は助監督の優子(沙倉ゆうの)に追い出されてしまった
その後、撮影所の中をうろうろしていた高坂は、機材に頭を打ちつけて卒倒し、そのまま病院に運ばれてしまった
気づいた時はベッドの上で、窓の外の景色はどこか異国の地のように見え、驚いた高坂はベッドを抜け出して街を彷徨い始める
そして、街角のポスターを見た高坂は、そこが140年後の日本であることを知るのである
映画は、自主制作映画として、東京の2館で上映が始まった作品で、その口コミが広がって、一気に全国展開をしたという作品になっている
関西圏では情報が全くなく、評判だけは流れ着いていたが、さすがに鑑賞は無理だろうと思っていた
GAGAが配給に入ったことで、色んな映画館で拡大上映されることになったのだが、結構な博打であるようにも思える
映画自体の完成度は高く、自主映画とは思えない出来栄えで、音響のバランスをきちんと調整すれば、自主映画だとは気づかないレベルだった
東映の京都撮影所にて撮影されているので、思った以上に低予算で実現していて、演者もほぼマイナーな人&裏方さんが出演していたりする
それでこのクオリティだから、お金の使い方とアイデア次第ですごいことが起こるのだなあと思わされる
物語としては、数段階のオチが用意されていて、元時代劇俳優・風見恭一郎(冨家ノリマサ)の正体が判明するところはベタだが面白い
彼は時代劇を捨てて国際的なトップスターになっているのだが、高坂を見つけたことで、時代劇愛というものが再燃していた
この二人が30年差でタイムスリップするというアイデアが画期的で、さらなるオチが待っているところも面白い
三人目がどのような末路を辿るかはわからないが、キャラ的には異国を迷走して狂ってしまうか、銃刀法違反で捕まってしまうんじゃないかな、と感じた
いずれにせよ、ムーブメントを仕掛けている作品だが、どこまで化けるかは現時点では予想がつかない
今はSNSを中心に若者のバズりがあるのだが、今後その波が時代劇のファン年齢層に到達できれば思わぬ大ヒットになるかも知れない
個人的には、ヒロイン役の沙倉ゆうのがツボで、メガネフェチには堪らないキャラクターのように思える
助監督役の人が助監督とか小道具係をしていたりするのだが、監督自身も色んなところに名前が載っていたりするので、エンドロールを楽しんで見られる作品になっていた
時代劇を作る意味や、それを観る意味というものに言及しているので、哲学的にも深いものがあると思う
なので、本当の視聴者層に届いてこそ、本作品の真価が問われるのではないだろうか
幕末の雷も……
1.21ジゴワットあったんですね。「あの花が咲く丘で〜」に続き、雷でタイムスリップとはBTTFがもはや教養になってるんですね。
さてさて、映画の方ですが本当に見応えのある一作でした。中盤の脚本にやや緩さはあるものの、見事に盛り上げていただき、最高の気分で映画館を後にすることができました。評判は聞いてましたが、ここまでのエンターテインメントが待ってるとは思いもしませんでした。
作品の出来栄えにも驚きましたが、エンドロールで助監督役のヒロインが実際に助監督を務められてることにもビックリです。
とにかく最高に楽しめた一作でした。
胸熱体験を約束してくれる痛快無比な冒険活劇
タイムスリップものにありがちなズルいとの批判な気持ちは湧くことなく、元の時代に戻るというスリップもののセオリーを捨てたシナリオで、破天荒なストーリーが展開していく。
コミカルな前半は緩い雰囲気でややもするとちょっと笑いポイントがずれているシーンが気にはなったものの(そんなことは終盤に向かってどうでもよくなるのだ)、中盤のとある人物登場から展開が一転、ここでまず涙腺にキタ・・・
そのあと後半は狂気ともいえる展開へ突き進んでいき、緊張感が溢れるモードへ。幕末武士たちの悲哀を時代劇脚本書き換えのシーンで主人公に読ませる辺りの演出は憎い(周りの現代人たちは分かっていない、そこがまた切ない)。
