「ラス殺陣」侍タイムスリッパー U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
ラス殺陣
見応えあるラス殺陣だった。
それこそ冒頭から丁寧に丁寧に紡いできた下地があるからこそだ。
高坂の実直であり純朴なキャラが際立ってた。用意周到って言ってもいい。彼の会津訛りと直向きな瞳に絡め取られる。この罠を用意した監督もなかなかの曲者であるが、溢れんばかりの愛情も感じる。
本編は現場ならではの本音やあるあるで埋め尽くされ、現地で入念な取材でもしたのかと思う。
ともあれ、観客はこの高坂の視点で物語を追う事になる。特に時代劇というものに魅了されリスペクトし、自らもその世界に飛び込む高坂を見る事になる。
彼の目に映るもの、彼の抱いた感想を共有していく。
表側も裏側も知る事になる。
追体験するとでも言おうか、良い切り口だと思う。
ちゃんと絵空事じゃなくて現状も描いていたように思う。東映京都の栄枯盛衰を。
高坂が「殺陣」にのめり込んでいく姿が眩しい。
山口氏のグッと腰を落とした青眼が好きだった。竹光になってからは納刀の時の腰の使い方も違うよう思えて、ニヤリとする。
殺陣師・関本の言う「斬られ役の矜持」も興味深かった。そして峰さんのバリエーション豊富な斬られ方にほくそ笑む。
映画を通して呼び起こされる「過去」が去来してくる展開にそそられる。
相対するは、タイムスリップのキッカケにもなった因縁の相手。彼は30年早く現代に飛んできてた。
現代に生きる最後の侍達。
同じ価値観を持つ唯一無二の存在でありながら、雌雄を決せねばならぬ間柄。
ラス殺陣は「真剣」で立ち合うという。
抜刀しか対峙する両者の間には重い空気が沈澱している。1合2合…相手に向かい真っ直ぐ伸びる切先。瞬きをするのも躊躇うような緊迫感。間合いを測りジリジリと地を這う草履の音。
ここに至り、会津訛りで現代に順応しようとしていた高坂はなりを潜める。
観客は高坂新左衛門という侍に出会う事になる。
風祭の刀を叩き落とし勝負はきまる。
その首筋にゆっくりと動く刀。
風祭も侍であり、その生き様は潔かった。
高坂の荒い息遣いと血走った目が、激戦を物語る。
一刀の元、迸る血飛沫。絶命する風祭。
彼等は本来の時代のケジメをつけた。
上手いなあと思うのは、それまでにあった殺陣は全く腰を落とさない殺陣ばかりであった。
心配無用ノ介しかり、坂本龍馬しかり、若かりしころの風祭しかり。アングルも引き絵が多くわざと臨場感を感じさせない編集でもあった。
ラス殺陣だけが毛色が違う。
いや、本来の時代殺陣の撮り方をしてた。
刀を抜く理由から始まり、互いに曲げられない信念のぶつかり合いを描き、至近距離での生死の軌跡を映す。生死が決する時、両者の距離は1mにも満たない事が多い。その空気を記録していく。
しっかり騙された。
設定上真剣であるがそんな訳はない。
2人が手にするものは竹光であり、いいとこジュラ刀と呼ばれる紛い物である。
山口氏と冨家氏に魅せられた。彼等が渾身の力を込めて振り下ろす刀は本物に見えた。
丹念に丁寧に積み重ねた世界観から生まれたラス殺陣であり、見事だった。
先程の結末は劇中劇の結末であり、実際は高坂が空を斬る事で勝負は終わる。
アレが映画の1シーンであったと自覚した時の虚脱感は格別だった。
そして、コメディよろしくキッチリ笑いで落とす。
会津訛りを駆使する山口氏は素晴らしかった。
現代に放り出された侍の困惑も孤独も感動も大好物だ。TVに向かい涙ながらに拍手するとこなんて、可愛くて仕方がない。
自主映画ベースらしいからアカデミーにはノミネートされないのだろうか?俺の中では間違いなく主演男優賞にノミネートされてる。
後は峰さんが木刀を高坂に差し出す手かなぁ。
あの握り方がなんとも頼もしく、どれだけの歳月を時代劇に費やし情熱を傾けてきたんだろうと思う。
ホント自然体だったように思う。