侍タイムスリッパーのレビュー・感想・評価
全1159件中、1~20件目を表示
不滅の風情
「いかにも低予算」
「無名の役者ばかり」
「ベタな設定云々」
もし仮に、もしも仮に、この映画が巷でそんな風に評されていたとしたら、私はそれらの言葉をかき集めて火薬いっぱいの三尺玉に詰め込み導火線に火をつけてやりたい。
あ、別に危険思想ではありません。
その三尺玉は大空に放たれて大爆発。大輪の花火となり多くの人々足を止めてい見上げるだろうと思う。と、言うか既にそうなっている。もちろん立ち止まらない人もいるだろうけど。てもやっぱり私は足を止めて見上げたい。
「殺陣」と言う何やら物騒な漢字が時代劇のアクションを指す言葉だと知った時、ひとつ物知りになったような気がして嬉しかった。そしてその殺陣はそれこそ血の滲むような稽古に時間を費やし時代劇を観る全ての人が喜べるようにと綿密に練られた技だと知って憧れた。だから冒頭の3行に対して私はついつい熱くなりカッカしてしまうのだ。
花火のように日本人の心の中にある風情、時代劇。時代の波にのまれて消えて欲しくない。ふと忙しい足を止めて立ち止まった時いつでもそこに在るものであって欲しい。
夢ある受賞!自主制作作品から第48回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞の快挙!!
自称映画好きなワタシ。
2024年の映画業界を静かに時に熱い視線で見守ってきたつもりだった。今年もいい映画をたくさん観て心から満足していた。楽しみにしていた日本アカデミー賞授賞式。横浜流星くんの主演男優賞、大沢たかおさんの助演男優賞、河合優実ちゃんの主演女優賞、吉岡里帆ちゃんの助演女優賞とここまでは予想通り🧐
しかし、最後にそれはおこったのです。唯一私がノーマークで未鑑賞であった「侍タイムスリッパー」がなんと最優秀作品賞を受賞したのだ。てっきり「正体」か「夜明けのすべて」の2択だと決め込んでいた。
ええっ?!ええっ?やらかした…。
どうして見逃したんだろう???
しかも調べれば京都発の自主制作映画だという。ノーマークで未鑑賞であった自分を今更ながら猛烈に反省した。無意識ながら、時代ものはスルーするクセが祟ってしまった😭
気を取り直して本日遅ればせながら
いざ、禊の鑑賞でござる⚔️
感想は
はい、優勝🏅
いいものはいい。理屈じゃなくとりあえず一度ご鑑賞あれ🫡
映画の原点みたいなものをこの作品に観た気がしましたよ。脚本があって、演じる人がいて、それを撮る人がいて。シンプルにいえば、それだけで十分なのです。話はありがちな設定ではあったものの、笑いや涙を交えて終始飽きさせない130分でした。シリアスではなく、コメディに主体を置いたのが良かったと思う。
監督・脚本・撮影・照明・編集もろもろを担当し、自身の全てを賭けてこの作品に向き合い結果を手に入れた安田淳一監督本当におめでとうござます🎉まだまだ日本映画業界も捨てたもんじゃありませんね!こういったインディペンデント映画が最優秀作品賞を受賞できるという事実に夢が広がります。
笑いと涙とメッセージ性がしっかりとある作品
見る前は、侍が現代にタイムスリップしてきて、現代とのギャップにドタバタとなるコメディかなと思ったら、予想通りのコメディ要素はあるものの、しっかりとしたメッセージ性も高い作品だった。
時代劇が廃れていく寂しさは、朝ドラの「カムカムエブリデイ」も描かれていて、世の中栄枯盛衰だから致し方ないよなーと思ったけれど、現代の人たちの視点ではなく、あの時代を生きた侍に時代劇を演じさせることで、より一層の寂しさが募ると同時に、申し訳なさみたいな感情が芽生えた。
また、当事者の彼らの視点だからこそ、現代にあの時代の皆の想いを残したいという気持ちの強さがより伝わってきて、涙腺が刺激された。
幕末の志士たちは、新政府軍と幕府軍に分かれて各々の信念のもと戦ったけれど、どちらが正しいというわけではなく、ただその時貫いた信念が今に続いている。会津藩の高坂にとっては辛い事実でも、今日本は争いのない平和な世になっているし、良い国にしたいという彼らの願いは叶えられているんだよなと思った。
インディーズ映画あるあるで、俳優さんは皆さん初めて見る方々でしたが、主演の山口さんの演技がとてつもなく良かった!わざとらしくなく、本当に侍がタイムスリップしてきたような動作や話し方で驚いた。周りの方々の演技がわざとくさく見えてしまうほど。
また、劇伴や効果音がちょい古典的でダサいのは笑ってしまうw
カメとめの再来言われていて、ずっと気になっていた作品だったので、見れて良かった!