そして最後は胸熱痺れるクライマックスの決闘シーンへ。本物の武士2人がエンタメという時代劇を演じるシーンでもって、真剣で本気勝負をさせる設定がリアルと演技のカオスな世界となっており、加えてスクリーンは暫し無音が続く・・・ここが一番観ていて痺れた~
剣同士がぶつかる音もそれまでとは違っていたように聞こえたのは気のせい?このシーンを観るだけでもスクリーン鑑賞の価値ありだったと思う。
大一番勝負の結末は安定路線ではと想像していたものの、それを己の意識から完全に外させられてしまった、まさに斬られた感覚だった。ただ、オールラストの3rdタイムスリップの落ちに正直苦笑いしたのは俺だけ?でも許容範囲かな、この映画独特のコミカルな表現(笑)
時代劇に対する造り手の想い入れを幕末の本物武士に語らせつつ体現させる手法は、たとえご都合主義と言われようが、演技の迫力もありリアリティ溢れていることでこれぞエンタメの醍醐味だと、スッキリ感で満たされた。
emotionalな時代劇の造り込み過程を演じていく本作ストーリーにあって、(元の世界に戻らないプロットで)人が抗えない運命や試練を受け入れる時の覚悟の持ち様や、古き時代の礼儀や武士道的な考え方について、時に面白可笑しく見せている点もこの映画の隠れた良所だったと思う。そして、本業を虚業として生きていく男の悲哀と覚悟の有り様によって、痛快無比で感情を揺さぶられる「今日がまさにその日」の2時間であった。
自主制作だからこその面白さ
幕末の志士が京都の太秦映画村にタイムスリップするものがたり
時代錯誤感で楽しませるのか
元の時代に戻ろうと奮闘するのか
歴史を消えてしまうことに葛藤するのか
そんなものがたりを想像していたが、そのどれも芯をハズしてストーリーは進んでいきます。
いまの我々の生活があるのは、
第二次世界大戦の特別攻撃隊の特攻死ばかりが取り上げられるが、幕末の争乱を経てのものでもあるのだなと気付かされました。
薩摩・長州藩の活躍だけでなく、会津藩や幕府軍の犠牲の上にも成り立っているんですよね。
高坂のラストの殺陣の覚悟は、心が震えました。
中学生の娘と行きましたが、彼女には退屈そうでした(笑)たしかにちょっと古くさい演出もありましたもんね。
幕末の京。 会津藩士・高坂(山口馬木也)は同士とともに討つべき長州...
幕末の京。
会津藩士・高坂(山口馬木也)は同士とともに討つべき長州藩士を門前で待ち構えていた。
使い手の長州藩士は新左衛門の同士をあっさりと当身で気絶させ、新左衛門と刃を交えることとなったが、その瞬間、雷に打たれてしまう。
新左衛門が目を覚ましたところは江戸の町。
どことなく奇妙なその町は、それもそのはず、時代劇撮影所だった。
親切な助監督・優子(沙倉ゆうの)に助けられ医務室へ運ばれた新左衛門だったが、そこも逃げ出し、彷徨するうち、明治維新から150年経っていたことを知ってしまう。
彷徨の末、たどり着いたのは、件の寺の門前。
天に向かって「雷、落ちよ」と叫ぶ新左衛門だったが、疲れ果てて眠ってしまった・・・
といったところからはじまる物語。
大部屋俳優と間違われ、寺で居候することになった新左衛門。
ひょんなことこから時代劇に出演することになった彼は、この時代で生きていくしかないと覚悟を決めて、殺陣集団「剣友会」に入門、その後、斬られ役として生きていくことになる・・・
前半はコメディ部分が多いが、進むにしたがってドラマ部分が立ち上がってきます。
この時代で生きていくしかないと覚悟を決めた新左衛門の目の前に、「この時代」に繋がる「あの時代」が再び現れて・・・
覚悟を決める。
この「覚悟を決める」って、最近、経験しなくなったし、観なくもなった。
この覚悟は、監督・脚本・その他もろもろ一切合切の安田淳一監督の「面白い映画をつくる!」という覚悟でしょう。
