劇場公開日 2024年8月23日

「2時間ドラマ」ラストマイル KeithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.02時間ドラマ

2024年9月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

物流センターという、一般には馴染みのない空間が舞台であり、見慣れない景色が次々と映されるだけで、観客は非日常の中に放り込まれた感覚になり、ワクワク感と不安感が募り緊張感が煽られます。
但し、物流センター内の複雑で高度なシステムとメカニックの片鱗は見せつつも、異様さや不気味さはあまり醸されず、また物流業界のブラックな側面が本作の根底にありながら、その根源的な本質をクローズアップすることなく、物語はあくまでエンターテインメントとして軽快に進みます。

本作は、「シェアード・ユニバース」作品という位置づけで、製作元・TBSの人気番組(「アンナチュラル」・「MIU404」)のストーリー設定と配役を、そのまま本作に嵌め込んで、オリジナルストーリーを展開するという、ユニークな構成になっています。
各々の番組のファンには垂涎の作品になっているのでしょうが、全体の印象がやや散漫になり、少なくとも観客の視線と関心が浮遊してしまったように感じます。
本作の宣伝キャッチコピーは、“ノンストップ・サスペンス・エンターテインメントムービー”と謳っていて、確かにノンストップでドラマは進行しますが、観客は比較的落ち着いて観ていたように思います。
残念ながら、息をつかせぬ連続アクション、恐怖感をそそる緊迫シーン、次々と謎を解き明かしていく、というような観客がいつの間にかスクリーンにのめり込むようなシーンがなかったためでしょう。
それなりに変化のあるエピソードをテンポよく次々と見せていき、観客は上映中飽きることなく、それなりに満足して観終えたと思いますが、これはテレビの2時間ドラマの手法のように感じます。つまり茶の間で寛いでボーっと眺めエンジョイする感覚です。
“シェアード・ユニバース”によって、豪華な俳優陣が揃っていましたので、この点でも観客は堪能したことでしょう。

ただカメラの視点は、2時間ドラマでの観客目線のようでいて、実は満島ひかり演じる主人公・舟渡エレナの視点であったことが、ラストでのやや呆気ないような謎解きで分かります。

無難に巧く観客を惹き付ける作品に仕上がっている快作ですが、不満な点が一つ。
ラストで、悪役に決定的なドキュメンツを提示するのが、本作の主張したいコアだとすると、それまでのプロセスがあまりにも迂回し過ぎて婉曲されてしまったため、その真意が何だかぼんやりと茫漠感に包まれてしまい、勧善懲悪のカタルシスが満たされなかったことです。

KeithKH