純真無垢な昔堅気の映画野郎
タイトルと主題だけでなく、この映画丸ごと、タイムスリップしてきたかのような気がしました。弟子入りを志願して「落ちる滑るって言っちゃいけない」などというベタベタのシーンがそれを表していたかのような。水戸黄門、銭形平次など昔の人の如何にもというやり取り、困っている人を放っておけない優子さんのような古風な頑張り屋が活躍する、庶民的な舞台劇を観たかのような、そんな印象。
タイムスリップといってもSF要素は余りなく、古き良き時代劇や映画バカの撮影風景、そういうのがテーマだったのではないでしょうか。撮影所の楽屋?でポスターは時代劇なのに、テレビの横に並んでいたDVDは、何故か伊丹十三監督作品。これも、この映画の主張の一つだったのかな。話の流れも無理などんでん返しもないトントン拍子。最後に武士の身の上に立ち返っての一騎打ちも、まあ、予測通りではあるけれど。
でも、最後の殺陣(たて)は痺れました。いつ動き出すんだという凄まじいタメ。刃が打ち合う鋼の音は、これまでのチャンバラシーンで録に擬音を付けなかったのが効果を上げているのでしょう。本当に真剣でやっているんじゃないかという緊迫感。劇中劇の顛末も踏まえて、歯を食いしばってしまうほど凄まじかった。
そして出来上がった劇中劇の映画は、なんというか、本当に無骨な作品のようですね。この映画とまったく同じ、最後の一騎打ちが売りでしかないような骨太い時代劇のようですけど、果たして、売れるんでしょうか。恐らく、例え売れなくとも「これぞ本物の映画だ」という評価さえあれば、劇中の監督も満足したのではないでしょうか。この映画そのもののように。
この前に観た「ルックバック」という漫画家のアニメ映画を思い出した。自分達の仕事をもモデルにしているからこそ、カタルシスが凄まじい。ましてや、私たちも武士の国。美味しいおにぎり、美味しいケーキがいつでも食べられる時代になって本当に良かった。先人達に感謝、感謝。
昔の人が生きた時代の延長線上に私たちの現在はあるのだ
どこにでもあるショートケーキをはじめて口にし「これが普通の人でも食べれるとは。。本当に良い世の中になった。」とボロボロ泣く。会津藩の悲惨な最後を知り、むせび泣く。感極まるこの2つのシーン。昔の人たちの努力や犠牲の上に、私たちの平和で豊かな世界があることを改めて実感し、感謝した。
竹光で本身を振っているようにみせるため、振り方を試行錯誤した結果、本当に重さが加わったように見えてきた演技に驚き。 いやいや待て待て。この映画の中にいくつかある真剣のシーンも、実際は竹光使って演じているはず。(クライマックスの風見との対決シーンなど)凄い演技力だ。
クライマックスの戦いのシーン。最初のながーい無音の時間の演出が真剣による緊張感を最大限高めることに成功している。
時代劇を辞めて東京に行っていた大物俳優の風見恭一郎が、時代劇&京都に凱旋。このシーン、風見が真田広之とオーバーラップした。真田広之は別に時代劇やめてないけど。(笑
2021年に上映された『サマーフィルムにのって』を思い出した。共通項多し。
・タイムスリップもの
・時代劇
・映画を撮る映画
・低予算ムービー
・拡大上映!
そしてなんといっても「空気感」が同じなのよ!
朴訥なこの侍のように、背筋を伸ばし、周りに感謝して生きようと、気持ち新たに映画館を出た。
※失礼ながら知らない役者さんばかり。
※高坂と風見と女将さんがいい!