で、本島に面白い映画に仕上がりました。
興味深い点を記しておくと、
1.周囲の人が、誰も主人公を「過去からきた人」と認識しないこと。
2.主人公が「元いたところに戻りたい」と思わないこと。
このふたつによって、タイムスリップ映画のお約束、「元の時代、元いた場所に戻る」サスペンスを捨てている。
さらに、「戻ること」=めでたしめでたし、も捨てている。
その分、タイムパラドックスも回避できるという利点はあるけれども、監督はそれは意識していないでしょう。
さて、もうひとつ本作の魅力はアクション。
本作でのアクションは殺陣ということになるのだけれど、殺陣シーンはそれほど多くない。
多くないがゆえに、効果的。
クライマックスの殺陣はもちろんなのだが、剣友会率いる殺陣師関本(峰蘭太郎)と新左衛門の稽古シーンが秀逸。
打ち合わせのとおり、主役側(斬る側)の関本に対して、斬られ役の新左衛門が、本能的に侍としての性分が出てしまい、何度も何度も関本を斬る振りになってしまう。
ことなる振りをすべてワンカットで撮り、テンポよく繋ぐのは、アクションコメディのお手本といえるでしょう。
なお、後半登場の冨家ノリマサほか、撮影所所長(井上肇)、斬られ役俳優(安藤彰則)、心配無用ノ介こと錦京太郎(田村ツトム)、住職夫妻(福田善晴、紅萬子)と脇もみな好演。
いやぁ、面白かった。
映画って、ほんと、いいものですねぇ。
【デラックス版】だったから途中ダルかったのかな?
【気になったところ】
・冒頭シーンの口パクとセリフの音ズレ
・冒頭シーン迫力出したいのわかるけどBGMがデカすぎて絵面より主張強い
・初めてテレビを見た時の感想「絵が動いておる!」より「小さな箱の中に人が!」の方が自然だったのでは。アニメ見たんじゃないんだから…
・台本の改訂稿があまりに説明的すぎ。テレビや書物から高坂が史実を知る方がまだ無理がなかった
・優子の妄想シーン(フェンシングやら西部劇やら)は長くて中弛みした。高坂が想像もできない話にあんな尺要らん
・コメディシーンはシリアスで淡々としてる方が笑えたのにオーバーリアクションや古臭いSEで萎えた
・無音シーン長すぎ。あの長さ無音にしたいならスローパンくらいして。緊張感続かず飽きる
・同時期にタイムスリップしたのに転移時間に年単位の大幅なズレがあることへの説明なし
【好きだったところ】
・登場人物全員善人
・白米の握り飯に感動している高坂
・テレビで時代劇を見て大興奮している高坂
・現代では庶民も美味しい菓子を食べられると知り豊かな国になったことを喜ぶ高坂
・師匠との稽古で斬られなければならないのに斬ってしまった時の、怒鳴るわけではない師匠の「アホ」
・殺陣の動き全体的にとても良かった。時代劇ファンも納得のレベルの高さ
・芝居だとわかっているのに死ぬ間際に走馬灯が流れるところ。走馬灯で高坂の人生がよりわかった
・終わりを迎えそうな時代劇というジャンルと、終わってしまった時代の侍の悲哀の重なり
・突然知らない時代で生きることになっても自分のできることで生計を立てたいと前向きに頑張る高坂の実直な人柄
・高坂が現代のものを受け入れる早さや髷をあっさり切る順能力の高さ。話の展開早くて助かる
・真剣勝負のあと優子が駆け寄ってキスしなくて本当に良かった。ハリウッド映画ならしてた
・最後の高坂のセリフの言い方が可愛くて良い締めだった
全体的に作品を作っているスタッフの情熱や愛が余すところなく反映されていて良かった。ところどころ粗さやテンポの悪さで観客の集中を途切れさせてしまうので、技量をブラッシュアップしていってほしい。自分は笑いより感動して泣いた場面の方が多かった。本作はカメ止めほど人気は出ないだろうけど、次回作に期待。山口馬木也さんの今後の活躍にも期待大。
祝!メジャー系全国公開決定! 真面目に笑えて泣ける傑作、こういうのをもっと観たい
