「遺作」ラストマイル 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
遺作
タイトルロールから物流網のインスタレーションのようで大型タイトル感があったが満島ひかりさんが力んでいて不自然だった。ほかの人はよかった。とくに大倉孝二と宇野祥平と岡田将生がじょうずだった。2024年11月14日に亡くなった火野正平さんの遺作となり、あたかもフラグのような会話があってしんみりした。
物流現場ロケや大量エキストラもさることながら自然な流れでアンナチュラルとMIU404の登場人物がごっそり引っ越してくる贅沢なつくりで、貧乏くさい日本映画に慣れた目にちょっとした驚きがあった。これは罪の声を見たときの印象と同じで、テレビ局制作の映画は潤沢な予算をもつ傾向があるような気がした。
脚本は逃げ恥や罪の声やカラオケ行こなどの野木亜紀子。映画やドラマを見て面白いと感じたときに偶然面白いということはなくて、やっぱりそれは野木亜紀子なり板元裕二なり古沢良太なり、それなりの脚本家が書いているものだと思った。
巨大で数値化された非人情な物流現場を映し出す一方で、末端の配達員の苦悩を描いている話に好感をもった。安藤玉恵の片親サイドストーリーもヒノモト洗濯機の伏線回収も見事だった。
ただ満島ひかりさんがいちいちピキる感じで、主役なので度外視ができず個人的には残念な映画だった。え、そこかよと思うかもしれないが爆弾の入った「焼きとり四目並べ」の箱を押さえている手が湾曲し折れそうで不安だった。血管が浮き出るというほどでないにせよ、痩身らしく険しいおでこ周りをしており、頑張っていることはよくわかったが頑張るほどに見ていて疲れた。
人々はデリバリーになれてしまったが、いつでも他人様に購入物を運んでもらうのはご足労なことだ、という気持ちをもつべきだと思う。
ラストマイルとは最後行程で直接顧客と対峙する最下層要員もしくは下請けスタッフであり、どんな仕事も偉くなるほどコンシューマから離れる。だが物流を支えジェフベソスの資産を支えているのは結局膨大なラストマイルの配達員に他ならない、と映画は言っている。
結果的に映画は満島ひかりと岡田将生とディーンフジオカと中村倫也の社畜エピソードより、宇野祥平と火野正平と阿部サダヲが演じた羊急便エピソードのほうが強く胸に響いた。