「時代劇に愛を込めて、真剣勝負は続く」侍タイムスリッパー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
時代劇に愛を込めて、真剣勝負は続く
都内1館からの公開が、評判が評判を呼び、現時点で全国200館以上に!
あの“カメ止め現象”再び…!
ファーストランや全国拡大から2ヶ月。やっと福島でも公開スタート。
と言っても隣町の映画館で一週間限定上映。急いで行ってきた。
“カメ止め”はゾンビ×映画愛だったが、こちらは時代劇愛と現代にタイムスリップしてきた侍…!?
幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門は、密命を受けて長州藩士と対する。
刃を交えた時、落雷が。
目を覚ますと、見知らぬ城下町。さ迷っていると、か弱きおなごの悲鳴が…!
不届き者め、成敗致す!
その時、“心配無用ノ介”と名乗るご仁が。
助太刀致す!
カット! お前何やってんだ!?
…!? !? !?
やがて分かる。徳川幕府が滅んで百四十の歳月…。
ここは、時の果ての日ノ本。時代劇の撮影所だった…!
大昔の侍が現代にタイムスリップ。特別目新しい設定ではない。幾つか思い浮かぶほど。
使い回されたネタだが、それでもまた作られるのは、侍×現代、そこに何か面白さと魅力のケミストリーがあるから。
本作もベタと言えばベタなのだ。
“撮影”を“本当”と思って助太刀。タイムスリップ時代劇のTHE定番。
重石(作り物)を軽々持ち上げるおなごに驚き、幽霊(特殊メイクした怪談映画出演者)にこれまた驚き…。
コントか!漫画か!
でもそれを、こちらの期待通りに面白く見せてくれる。
これも監督の腕。自主製作映画を撮り続け、本作が3作目の安田淳一。
超低予算故、インタビュー記事なんか見ると相当苦労して完成に漕ぎ着けたという。
それが最高の形となって報われ、花開いた。
映画は予算や話題やビッグネームなんかじゃない。面白いアイデア、情熱や愛があれば、飛びっきりの映画は作れる。
これもベタな事だが、それを体現した。
『男はつらいよ』の大ファンだと言う監督。山田洋次に本作を見て貰うのが夢。
だからか、あのシーン(笑)。とあるシーンで、“滑る”とか“落ちる”とか禁句。寅さんでも定番のこのネタに、私ゃ堪らなく嬉しくなった。
新さんが周囲への把握を出来る人物で良かった。いつまでも“ここはどこ? わたしはだぁれ?”だったら話にならないし。
とうの昔に侍の時代は終わった。侍はもう不要。ならばここで惨めに生きてたって…。
一度は命を絶とうとするが、救いの手が。
撮影所の助監督・優子。現代に来たばかりの新さんを最初に相手にしてくれた人であり、新さんは一度病院に運び込まれるも逃げ出す。気に掛け、探していた。
居候させてくれた寺の住職夫婦。
彼らの善意が優しい。この人情も寅さんだね。新さんの事は記憶喪失者と思ってるけど…。
握ってくれたおむすびが美味しい。米の美味しさは変わらない…いや、自分のいた時代よりずっと美味しい。本当にあのおむすびが美味しそう。監督は米農家でもあるとか。
ケーキなるもの。これほど美味なる菓子が…! そうか、こんなに美味なものを皆が食べられる時代になったのか…。涙を流しながらケーキを食べる新さんに、何故だか私も貰い泣き。
絵が動いた!(TVです) あの“心配無用ノ介”! TVにも驚いて、興奮して、ぼろ泣きして…。
もうとにかく、新さんの人間力にやられる。
真面目。実直。謙虚。感謝を忘れず、礼儀を通し、忠義を貫く。
本物の侍にしか見えない。
THE侍であり、人情侍であり、恋する侍でもある。
時代劇を中心に多くの映画やTVに出ていたようだが、キャリア25年にして初の主演映画。
山口馬木也。もう誰もが彼を忘れないだろう。
パッと見渡辺謙を彷彿させる風貌。
体現した新さんがやがて見出だした道は、“アノ人”。
寺で時代劇の撮影。
が、斬られ役の一人が体調不良に。
何処かに侍の格好をした代役が…いた!