侍が現代にタイムスリップ、斬られ役で俳優デビュー。
正統派SFコメディーだけじゃない。
時代ギャップネタできちんと笑わせながら、無骨な武士の淡い恋心、斬られ役修行などを真面目に描いているのがいい。
地味なヒロインも好演。
滅んでしまった侍と、すたれていく時代劇を重ね合わせているのもうまい。
また、中盤で、敵役もまたタイムスリップしていて、それも主人公が飛ばされた時代よりも古く、時代劇の黄金期の大スターとなって再会する展開が面白い。
そして、幕府の滅亡の現実に打ちひしがれ、苦しみながらも生きていくことを決意。
クライマックスは、真剣勝負の見事な殺陣で魅せてくれる。
オチも決まって、最近貴重な、気持ち良く観れる映画でした。
ラスト時代劇
予告を見て、超低予算のB級 映画ということで、ほぼ期待ゼロで見に行ったのですが、予想外に面白かったです。
侍の世が終わりつつある幕末から現代へタイムスリップしてきた侍が、時代劇が衰退しつつある現代において、「最後の侍」という、おそらく大型時代劇映画としては最後になるであろう映画に出演するという、劇中劇のシナリオになっています。
全体的に「最後に残されたものの責任」と言うようなテーマで、
主人公は、現代に残された最後の侍として、時代劇という形でも、かつて生きた侍の魂を現代に残したいという志で映画に出ています。
この映画自体も、監督の「時代劇斜陽の現代において、残された時代劇監督として、『時代劇映画を作るという映画』という形でも、時代劇があったということを残したい」という情熱のようなものをヒシヒシと感じました。
そのような斜陽の中で叫ぶ主人公のセリフ「今日がその日ではない」は、まさに監督の心の叫びでしょう。
映画自体の評価としては、特に目新しい設定でもありませんし、低予算で取られているためか驚くような映像や音楽があるわけでもありません。
ただ、時代劇映画が積み上げてきたものというか、笑いあり涙ありの『お約束』の集大成のような映画で、水戸黄門の印籠のように安心して見ていられる映画でした。
最近めっきり見なくなった時代劇をまた見たくなるような、時代劇が好きだった人に見てもらいたい映画です。
ただ、そういう意味では、時代劇を見たことのない若い人にはサッパリウケない映画かもしれませんね。
あと、最低限の幕末の歴史を知らないと意味不明だと思うので、海外でもウケなそうです。
面白いけどツッコミどころあり
面白かったけれど、コメディではない意味でのツッコミどころが無かったわけではない。
主に気になったのは次の2つ
1つ目は、街のポスターを読み、江戸幕府が倒れて140年経ったことを知るシーン。
「140」のアラビア数字をなんで読めるんだと。まだ普及して無いだろと。
漢数字で書いてあったならよかったのに。
そんなこといったら、そもそも言葉自体が難無く通じてるのはおかしいだろという意見もあるだろうが、そこは気にならない。
なぜなら、冒頭の江戸時代のシーンで既に現代語でも通じる言葉で話をしていたからだ。
もし、言葉が通じないことを表現したかったら、難解なしゃべり方にして字幕もつけただろう。そうしなかったのは、昔でも今でも言葉が通じますよという暗黙の説明だ。
また、言葉が通じるかどうかは話の本筋ではなく、映画のテンポも悪くなるので、そこは許容できる。
時代は異なっても同じ日本語を話しているということもあるし、フィクションでは文化の違う者同士の言葉が難無く通じるのはよくあることでもあり、違和感はない。
しかしながら、アラビア数字は日本の数字ではなく、明治以降に普及した外来の数字であるので、江戸時代の侍がすんなり読めてしまうことには引っ掛かりを禁じ得ない。
2つ目は、主人公が雷雲に向けて刀を振り上げ、過去に戻せと叫ぶシーン。
なぜに君はタイムスリップしたきっかけが雷だと知っている?
