「資本主義のベルトコンベアの先は…」ラストマイル しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
資本主義のベルトコンベアの先は…
通常スクリーンで鑑賞。
ユニバース関連作は視聴済み。
監督・塚原あゆ子×脚本・野木亜紀子―ハズレ無しの布陣による社会派エンタメの良作である。日常に深く食い込んでいる「物流」が迎える危機は、ネット通販が普及した今、実際に起こり得そうなリアリティーがあり、かなりゾッとさせられた。
クリックひとつで、品物が家に届く。翌日配達、時間指定が当たり前で、置き配はなんとなく不安だし、もしその時間に家にいなければ再配達をスマホでポチッと依頼すれば良い。
配達員の人手不足やブラックな体質が社会問題として挙げられる昨今、その現状を生み出しているのはカスタマーではないかと云う視点は、かなりハッとさせられるものがあった。
「全てはお客様のために」に秘められた「マジックワード」に関する話が登場していたが、そこに書かれてある「お客様」側にもしっかりと警鐘を鳴らす脚本の巧みさに唸らされた。
普段なら、配達員の方たちに感謝はすれどそのご苦労を「大変な仕事だなぁ…」くらいにしか捉えられていなかったが、本作を観た後では、なんとか負担を減らす方策はないものかと考え込んでしまった。名案を思いつくことは出来なかったが…
しかしそれでも、私はきっとネット通販をするし、止められないと思う。人間の欲望が尽きないのと同じで、負の連鎖は終わらない。この事実が歯痒く、心に重くのしかかった。
理不尽がまかり通る社会への批判と問題提起の姿勢の点において、本作は「アンナチュラル」や「MIU404」の延長線上なんだなと、同一世界観だからこそのテーマ性も良かった。
物流業界の抱える闇が徐徐に明らかになっていき、事件の裏側が見え始めた途端、言いようの無い苦しさに襲われた。
ベルトコンベアに例えられる資本主義のシステムが何を齎しているのか、誰かを幸せにしているかと痛烈に突きつける。
山崎佑の残した問い掛けの中に持たされている余白が、観る者に解釈を促していて、本当に良質なエンタメだと感じた。
斯く言う私も社会人のひとりとして、単に歯車に組み込まれた存在かもしれない。だからこそ、仕事に誇りを持ちたい。
そして、誠実に仕事をしたいと思った。簡単なことでは無いかもしれないが、それがいつか誰かのためになると信じて。
(宅配ドライバーの息子のつくっていた頑丈な洗濯機が、親子の危機を救う展開に、感動の涙を禁じ得なかった。)
[余談]
大きく謳われている「シェアード・ユニバース・ムービー」としての楽しみや仕掛けが随所に施されており、「アンナチュラル」や「MIU404」のファンなら興奮必至だろう。
アンナチュやMIUのキャラも顔見せ程度ではなく役割りがしっかりあったし、ドラマから時間を経たゲスト・キャラのその後がさりげなく描かれていることにも胸が熱くなった。
みかずきです
本作、すべてはお客様のためにという企業理念が重要なキーワードだと感じました。
お客様=ユーザーのニーズを先取りして物流システムを進化させているみたいな言葉ですが、ユーザーニーズって実体が曖昧でユーザーによってニーズは異なると思います。
巨大ショッピングサイトのアイデア、提案、シーズと言っても良いかもしれませんが、それに、客を巧く誘導して利益を追求しているように感じます。
仰る様に、では、どうするかですが、ここまでユーザーにとって便利な物流システムが出来ると、ユーザーも抗うのは厳しいですね。
原点に返って、ユーザーとして出来ることを実行するしかないですね。
①本当に欲しい物品は何かを明確にすること。
③どうしても緊急に欲しいものとそうでないものを層別する。
②嗜好品、不要不急の物品は宅配サービスを利用しない。
本作の物流システムで、懸命に働いている人達が報われる日が到来して欲しいです。企業は人なりですから。長文で失礼しました。
ー以上ー
共感ありがとうございます。
早く機械を再開させろ! と探していた責任者が飛び降りていた、救急車を待つ眼の前で動きだすベルト、どんどん効率数値が上がっていく、一連のディーン絡みの部分が絶望的でした。