急遽撮影に参加。言われるがままに。
ド緊張の中、“坂本龍馬”の名に会津藩士の目が光る。
本物のような(本物なんだけど)気迫。“斬られ役”を見事こなす。
すると、スタッフ/キャストの間で評判上々。
それがし、この時の果ての日ノ本で、何の道を行くか。分かった気がするでござる。
いざ、撮影所へ。
弟子入りも志願。
時代劇の斬られ役…!
新さんは腕の立つ侍だ。落雷のあったあの夜、対した長州藩士が名を聞いたほど。
そんな本物の侍が現代に来たんだから、誰にも負けず、時代劇でもスターとして…じゃない所が本作のミソ。
侍としては本物だが、斬られ役としてはズブの素人。教えを乞う。
斬られ役をコツコツコツコツと。
声が掛かるようになり、次第に多忙に。
そして遂には、一話限りだが“心配無用ノ介”のライバル役を務めるまでに。
まさかまさかの名斬られ役に…!
時代劇ファン、映画ファンならすぐ分かる。新さんの新たな人生は、日本一の斬られ役、故・福本清三氏。100%、モデルと言っていい。作品も福本氏に捧げられているし、新さんが教えを乞う殺陣の師範役は福本氏の弟子でもあった峰蘭太郎。
福本氏の生きざまを彷彿させる新さんの姿と物語に、また私の涙腺が…。
福本氏の生きざまって、誰にも通じるものがある。
目立たなくたって、華やかでなくたってもいい。地道にコツコツコツコツと。
頑張れば、どこかで誰かがきっと…。
この福本氏を表した格言でモットーは劇中でも。
福本氏はハリウッド映画『ラストサムライ』に抜擢されたが、新さんにも思わぬオファーが…!
撮影所で久々に製作される大型時代劇映画。しかも主演は時代劇のスター・風見恭一郎で、10年ぶりの時代劇復帰作。そのライバル役=準主役!
斬られ役にとっては一生に一度かもしれない大チャンス!
ところが新さん、これを断る。自分は一介の斬られ役。分不相応。
そんな時、風見が驚きの正体を告げる。
これには唸った。脚本の妙。
風見は、あの落雷の夜、対した長州藩士であった…!
新さんより30年前の時代にタイムスリップした風見。
新さんと同じ。訳が分からず。次第にここが遠い時代だと知る。
時代劇の撮影所をうろついていたら、端役と間違われ、斬られ役としてスタート。大成し、主演を務めるスターに。
この時代にもすっかり順応した。スターとして。
そんな時、TVで時代劇の斬られ役として出ていた新さんの存在を知る。
あの時の会津藩士…!
ここで会ったが百年目。決着を付けに…ではなかった。
会った一番の理由は、共に時代劇を撮ろう。侍が失われたこの時代に、本物の侍の生きざまを見せてやろう。
もう我らの時代ではないのだ。藩の為とか密命とか遺恨など下らない。
新さんは侍としてそれを捨てきれない。断るのもそれ故。
双方の言い分は分かる。時代に順応する。己の信念を曲げない。譲れないものがある。
が、今の自分は何なのか。
師範の言葉。斬られ役の悲願。
新さんは出演を決める。
作り物の時代劇に、本物の侍が二人。
その構図だけでもユニークだが、しっかりとこの二人の関係性も描いている。
かつては本気で斬り合おうとした二人。何かといがみ合う。と言うか、風見はオープンだが、新さんの方がそっぽ向く。
端から見れば大スターに斬られ役がタメ口で。
しかし、撮影をしていく中で…これもベタながら胸がすく。
徐々に打ち解けていく。分かり合っていく。
時には助力にもなり、貸し借りナシ。
風見が時代劇を10年も離れた…いや、捨てた理由。元の時代で自分が犯した罪。
時代劇で本当に人を殺めないとは言え、あの時の悪夢が脳裏を過る。堪えられない。
風見もただの大スター然ではなく、味わい深く内面も。終盤のドラマを支える。冨家ノリマサの風格。
ライバル同士が交流を深める。出演する映画の設定ではそうとは知らず交流を深めた二人が斬り合う運命に。『座頭市』第1作を彷彿。
撮影も佳境に。中打ち上げで盛り上がる。
脚本に追加部分が。それを読んで新さんは嗚咽する。
会津藩の悲劇…。
何かを失ったように。飲めない酒を飲み、町中を放浪する。チンピラに絡まれる。
惨めな自分。会津藩士が悲惨に死んでいったように、自分も惨めに朽ち果てていくのか…?
