「映画をつくる楽しさが目一杯伝わってくる。」侍タイムスリッパー あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
映画をつくる楽しさが目一杯伝わってくる。
京都国際ヒストリカル映画祭の企画市に応募した企画がこの映画の原型だったらしい。時代劇の縛りがある部門だったということで、侍がタイムスリップして福本清三さんのオマージュである斬られ役となる設定はこの時から変わっていないようだ。企画自体はそれほど目新しいものではない。現にコンテストでは最終選外となった。
安田淳一監督はここから完全シナリオを書き起こし粘り強くスポンサー探しを続けた。ただそれは必ずしもうまくは運ばず、この映画の製作費は安田監督の個人会社である未来映画社のほぼ持ち出しになったようだ。製作費なんと2600万円。普通はTVCM1本撮るにも足りない金額である。
一方、撮影には東映京都撮影所の全面的な協力が得られた。低予算でなんとか制作できたのはひとえにそのためである。
時代劇の再興が脚本の中で明瞭にうたわれている。ここが東映京都の幹部、スタッフの心を打ったことは間違いない。良い脚本は良い映画のベースとなるものであるが、製作段階での理解者や支援者の確保にも欠かせないということだ。
ただ時代劇の再興というのはこの映画の主眼ではない。この映画の素晴らしいところは、時代劇の枠を超えて制作者や出演者が凄みや真実み、映画としての面白さや深さを追いかけ、まっすぐ取り組んでいる姿を描いているところである。高坂新左衛門と風見恭一郎も遺恨を超える。だから最後の真剣による立ち会いも映画的な奇跡に収れんされる。フィルムの中にいる人たちと、フィルムをつくっているひとたちが同じスタンスで映画つくりを楽しんでいることがビンビンと伝わってくる。その雰囲気は我々観客をすら幸福にする。
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