※風見は誰かに似てるなあ~と思ってあとで調べたらそうそう「別所哲也」「 西岡德馬」「嶋大輔」だ。冨家ノリマサさんという方なんですね。これからチェックさせていただきます!
※真面目で無骨で、少し汚い高坂が侍っぽくてとてもいい!
※ロケ地は随心院、亀岡の大正池まではわかった。京都がほとんどだと思う。聖地巡りしたい。
→ 10.15追記 このレビューで教えていただいた「油日神社」に行ってきました。最後の真剣でのシーンの舞台です。京都でなく滋賀県(三重県との県境)でした。飾り気のないとても良い気が流れる神社でした!ぜひ。
※風見が怒って池に石を投げ込むシーン(笑 見逃さないよ。
※どうしても受けてしまったり、師匠を斬ってしまったりするシーンも笑けた!
※パンフレットはまだ届いていなかった。あらためて買いにいかねば。
※殺陣の指導シーンで「当たるから切っ先は上へ」と。なるほど。
山口馬木也に主演男優賞をあげたい
インディペンデント監督が書いた脚本のために京都の撮影所が協力して実現した娯楽活劇コメディ、という作品の成り立ちは美しいし、主演の山口馬木也があまりにもみごとで、立ち姿や所作、殺陣の決まり具合に惚れ惚れする。
しかも演技がべらぼうに上手い。上手いを超えている。正直、和尚が檀家の前で電話をするシーンとかは観終わってあれ必要だっけ?と思ってしまったし、ベタすぎて鼻白む部分も多いのだけれど、どんな場面でも、どんなセリフでも、山口馬木也という人が驚くほど誠実に、自然に演じてしまうので、山口馬木也を見ているだけで十分お釣りがくる!という気がしてくる。
ただ、別の時代からやってきた異分子という設定に即していて成立してないわけではないのだが、山口馬木也の佇まいがあまりにもナチュラルなせいで、他の出演者の芝居がクサく誇張されたものに見えてしまうのも事実。それくらいの圧倒的な本物感が山口馬木也にあったということでもある。
しかし、最後の真剣のくだりは、正直ザザッと音を立てるように気持ちが離れた。理由はいくつかあり、あの二人の対決自体は当人たちの決断としてお好きになさってくださいなんだが、撮影現場が容認してしまう流れは、全員が完全に狂気に取り込まれた!くらいの描写でない限り絶対にナシだろうと思ってしまう。ビンタで許されることじゃないよ、マジで。気がつけばあの二人が真剣でやりあっていて、誰も止められなかったとかならまだわかるんだけど。
あと、あの真剣勝負に、どこから撮ったの?という寄りの短いカットがモンタージュされるのも気になった。さらにいえば、これは単に自分の好みですけど、最後の対決だけは、撮影用に刀を上に掲げるように修正された上段の構えを、もともとの構えに戻して戦っていいんじゃないかなと思ったりしました。
廃れゆく時代劇と日本人スピリッツへの思いが溢れる
8月に都内1館のみの公開から全国100館以上での公開が決まったタイミングで、大急ぎで鑑賞。口コミで広がった映画にハズレはないとは思っていたが、出来栄えは想像以上だった。
幕末の京都から雷と共にタイムスリップする会津藩士の着地した場所が、一瞬、江戸時代の京都かと思わせて、実は時代劇を撮影中のセットだったと言う幕開けから、すでに捻りが効いている。そこからの展開は、映画スタッフや関わる人々が主人公を役者だと勘違いし続ける様子を上手に描いて、なんら不自然さを感じさせない。それは、タイムスリップの先輩がいたことが分かる後半でも同じだ。
ベースには廃れゆく時代劇とそれを支える人々、そして、日本人のスピリッツに対する熱い思いがある。こちらは自主映画で、越えるべき壁の高さに違いがあるだろうが、監督と脚本を兼任する安田淳一と『SHOGUN 将軍』で遂に天下を獲った真田広之とは根っこで繋がっているのだと思う。
痛快エンタメ映画
自分の人生の中に、隔世の感をもって振り返ることができる時代がある人にこそ深く刺さる
