「What do you want? が心に突き刺さる」ラストマイル FCIUSさんの映画レビュー(感想・評価)
What do you want? が心に突き刺さる
劇中に登場するECサイトのDAILYFASTはスローガンとして "What do you want?" を掲げています。CMはもちろん、サイトを開いた際も、日本本社オフィスのエントランスでも "What do you want?" の声がコンスタントに鳴り響きます。
表層上では、サイトで買い物をする客に "What do you want (today)?"「今日は何が欲しいですか?」と問いかけるものです。
一方で作中の登場人物のレンズを通してみると、"What do you want (from me)?" 「私に一体どうしてほしいの?」にも聞こえ、"What (more) do you want?"「これ以上どうしてほしいの?」、"What do you want (out of this)?" 「何が目的なの?」と様々なニュアンスを含みます。
それは登場人物が自身に問いかけるものであったり、犯人をはじめ、取引先や上司、そしてかつての同僚に投げかける問いでもあります。
また、映画そのものもエンディングで画面が暗転し、"What do you want?" と最後にもう一度問いかけてエンドロールに入ります。
歪な社会構造の中で間違いなく他者に皺寄せがきているのを薄々感づきながら、目先の安さや利便性を追い求める観客の我々にも「本当にそこまでして欲しいものなのか」「これほどの犠牲を払うに値するものなのか」を問いかけるものです。
同時に、売上や利益追求に傾倒する現代社会に疑問を投げかけながら、そんな中で身を粉にしながら働く人に対して、「その犠牲はなんのため?」と問いかけているようにも感じられます。
プロット上では、エレナや羊急便のヤギさんをはじめ、それまで囚われてきた利害やしがらみを超えて、「何を目指しているのか」「何を求めているのか」を明確に認識した人々が事件を最終的な解決へと導きます。
一方、劇中の登場人物と同じようにあらゆるものの板挟みとなりながら、日々を過ごす我々は何を目指し、何を求めればいいのか。
エンディングの "What do you want?" の問いかけに答えるかのように、エンドロールに乗せて米津玄師は「あなたがずっと壊れていても、二度と戻りはしなくても、構わないからそばにいてくれよ」と歌い、幕が閉じます。
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AmazonのHQ2も、全米各地の都市による招致合戦も虚しく結局DC近郊に落ち着いたこともあり、「贖い」の会話がワシントンDCを舞台としていたのはリアルでした。
ただ会話が繰り広げられるカフェテラスの背景には、見慣れた大手町のビル群が···
大手町をアメリカの大都市っぽく見せていたのはさすがといったところですが、景観規制でDC市内に高層ビルはないことは、少しでも住んだことがある人であれば皆知っているため、一瞬「あれ?」と我に返りました。最初の空撮も明らかにニューヨークでしたし···