自分は何者だ? 斬られ役か? 侍か?
斬られ役ならば、このままおめおめと斬られるだけなのか…?
侍ならば、何の為に生きるのか…?
新さんは風見や監督に提案する。
真剣勝負がしたい。
真剣を使って撮影する。
おいおい、幾ら何でもそれはあり得ないだろ?
…まんざらそうでもない。かつては本当にあったとか。が、『座頭市(1989年)』の撮影で真剣を使って事故が起こり、禁止に。
無理もない。一大事。どころではない。一命に関わる。
新さんの気持ちは変わらない。
撮影の為のリアリティー追求ではない。
侍としての生きざまを刻む。この一瞬に全てを。
誰も賛同しないと思われたが…、監督は熱狂。風見も承諾する。
この時、風見が流した涙…。彼も失ってはいなかったのだ。侍の精神を。
全ての準備や安全を整えて、いよいよ当日。
もはや映画の撮影じゃない。本当の闘い。
あの落雷の夜から、こうなる事は運命だったのかもしれない。
新左衛門対風見。本物の侍二人が見せる真剣勝負。
緊迫感溢れる睨み合い。実に40秒近く。やはりこのシーン、『椿三十郎』へのオマージュ。
遂に刀と刀がぶつかる。
劇中劇云々ではなく、本作は映画だ。だから勿論、真剣など使われていない。
が、二人の気迫、ぶつかり合う刀と刀…。
真剣は使われなくとも、そこに漲るは紛れもない真剣であった。
果たしてオチはどうなるのか…?
一瞬、アッともさせられたが…。
当人同士は本当にそうだったかもしれない。生きるか、死ぬか。でも、もしそうなったら、映画として後味が悪い。時代劇映画ならまだしも、本作はあくまで時代劇撮影。
オチ、そう来たか~!
ちゃんと映画作品としての捻りや笑いも忘れない。
あの優子さんのビンタ。誰もが沙倉ゆうのに胸キュンなっただろう。
満足感、充実感、面白さ、感動、後味も最高!
ラストシーンもナイス! 『侍タイムスリッパー2』…?
期待以上。評判に便乗してじゃない。
見ていて笑いがこぼれ、自然と涙も溢れ、やっぱり映画って最高。幸福感にも包まれた。
本年度BEST!
優れたタイムスリップSFであり、笑えるコメディであり、感動のドラマであり、本格時代劇である。
時代劇の今の現状も訴える。
かつては毎週毎日のようにTV放送されていた時代劇。それがいつの間にか民放から姿を消し、今時代劇と言ったらNHKかたまの特番か映画くらい。
時代劇は日本の伝統。宝でもある。
それはもう、消えゆく運命しかないのか…?
否!
今年ハリウッドが見せた本気の時代劇。
本作のようにユニークな形でも。
今後も時代劇映画の期待作もある。
そしていつの日か再び、あの頃のように民放TVで時代劇を楽しめるように。
時代劇は失われちゃいない。
日本で、世界で、時代劇の精神は受け継がれている。
今日も新さんたちは挑む。
時代劇に携わる者、愛する者の真剣勝負は続いていくーーー。
こんばんは~➰
共感ありがとうございます☺️
熱い想いが伝わって来ました。
1週間なんですね。
観に行けて良かったです。
私は昨日冨家ノリマサさん主演の最後の乗客を観てきました
こちらも良かったです