映画館で観て、いいなぁと思っていたら、アマゾンプライムで無料配信しているのを見つけ、以来、ヘビーローテーションのやみつき状態。いまではBGM代わりに流していても細かいところまで思い描けます。この作品は「すたれつつある(?)時代劇」という枠を超えて、自分の人生を振り返るときに、ああ、あんな時代があったなぁ・・・と、隔世の感をもって振り返ることができる時代がある人にこそ、深く刺さっているのではないかと思います(私の場合はまさにそうです)こんなに繰り返し見てしまう映画は、60年余りの人生の中で初めて。ダントツ1位です。ほんとうに良い作品をありがとうございます。主演男優さんの、どこを切っても誠に細やかな演技は本当に見事。(なぜ主演男優賞にならなかったのだろう?)小さなところで言うと、ビールを初めて口にするのであろうときの様子(ウィスキーロックのほうもしかり)、助監督への恋心を風見にあっちこっちでからかわれるときに見せるそれぞれの表情。そして全編通してですが、ごく自然な訛り(どうやって習熟されるんでしょうかねぇ・・・)ショートケーキのところから、テレビで番組が終わってお寺のご夫婦が放心状態になってるところまでは、私の中で一押しです。あと、剣心会に入門ゆるされて最初に関本さんに稽古つけてもらうところでどうしても切る側になってしまうくだり、関本さんの演技も画面のテンポもとてもよいので、わかっていても、何度見ても、笑ってしまいます。心配無用之介の中でおうめの涙声がとても上手で、髙坂の、鼻のクリームを拭いたティッシュで目をぬぐう表情とうまく呼応しているなぁと感じました。ちなみに、アマプラでは字幕を出せるので、聞き取れなかったところや知らない単語(「さかやき」とか)もわかりました。もっともっと話したいので、どこかに、ファンサイトみたいなものはないだろうか?と思ったりしているところです(笑) ところで二つ、いまだにわからないままのところがあるので、ここに書いてみたいです。1。140年後の日本に来たとわかって、さまよい歩いているうちに、タイムスリップする前に切り合っていたお寺の門に通りかかり、石段に腰かけて脇差(というのか、短い刀)を抜く場面。これは自決を考えていたのでしょうか? 2。お寺の住職が「あの男、悪い男や無いで・・・」奥さんが「あれは単なる役者馬鹿や(笑)」そして最後にゆうこ助監督が、「役者馬鹿・・・?」とつぶやく。このつぶやきは、何かの伏線になっているのでしょうか?結構間をとっているので、何か深い意味があるのかなぁと思いながら、わからずにいます。
メインの登場人物、みんな好きになる
文句なしの星5!!
こんなに面白い映画あったのか!と今まで観てなかった自分を引っぱたきたい!
なんの前情報もなく、暇つぶしに流し見するつもりで流した映画だったんだけど、導入からもう引き込まれて結局最後まで食い入るように観てしまった
間違いなく人生トップ3に入る。それくらい自分の好みドストライクで、滅多に星5なんかつけないんだけどこれはもう何の迷いもなくこの評価
とにかくコメディとシリアスのバランスが本当に絶妙。自分の描く"創作"の理想形そのままだった。殺陣で切られ役なのに侍が染み付いちゃってるせいで反応して斬っちゃうのも涙出るくらい笑ったし、「コメディ映画」としてだけでも完璧なのに、そこに「侍の矜恃」を時代劇と上手く合わせるこのシリアスさ
30秒くらい無音で両者動かずに間合いを取り合うあの時間、あんな風な時間の使い方したら普通は「長すぎやろ!笑」ってなるところ、二人の演技が本当の「侍」に見えて、これから始まる本当の殺し合いを感じさせて目が離せなく、手に汗握る
最初は本物の侍がタイムスリップしてきたらその本物侍パワーで時代劇を無双する!みたいな話かと思ったら、「現代においては無用の長物」として斬られ役という脇役として生きていく、というのもいい。でもそういうなろう展開が一切ない訳じゃなくて、ちゃんとその等身大を見せたあと、最後その場にいたスタッフには「本物の侍だった」って理解できるような構図になっていて、それは勿論過去からタイムスリップしてきたという証明ではなくあくまで「侍の心を持つ者」という証明に過ぎないんだけど、ここではじめて本当の侍の凄さを現代人が理解する、ってのが斬られ役に徹してきた下積みからのカタルシスを感じさせる展開になってる
