「もののふの本懐 映画制作の本懐」侍タイムスリッパー おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
もののふの本懐 映画制作の本懐
公開前から興味をもっていたのに、馴染みの劇場では公開予定がなかった本作。公開後のみなさんのレビュー高評価をうらやましく眺めていたところ、クチコミで人気が広がったためか、なんと9/13から地元の劇場でも公開決定!喜び勇んでさっそく鑑賞してきました。
ストーリーは、幕末の京都で長州藩士を討とうと待ち伏せしていた会津藩士・高坂新左衛門が、斬り合いの最中に落雷を受け、現代の時代劇撮影所にタイムスリップしてしまい、周囲の人たちの優しさに助けられながら少しずつ事態を飲み込み、唯一の特技である剣術を生かし、斬られ役としてこの時代で生きる覚悟を決めて奮闘する姿を描くというもの。
率直に言って、レビュー高評価も納得のすばらしい作品です。何がいいって、高坂のキャラが抜群にいいです。そして、それを自然体で演じる山口馬木也さんの演技が秀逸です。過去の人物が現代にタイムスリップして驚き、慌てふためくというシチュエーションはこれまでに何度も観たことがあります。しかし、本作の高坂は、無用なオーバーアクションはしません。それでも、内心では驚き、戸惑い、自分の中でなんとか消化しようとしている様子が、しっかり伝わってきます。それが、すごく自然でいいのです。そんな混乱した状況にもかかわらず、周囲の人々への感謝の念を忘れず、現代に順応しようとする姿が熱く、もうそれだけで心を打たれます。
展開ももちろんおもしろく、現代で生きる覚悟を決め、師に弟子入りし、斬られ役として認められ、大きな役を掴むという流れは、平凡ではあるものの、高坂の人柄が相まって清々しく描かれていて、誰もが自然に応援したくなります。そして後半は、冒頭の伏線を回収していく展開が、心憎くくも熱いです。ラストの真剣での斬り合いは、武士の誇りをかけた魂のぶつかり合いのようで、そのあまりの熱量を感じて、自然と涙がこみ上げてきます。
また、タイムスリップした侍の奮闘記という構図の中に、淡い恋、武士の魂、仲間への熱い想いなどの要素を加え、軽妙なタッチで描いている点も好感がもてます。そこへ、現実でも消え入りそうな時代劇の火を必死で守り、よいものを創り続けようと一丸となって頑張る人たちの熱い思いが加わります。その姿から、近年の良質な時代劇作品が思い出され、心を揺さぶられます。コメディとしてはもちろん、お仕事ムービーとしても楽しめる素敵な作品に仕上がっています。“武士の本懐”を通して、“映画制作の本懐”を描いたような作品ですが、こうして上映館拡大を果たした今、まさに本作制作陣も本懐を遂げたと言ってもいいでしょう。
主演は山口馬木也さんで、彼の魅力がそのまま作品の魅力になっていると言っても過言ではありません。脇を固めるのは、冨家ノリマサさん、沙倉ゆうのさん、峰蘭太郎さん、福田善晴さん、紅萬子さんら。集客力のある俳優さんはいませんが、見劣りするような演技はいっさいありません。