雷に打たれてタイムスリップして現代で目を覚ましたことは事実だ。
だが、雷に打たれたことを彼は知り得たのか?
体に衝撃が走ったことは認識できたかもしれないが、突然のことでそれが雷のせいだとは気づけないはずだ。それなのに彼は雷に打たれたことで現代にタイムスリップしたと知っている。不思議だ。
もし、タイムスリップしたきっかけを知っているとするなら、たとえば対決相手が先に雷に打たれて消えてしまうことを目撃するといった、推測が成り立つシーンが無ければおかしい。
ただ、そのシーンを入れるのは困難だ。
なぜなら、それを見せてしまうと対決相手もタイムスリップしたことがバレてしまうから。
せいぜい、タイムスリップした時はこの場所でこんな雷雨のときだったなと嘆き喚くくらいだろう。
ほかにも、中盤がだれ気味で、最後の決闘の溜めは長すぎると感じた。
諸手を上げて賞賛できる内容では無いが、大筋では面白くおかしかったし、殺陣のシーンは迫力があって映画館の大画面で観れてよかったと思う。
「真剣」勝負の危うさ
幕末から現代の太秦にタイムスリップしてきた侍が時代のギャップに戸惑いながらも「斬られ役」として大成していくさまを描くコメディドラマ。
物語がサクサクと進んでいくテンポ感は見事なもので、2時間超の尺を感じさせない。にもかかわらず、いわゆる「使い捨て」の登場人物がいないことも非常に評価できる。それぞれの抱く意志とその顛末がほとんど余すことなく描写されている。
最大の見せ場はやはり終盤の剣戟シーンだが、面白いのは二人の剣の「構え」がちゃんと時代劇の文法に馴致されているところだ。高坂は「斬られ役」の師匠である関本に言われた通り、剣を後方ではなく上方に構えている。風見も同様だ。
歴史的怨恨を巡る文字通りの「真剣」勝負においても、彼らは無意識のうちに「侍」ではなく「役者」としての自分を選択してしまっていたというわけだ。となればその後の決着のつけ方についても納得がいく。
こういう細かい点を疎かにしなかったがゆえに本作はこれほどまでのリアリティを獲得できているといえるだろう。
時代劇の黄昏とも呼べるこの時代、敢えて時代劇を撮る意義とは何か?という劇中の命題を他ならぬ本作自身が証し立てているといえる。それくらいパワーのある作品だった。
とはいえ手放しに全てを肯定できるかというと、それも難しい。
気になったのはやはり終盤の「真剣」勝負のくだりだ。高坂と風見が演技に真剣を用いたいと申し出たのに対して、「誓約書があるから」という理由で監督もプロデューサーもそれを是認してしまう。唯一反対していたのは助監督の山本だけだった。しかし撮影が終わるまで、誰一人として彼女の声に耳を傾けようとしなかった。
もちろんここでの真剣の使用が単なるリアリティの強化を目指したものではなく、歴史的背景を踏まえた上でのある種の「落とし前」であることは自明だ。しかしその自明さは我々受け手にしか感知できないものである。
つまりあの現場の人々は単純にリアリティを強めるためだけに「真剣の使用」という危険極まりない手法に及んでいる。あまつさえ反対意見にも耳を貸さず、実際に決行させてしまっている。筆者自身がいわゆる「Z世代」だからなのかもしれないけれど、これはちょっとヤバいんじゃないか。
たかが映画の中の描写なんだからガタガタ抜かすな、と言われればそれまでなのかもしれないが、「映画を撮る映画」という、通常のフィクション以上に現実とフィクションの間を隔てる壁が曖昧なジャンルの作品だからこそ、こういう描写にはもう少しセンシティブに臨んでほしかった。
