「わたしたちの物語」ラストマイル しらこさんの映画レビュー(感想・評価)
わたしたちの物語
エレナが犯人かもしれないというミスリードを素直に信じてしまい「主人公が犯人なんて面白い!しかもこんなに早い段階でそれをバラすなんて斬新!ここから彼女を追い詰める展開になるのかな?」と思う反面、彼女を憎みたくないという感情が生まれていることに気付きました。
明るいけれど物腰はキツめで、直属の上司にいたら私ならちょっと心が折れてしまいそうな典型的な管理職。
ベタな悪役にしやすい設定ですが、現代の社会問題を取り扱うことに長けた野木亜紀子作品の登場人物がそんな単純なキャラ造詣だと拍子抜けしてしまうでしょう。
エレナが被害者(真犯人)に対して言った「可哀想だけど知らない人」この台詞がグサッと刺さったんです。
なんて酷い事を言うんだとは全く思いませんでした。何故なら私も同じ立場だったらそう考えるだろうなと思ったからです。
知らない人が亡くなっても悲しくない。遠い遠い国で戦争が起きてても悲しくない。
何故ならこの物流センターの中だけが自分の箱庭だから。
私はブルーカラーもホワイトカラーも経験があります。
肉体労働をしていた時は体力的金銭的に辛く、終わりのないマラソンをしているような感覚でした。あのままでは私も「やっちゃん」になっていたことでしょう。
中間管理職の今は責任に押し潰されそうで、全てを捨てて逃げたくなるときもあります。
自分がエレナの立場だったらと考えると、作中よりもずっと愚かな行動を起こしている気がします。
来年もブラックフライデーはあるし、本社からは今回損なった利益を上乗せした無茶な施策も打ち出されることでしょう。
そのとき、センターを任されたコウと五十嵐がどうするのか私達は分かりません。
エレナが最後、退職というかたちで逃げることができて良かった。羊急便のストが(ひとまずは)成功して良かった。
なぜなら我々もその道が残されているから。
ヤバくなったら逃げる。私は山崎ではなくエレナでありたいし、世界中で働いている人達にそう訴えている作品だと思っています。