「令和のモダン・タイムス」ラストマイル jfs2019さんの映画レビュー(感想・評価)
令和のモダン・タイムス
前評判通りの面白さ。社会問題を織り交ぜながら、説教臭くなりすぎず、エンターテインメントとしてまとめる手腕は特級。横綱相撲だ。
物流をまるで都市の血流のように表現したモチーフ的な映像で始まる。そして映画が始まってすぐに宅配便の荷物が爆発する事件は起こる。以降、荷物を開けるシーンのたびに心がザワザワする。うまい仕掛けだ。優秀だが大企業病に罹患し、株価のためなら隠蔽も辞さないセンター長と、そこまで会社に魂を売り渡してはいないその部下、という構図を最初に見せる。明らかに何かを隠しているセンター長の尻尾を掴み、問い詰め、いよいよ真実が明らかになると思いきや、すぐさま別の爆弾騒ぎをかぶせ、ブラフだったと気づかせる。ブラフといえば、爆弾は12個と思わせといて、実は11個だった、全部見つけたぞ、バンザーイと安心させて、やっぱり12個だった、なんて。そして、クライマックスに向けて、開けた時に爆発する荷物だったはずが、衝撃を加えただけで爆発する荷物に進化し、ゲームの難易度を上げてくる。さりげなく撒かれた伏線はていねいに回収される。ヒノモト(日の本)電機の洗濯機がここで効いてくるとは!日本の家電が強かった、昭和生まれの心もくすぐられ、もう作り手の思い通りに転がされてしまった。参りました。
配送センターの描写はチャップリンのモダン・タイムスを思わせる。あの映画も家畜の群れのような労働者の通勤風景から始まる。経営者の指示に従って屈強な男が大きく重たいレバーを操作してベルトコンベアの速度を上げる。労働者は仕事を失う恐怖から、速度の上がったベルトコンベアに必死についていくが、弱いものから精神が壊れる。この映画では同様に会社都合の(日本にはなんのゆかりもない)イベントの名の下にノルマを積み増しされる。経営者がテレビ電話を通じて指示を押し付けてくるところもそっくりだ。ただ、ポジションを失う巨大なプレッシャーで壊れたのは、チャップリンではなく、指示を受けてレバーを操作する人間だったが。そして、壊れたチャップリンが機械に吸い込まれてもベルトコンベアが止まらなかったように、人一人が身を挺したところで配送のベルトコンベアが止まることはない。
この映画では、別のテーマとして、流通がamazonに独占されている危うさも伝えようとしている。宅配の下請け業者はもはやamazonに脅されるがまま、低価格で振り回され通しで疲弊している。ひとたびamazonに不祥事が発生すれば、下請けは責任を転嫁され、クレームが直撃する。医療用具すら配送されず、手術も止まってしまい、インフラを外資に支配されるとこうなるのだと見せつけられる。あからさまなamazonへのネガキャンだけど、半年もすれば臆面もなくamazonプライムビデオで配信されるのであろう。われわれはそれをありがたがって見るのだろう。だって「カスタマー・セントリック」の会社だから。