もうね、とにかく本当に面白かった。コメディもシリアスも、脚本も演出も演技も、全てが完璧だった。人生で好きな映画トップ3にはいりました。「笑って泣ける」みたいな宣伝文句してる映画で一切笑ったり泣いたりしたことなかったけど、この映画は終始笑って泣きました
やはり最後の殺陣
ねぎらわざるをえないふんいき
伝わってくるものがあったが言いたいことはある。
むかしのことだが一般の国内映画冷評にたいして映画関係者が「必死で味噌汁をつくっている裏方の苦労なんかおまえたちにはわからんだろうな」とツイートしたのが話題になったことがある。じぶんはこのエピソードを日本映画界を言い表すエピソードとして何度か使っている。
俗にこれを根性論と言い、日本では往々にして芸能が根性論というエンジンによって動くことがある。そして根性論にたいする日本的反応が「ねぎらい」である。日本映画界が根性論で作品をつくると、やさしい日本人は「ねぎらい」によってそれに応える。たとえおもしろくなくても「ねぎらい」票は入る。
そればかりか低予算やぎりぎりのスタッフ・キャストでの映画作りならば「ねぎらい」が賞賛に変わる。金も人もない状況下でつくった映画を賞賛しなければ不人情になってしまうからだ。日本では映画が免罪符要素を持ってしまうことがある。
こうした根性からのねぎらいからの免罪符──という展開は海外映画にはぜったいにない。日本映画だけの特殊事情といえる。さらに幕末設定により武田鉄矢的な泣き要素が加わることで、もはや手に負えない根性論免罪符環境が構築されたと言っていい。命がけの会津っぽに誰が抗えるのかという話である。
もちろん侍タイムスリッパーの製作陣は「根性論からのねぎらい」を狙って映画をつくったわけではないだろうが、見ていて気恥ずかしくなるほど実直な作りかつアマチュア精神な作りなので、ねぎらい&賞賛をせざるを得ないような気分へと追い詰めてくる映画だった。意図してはいないのだろうが、必死で味噌汁をつくっている裏方の苦労を思いやってほしいオーラを感じる映画だった。
なにしろ低予算であるし─『10名ほどのスタッフで制作しており、安田は車両からチラシ作成・パンフレット製作まで11役以上を1人でこなしている。助監督役の沙倉ゆうのは実際の助監督なども務めており、沙倉の母親も小道具の刀の整備などを手伝っている。また他の演者も度々スタッフとして協力している。』(ウィキペディア、侍タイムスリッパーより)
──という家内制手工業でつくられている。その努力や頑張りをかんがみて、またその大変さやけなげさを思いやって、また、みんなが一致団結してつくった温かみに触れて、みなさまご苦労様でした、としか言いようがなくなる、わけである。
このように皮相が根性論で塗られている映画を一般的な日本人はけなせない。わたしも人の子であるし鬼じゃないから限られた予算で頑張ってつくった製作陣をねぎらいたい気持ちがないわけではない。が、あまりにもベタすぎていやになるところはあった。
たとえば高坂(山口馬木也)が剣心会への入門を願い出た際、住職が滑るとか落ちるとかそういうことぜったい言うたらあかんで──とふっておいてからの(雨道に)つるっと滑って怪我でもしたらとか、(内閣の支持率)こんだけ景気わるなったらそりゃおちるに決まっとるとか、──言ってしまう超絶のベタスクリプトには恥ずかしさで鳥肌が立った。
こ・の・低・脳・な・台・詞・は・な・ん・な・ん・で・す・か。
しかし「真剣の重みを感じるようにしたい」という監督の意図は伝わってきたし、殺陣も緊張感があった。
根性論とは製作側の思い入れのことだ。映画とは製作側の思い入れを観衆につたえるものだ。で、大概の日本映画が根性論の段階で止まる。
本作の斬られ役のモチーフになっているのは福本清三氏だと思われるが、個人的に福本清三氏の情陸風コンテンツに見たのは、ほかの斬られ役に比べてどこが違うのか解らない斬られ方と、かれを褒めまくる著名な時代劇役者だけである。もちろん福本清三氏は悪くない。5万回斬られた男──だからなんなのか、5万回斬られたことをもって観衆はなにを面白いと感じればいいのか──を提供していないことが悪い。5万回斬られた男という装丁だけでそれ以外のアイデアをもっていない作り手が悪い。そういうのを根性論というのだ。
