「月虹」侍タイムスリッパー ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
月虹
ミニシアター公開のスタートながら絶賛の嵐を巻き起こし、口コミが広がりまくってから満を辞しての全国公開。
公開が東京だけかーとヤキモキしていたのでこの拡大公開は嬉しいばかりです。
侍が現代にタイムスリップするという既視感のある設定からここまで面白いものを生み出すのか…!と驚嘆しましたし、時代劇映画として観ても人間ドラマとして観ても完成度の高い1本になっていて大満足でした。
雷が落ちてタイムスリップというよくあるフォーマットから現代のものの進化に驚くという流れより先に、時代劇の撮影現場にいた事により、しっかりと現場に参加しちゃって怒られるまでのくだりが分かっているのにめっちゃ面白くて、背景の町人たちに思いっきり話しかけちゃうし、ドラマのリハと本番の意味が分からず困惑していた感じもとても好きでした。
主人公の新左衛門が真面目で義理堅い性格というのもあって融通が効かない感じも今作に絶妙なスパイスになっていました。
幕府が終わって100年以上経っていた事に驚きつつも冷静に受け入れるスピードはちょい面白かったです。
そこから迷い込んだ寺で保護された新左衛門を寺の夫婦が面倒を見てくれて、おにぎりやケーキの味に感動したり、自分が紛れ込んだドラマがTVで流れるとその殺陣を真似して夫婦が腰抜かすほど驚いたりしているところがめっちゃ面白かったです。
助監督の優子がとっても優しくて、面倒も見てくれるし、斬られ役への道を切り拓いてくれるわで徐々に新左衛門が優子に惚れていくのがウブだわ〜とニヤニヤしながら観ていました。
そこから端役として撮影に参加する流れになって、坂本龍馬の名前を聞いた途端殺気だって切り掛かるものの、斬られ役という事を思い出してやられる流れまで本当に浪士と斬られ役の境目を縫うような感じがとてもリアルで殺気込みで見応えがありました。
新左衛門は順応性がかなら高いのでこの時点で斬られ役として生きていこうと決意してからの行動力が凄まじかったです。
剣心会に入門して教えを請う流れになってからはコメディの色が強く出てきて、殺陣をしてやられるまでのはずなのに何故か何回も切り返しちゃったりして師匠もしっかり斬られてくれるもんですから何回も笑っちゃいました。
服装も現代のものになっていき、髷を結っていた長髪もバッサリ切ってスッキリした髪型になって喋り口調以外は現代に溶け込んでいってました。
斬られ役にフォーカスを当てているのもとても良くて、時代劇よりも現代劇が多くなってきた現代での斬られ役の存在意義だったりを問う内容だったり、時代劇を作る制作側の苦悩だったりをその時代を生きた新左衛門が演じるというノスタルジーにも思える展開が熱に変わる瞬間がとても好きでした。
殺陣のシーンはとんでもないクオリティで基礎的な流れを見せてくれるのも良かったですし、本番での高速剣捌きは息もつかせぬテンポで魅せてくれるもんですからCG無し真っ向勝負のアクション大好き人間はもうテンション上がりっぱなしでした。
斬りかかって、跳ね返されて、背中を見せて斬られるという一挙手一投足の難しさがこれでもかってくらい表現されていましたし、改めて斬られ役という役どころの大切さが身に沁みました。
時代劇のスターがかつて合間見えた敵だった事が判明してからは物語の深みがグッと増していき、合間見えた時は歳下だったのに先の時代にタイムスリップしたから歳上になっていたっていう始まりはコメディだったのに、その時代に生きた俺たちが時代劇を残していきたいという思いに感化されて2人が手を組んで映画を作るという展開は胸熱でした。
歩み寄ろうとしたら距離を置かれたりしていて、当時の敵としての立ち位置と現在の役者同士の掛け合いはクスッと笑えるものになっていました。
模造刀では無く本物の刀を用いて殺陣をするという本当に命を懸けた勝負をする事によって緊張感マシマシですし、実際に斬り合った2人だからこそ言葉の重みがありましたし、その剣捌きもスピード感が凄まじくスクリーンにのめり込んでいました。
刀の音が模造刀と本物では音の厚みが変わっていたのもとても良くて、本当に斬り合ってるんじゃないかと思わせてくれる小さな変化を組み込んでいるところにも愛を感じました。
時代を超えて信念を極めて、映画もとい時代劇を繋いでいくという終わり方も哀愁が漂っていてウルっときました。
元の時代に戻るという終わり方ではなく、現代にいながら斬られ役を生業にして生きていくという終わり方も新左衛門の満ち満ちた表情から悲観するものではなく、これからも信念を忘れずに生きていく力強さが感じられて最高でした。
同胞が少し遅れて撮影所にタイムスリップしてきたところで終わるのもフフッとなって終われて良かったです。
完全オリジナル、超絶面白い作品がこうやって世の中に広がってくれて本当に良かったです。
まだまだ日本映画は進化し続ける!まっすぐ美しい作品に幸あれ!
鑑賞日 9/14
鑑賞時間 9:40〜12:05
座席 O-5