「真面目な日本人ドライバー」ラストマイル みみみさんの映画レビュー(感想・評価)
真面目な日本人ドライバー
真面目で刀を抜けない日本人。主人公の女性はそれが淡く出された女性で、海外らしさがありながらも、出自が日本であることを拭えないようなキャラクターでした。
物語としては大手物流会社から始まりますが、大手から顧客まで繋がる作品ですので、物流会社だけではなくその他の会社でも当てはまる内容です。
野木亜紀子さんが書かれたアンナチュラルでは『幸せのはちみつケーキ』の回がありましたが、それと似たものをよく感じます。(異なる点としては、死因が意図的か意図的じゃないかのところで、これがそれぞれの物語のメッセージ性に繋がります。)
事件があったことにより一度はベルトコンベアーも止まりましたが、解決すれば元に戻ります。
元に戻った際、退職した主人公とは違って、会社に残る人間たちは何を思うのか、0という文字を見た人間は自身もそうならないようにとまた気を負ってしまい負の連鎖になるのか。
主人公が八木に言った「嫌なら止めちゃえばいい」というセリフは、止めるだけではなく、辞めるともかかっていたのでしょう。
己を犠牲にした山崎にも直接言いたくなるような、もしくは今後こうなってしまうかもしれない方々へのメッセージとして強く感じます。
飛び降り自殺は、失敗してしまい植物状態になる事例も多くあり、自殺の成功ではなく失敗を描くことで、よりリアルさが出ます。
エンドロールには相談センターの綴りもあり、閉鎖的になっている日本で働いている私たちへのメッセージでもあったと思います。
気丈に振る舞う彼等も、心の奥や頭の中では山崎の思考と似たものがあるかもしれません。
権力を持つこと自体は悪なのではなく、それをどう行使するのかによってそれぞれ物の見方が変わります。
主人公は度々海外と日本を比べるセリフを吐きますが、委託ドライバーのキャラクターを見て思い出したのは、SNS上でよく共有される海外と日本ドライバーの荷物の置き方の対比動画です。
海外ではドライバーが荷物を玄関に向かって投げたり、踏んでしまうも謝りもなく去ってしまう光景があり、それを防ぐために玄関にドリンクや食べ物を置いて改善されたという動画が拡散されました。
日本のドライバーはドリンクや食べ物が玄関に置かれなくとも商品を丁寧に届けるのがほとんどです。
この日本人の真面目な部分が映画ではよく映し出され、それと伴い委託ドライバーは雨が降る中傘もささず、荷物が落ちないようにバランスを取りながらもインターホンを押す部分がありました。
必要のない自己犠牲の元に成り立つ仕事は真面目な日本人がよく映し出され、またドライバーとしてプライドのある人間像として受け取りました。
1時間ある休憩を30分にし俊敏な配送をすることは、傘もささず雨に濡れる中荷物を抱えることは、仕事を止めるため自ら飛び降りることは必要なのでしょうか。
必要のない自己犠牲を、自身で認識することが大事なのではないでしょうか。
人の命を犠牲にして成り立つ仕事は、もはや戦争と何ら変わらないのではないでしょうか。
序盤で張られた伏線がよく回収されていたと感じます。
ストーリーの舞台を複数当てたことで、異なる立場、経歴の人たちが移されるため、観客がストーリーの社会背景や空間をうまく認識できる作品でした。