が、侍タイムスリッパーはストーリーがクライマックスの真剣勝負へ誘導していくし、観衆を話の中に引き込む工夫もあった。侍タイムスリッパーははじめて見た根性論ではない斬られ役コンテンツだった。と言える。
ただ貧乏くさすぎる。これは2025年の日本映画である。
にもかかわらず金もなくスタッフもキャストも限られ貧しさの極地で映画作りしている日本とはいったいどんな発展途上国なのだろうと思った。
先日見たネトフリ映画The Electric Stateの製作費は465億円だそうだ。侍タイムスリッパーは2,600万円だそうだ。
文化庁と経済産業省のお抱えNPO法人映像産業振興機構(VIPO)に給付される税金750億円はどこへ消えて無くなるのだろうと思った。
結果的に、日本映画界のわけのわからなさをひしひしと感じてしまう映画だった。また、カメ止めはねぎらいを感じなくてよかったからカメ止めとの近似性は感じなかった。
時代劇だけど自分の話。
ナミビアの砂漠
面白かったです。
この映画は、定番の「映画を作る人達についての映画」なんだけど、
ここのレビューで高い評価をつけた人たちは、
「映画を作る人達についての映画を作った人達の物語」
として楽しんでいるっぽい。俺もだ。
額縁が中身を引き立てる額縁効果が、額縁が増えたせいで増し増しになっているうえに、
「私財をはたいて車も売って」みたいな応援したくなる物語にもなっている。
「映画を作る人達についての映画」としても良くできていたし、
「映画を作る人達についての映画を作った人達の物語」としても、
若干チープなつくりや、様々な名作映画へのリスペクトや、
八面六臂なエンドロールや、
助監督役の女優を実際に助監督にしたりなど、巧みな演出がされていた。
よくよく考えられたメタ構造は、エンタメに昇華している点で、
「映画通」好みの「ナミビアの砂漠」のそれより好感が持てるかも。
ちなみに助監督役の「沙倉ゆうの」さんのYouTubeは、
謎の自然体トークがマジでナミビアの砂漠(オリジナルの方)なので、
「映画なんか観てなんになるんだよ!」って人におすすめです。
つうか、エンタメ映画はためになると思う。
ためにならないのは、マウントを取るツールとしての映画だ。
タイムスリップ映画で「転職者」という日常感強めの世界観。
上映前の予告編やポスターを見た時から、ただならぬ面白そうな雰囲気を醸し出していたが、
いかんせん、上映館が確か東京の池袋のみと、さくっと行けない地方都市民の泣きどころゆえ、サブスク化を待っていたら、
数ヶ月で我が街の映画館にやってきて、嬉しくなった記憶。
年に数えるほどしかない、エンドロール時のなんとも言えぬ余韻と、鳥肌立つあの感覚が両方くる映画だった。
ただ、ストーリー自体はそこまで飛び抜けた発明的なものはない。
設定はタイムスリップモノ。タイムスリップ映画は良作多しのセオリー通りで、もはや映画の王道設定とも言える。
タイムスリップ設定に時代劇を掛け合わすのも、ありがちと言えばありがち。
未来(現在)から過去に行くパターンが多いが、この作品は過去から未来(現在)に行くパターン。
これも、坂本龍馬や徳川家康など、偉人たちはタイムトラベラーの常連客と言ってもよい。
この作品は、幕末の、偉人ではない一般的な、幕府方の武士が現在にやってくるパターンで、
到着先が、時代劇の撮影所付近という所が話の肝。
しかも、元いた場所にはどうやら戻れなさそうな雰囲気で進む、片道切符のタイムスリップ。
生きていく為には働く必要がある。しかし、侍しかやった事がない人間ができる事には限りがある。
妙に日常感強めの世界観。劇的展開があるわけでもなく、
時代への適応力が試練。この縛り条件設定だけでかなり面白く、
元武士という立場よりも、「転職者」という、観客の身に覚えがありそうな経験や立場に変容する事で、
投影や共感がしやすい主人公を生み出した事が、この作品のウケるポイントになっている。