それこそ、勝負が始まる前に何かパンチライン的な一言を山本に紡ぎ出させれば、真剣を使用しないような決着のつけ方も可能な局面だったのではないかと思う。これだけ見事な脚本力があればそのくらい余裕だろう。
ウダウダと苦言を呈してしまったが、概して非常に完成度の高い作品だった。このたびシネマロサでの単館上映から一挙に全国へと大波及するとのニュースが入ってきたが、何も不思議はない。このまま『カメラを止めるな!』的なインディーズ旋風を巻き起こしていってほしい。
今日がその日ではない
知ってる役者は出てないし、内容はお約束の範疇でしかない。
しかし、その積み方でこれだけ面白く、強度のある作品に仕上がるとは。
序盤から先の読めるベタベタのコメディ展開なのだが、不思議と笑える。
表情や台詞回しに動作、カメラワークにBGMやSE、その他すべてが噛み合っており、安心感すら覚えた。
かと思えば、横文字だけでなく伝わり難そうな単語には高坂がしっかり眉を顰める細かさも。
同じ殺陣を繰り返しても、しっかり芝居の重さが変わっているのが伝わるのも見事。
実戦と芝居の違いにもしっかり言及してくれる。
また、物語としてだけでなく、制作陣の時代劇愛もしっかりと刻まれている。
物語の最後には高坂が、侍としての想いに加えて役者や時代劇への想いを昇華する流れも素晴らしい。
その熱さのある展開へ、コミカルな流れを壊さず繋げた手腕にも唸らされた。
最後の殺陣、いや“斬り合い”の熱量は、本当に真剣を使っているかのよう。
細かなツッコミどころはいくつもあるが、どうでもいい。
単純なのに奥深く、笑えるのに沁みる。
登場人物はみな善人で悉く愛着が湧くが、やはり高坂のカッコよさと可愛さのバランスが絶妙。
優子や住職夫婦、風見などとの関係性も素敵。
こんなに拍手を贈りたくなる作品も久しぶりだし、だから映画はやめられない。
やっぱり時代劇が好きだった
カメ止め以来の評価激高インディーズ映画。
時代劇+タイムトラベルなんて、戦国自衛隊とか信長協奏曲とか現代人が過去に行っちゃう系が多い印象だけど、今回は逆で幕末の会津藩士(ここがまた良い!)が現代の京都撮影所に、なんて絶妙!
脚本・キャスティング最高でした。
特に主演の山口馬木也さんの会津藩士然とした「凛」とした佇まい、朴訥とした話し方、役者さんとして滅茶苦茶好きになりました!!!(正座の時の姿勢の良さよ)
突然現代に来たお侍さんとしては割と早く馴染んでる感はいなめないけれど、そんな事よりも展開が面白くて最後まで笑って泣いて、手に汗握って、感動した!
私も子供の頃におばあちゃんと一緒に暴れん坊将軍見てワクワクしてたなと思いだしたり。
斜陽と言われて久しい時代劇ですが、作中にもあるようにどうか続いて欲しい。
パンフレットは制作中だったので、完成したらまた観に行きます!
安田監督の貯金が復活しますように!!
秀作
タイトル通りの内容で、だいたい予想したような展開になる。
それでも上映終了後には拍手喝采が起こる。
ワザワザ単館に観に来た甲斐があったなぁ、と満足できる。
最近では珍しいくらい起承転結がシッカリしている。
基本に則った起承転結のある作品は安心して観れる。
役者の演技が光る。
特に主演の山口馬木也さんが渋く光る。
いぶし銀と辞書で引いたら「山口馬木也の演技」と書いていても良いレベル。
大迫力とか、大興奮と云った映画ではないので、その辺りは注意。
悪く言えば、極上の二時間ドラマで、映画館で観る必要あるの?と聞かれたら上手く返しにくいかも。
ただ、映画の醍醐味である大勢と一緒に観ることで生まれる共感による幸福感をここまで味わえる作品は非常に稀有である。
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