物語とは別の投影や共感として指摘したい点は、この映画は時代劇ではあるが、
それ以前に、時代劇を作る「映像制作者達の物語」であるという点。
日本アカデミー賞で最優秀作品賞を「ジャイアントキリング」的に受賞したが、
よくよく考えれば、日アカは投票権を持つ人の大半は業界関係者であり、制作スタッフ経験者なわけで、
自分達の業界を題材にした映画なのだから、そりゃ投票しやすいし、投影共感しやすいわなと、
冷静に考えれば考えるほど、妥当な最優秀だったわけだ。
物語の本筋に戻すと、もう1つ注目したいポイントがあり、
それは主人公のアイデンティティ。
時代に適応し、順応し、自分の想像を超える未来の日本の変わりようを、好意的に肯定的に受け止め消化する一方で、
どうしても譲れない佐幕派としての思想や、郷土や家族への愛、背負ってきた想いというのを、
変えられないアイデンティティが、主人公にはあった。
このディテールの持っていき方が、とても丁寧で、コメディからシリアスへと繋ぐ大事な縦軸になっていて、
上手く出来てて、いい映画だなと思った瞬間でもあった。
いわゆる、「武士の一分」ってものがあり、それに一区切りつけるために、
ラストの、あの緊張感溢れる名シーンに繋がっていく。
愛着を持ちつつ、固唾をのんで見守ったし、あの緊張感こそが時代劇の醍醐味で最大の見せ場。
スクリーンだけではなく、観客席をも、時代劇への愛情に包まれる幸せなひととき、といったところだろう。
設定の良さだけでなく、ディテールの築き方や持っていき方も上手く、
大胆で発明的な面こそ無いけれど、緊張と緩和が上手くハメこまれていて、
終わった時には、もっと長く観ていたかったなあと思うような寂しさもあった。
老若男女に伝わる映画だった。
良かった演者
山口馬木也
最高でした
正直、不自由な体を押して行っても今の世では常に映画館はガラガラです。配信サイトで見ればプロローグを早送りできる、最近はインターネットで早送りできるので、映画館で座って全編見ることが苦痛に感じる人が多いようです。製作者側ではないので、それを承知でそれでも映画を作るメリットが分からないのですが、この映画のようにインディーズで最初は1館だけの上映だったものが、最終的には、最優秀作品賞を獲得する、日本の映画界も捨てたものではないと思いました。
タイムスリップした時代も不良がいた昭和の終わりか、平成の初期というところも良かったです。
ラストも日本人が好きなラストだな…と感じました。見ている側にとって「1番ほしいラスト」で監督はじめスタッフも分かっていて、そういうラストにしたんじゃないかなと感じました。昭和世代には、たまらない作品です。
様々な評価があるようですが
安田監督のデビュー作を観賞していたので、温かい作風を期待して地元での上映を待って速攻で観賞。リピーターになってしまいました。
世間での大きな評価に疑問を持たれたレビューが散見されますが、沼に落ちた身としては、この映画は映画館で観賞しないと正しい評価が難しい映画なのだと感じています。
リピーターから見ても監督本人の弁でも???な場面は多々あります。(文庫本並の活字量のパンフレットより。)
しかし、スクリーンの中で京都の街並みを彷徨う主人公の姿からは、そのサイズ感から自分も一緒に彷徨っている様に感じ、おむすびには躊躇なくかぶりつきながら、ケーキやビールには人の所作や匂いを嗅いだりして安全を確認する部分に不安に押し潰されそうになりながらも置かれた現状を受け入れようとする姿に「そりゃそうだよなぁ。」と共感を覚えるのです。
監督がインタビューで「有名な俳優さんで映画を作るんじゃなくて、この映画で俳優さんを有名にしてあげたいんです。」旨の発言をしておいででしたが本作に出会って推しの俳優さんがすごく増えてしまいました。まんまと監督の策にはまった様です。
動画配信サービスで初見された方は、時間が許されるなら映画館での再鑑賞をお勧めします。
きっと又会いたくなりますから。
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